第20話 敵は隣国の大物です!
一日目は、何事もなく過ぎていった。近くの村で一晩泊めてもらう。
「さっきの話だが、本当なのか?」
「はい」
何らかの事故で焼け残った寺院から、わたしは拾われたとだけ聞いている。
「キミには、キエフと因縁があるらしいね」
「さあ、分かりませんが」
「失礼だが、盗賊ってのは、何者か分かるか?」
夕食時、ソランジュさんが村人に盗賊のことを聞き出す。
「ありゃあ、シングニア国の国境から来ているだす」
シングニア王国は、クテイから独立し、敵対している小さな国だ。クテイとキエフの間、北西にある山岳地帯である。作物も育ちにくい土地で、まさに陸の孤島と言ってもよかった。両国が組むのを阻止しようとしていたらしい。
「中でも、タンドック男爵夫人が妙な動きをしてますだ。クテイの秘宝を求めているだとか」
「その男爵夫人というのは?」
「シングニアの実力者ですだ。ダンナは死んで未亡人になっていますです。が、夫人は未だに強い力を持ってますだ。ヘタすりゃシングニア本国の王様より、発言権がありますだよ」
男爵夫人レベルの女性が、国王より地位が高いとは。
「なんでも、夫人は魔物と手を組んだというウワサまでありますだ」
「そうか。貴重な情報をありがとう」
村人たちに礼を言い、ソランジュさんは夕飯代を奮発する。
「ソランジュさん」
魔物か。魔王が死に、おとなしくなったと聞くが。
「私の住処も、魔獣の攻撃を受けるところだった。かなり気にしていた方がいいかも知れない」
その日は、早く休むことに。
二日目の朝を迎えた。あと半日もあれば、クテイにたどり着けるだろう。
クテイまでもう少しというところで、わたしたちは盗賊に囲まれた。
素肌にジャケットを羽織った小太りの男が、指揮を執っている。彼が頭目だろう。
「有り金全部置いていきな!」
頭目が蛮刀を舐めながら、いかにも悪党然とした言葉を吐く。
乗客と御者は縛られ、リッコとソランジュも、馬車の側面で諸手を挙げている。
御者のいないタイプの馬車がよかった。巻き込まなくて済んだから。
「どうして、降伏しちゃったんです?」
わたしは、稽古着姿である。「ヨロイは付けるな」と言われた。命令は盗賊からではなく、ソランジュさんから。なぜだろう、とずっと考えている。
「降伏するフリをして、今は無抵抗を決めよう。五〇人か。結構な数だが、やれるか?」
「丸腰でやれと?」
「そうだ。できそうか? 武器が必要なら、賊から取り上げて使うんだ」
効率は悪い。だが、相手を油断させるためだ。その方がよさそうである。
「やってみます。じゃあ、ソランジュさんは他の方々を守ってください」
「お安いご用だ」
「では、行きます!」
盗賊からは、いきなり馬車の護衛が一人、消えたと思ったことだろう。
リッコは最初、人質を取っている盗賊五人の腹に一撃を食らわせた。
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