第二章 魔女さんと二人旅なのに、トラブル続出ですか!?

第18話 壮絶な昔話です!

 寄り合い馬車に乗って、ワーンスから南東にあるクテイへ向かう。馬車の数は三台だ。最後尾の二台には、クテイへ運ぶ資材が入っている。


 わたしたちは、先頭を進むホロなし馬車の荷台に乗っていた。


 荷台にもたれながら、ソランジュさんが辺りを見渡す。


「ホントは、イグルにでも乗っていれば、一晩で着くんだけどね」


「イグルちゃんって、乗れるんですか?」


「乗ろうと思えば。けど、あの子は野生が好きだからね。ほったらかしにしているんだ」


 それに、とソランジュさんは付け加えた。


「この旅は、護衛任務も兼ねている。リッコ、警戒を怠らないようにしよう」


「はい」


 わたしは背筋を伸ばす。


 こんなのんびりした旅は、久しぶりだ。


 しかし、油断はできない。クテイまでの道のりには、盗賊が出る。その退治を、わたしたちは依頼されているのだ。


「まあ、そこまで気張らずに。ゆったり行こう」


 そういわれても、リッコはソワソワしてしまう。いつどこで襲われるか、わかったものではない。


 自分たちは自衛できるが、馬車には小さな子どもだって乗っているのだ。襲われたら大変である。


「ほれ」


 ソランジュさんが、おやつのナッツを数粒、投げてきた。


 わたしは、口でキャッチする。


 そばにいた子どもが、キャッキャと喜んだ。


「ありがとうございます」


 バリボリと音を立てて、わたしはナッツを噛む。


「いいさ。キミには、私の依頼も手伝ってもらうんだからな」


「宝探し、ですよね?」


 遙か昔に地中へと沈んだという、クテイの秘宝。


「君の話は聞いたから、私の話をしよう。『真紅の魔女』の誕生秘話だよ」


「昔から強くてみんなの憧れだったんですか?」


「いいや。当初の私は最下層の貧民で、エルフ族の中でも最弱さったよ」


 一〇〇年前、ソランジュさんは弱いダークエルフだったそうだ。


 えっ、とわたしは絶句する。


「驚きです。今のソランジュさんからは、想像もできません」


「本当さ。エルフの里で、私は下働きをしている身分だったんだよ」


 普通のエルフに比べ、魔族の血を引くダークエルフは身分が低い。不貞の子として、ソランジュさんは肩身の狭い思いをしたという。


「一五歳の頃だ。私を救ってくれた人物がいた。魔王だよ」


「そ、そんな話を往来でしていいんですか?」


「構わないさ。『原語認識の阻害』魔法を周辺に掛けている」


 わたしたちの会話は、馬車の人たちには『恋バナ』として聞こえているという。


「えらい場違いなチョイスですね」


「話を戻そう。私は魔王にスカウトされ、村を離れることとなった」


 エルフの里を抜けるとき、魔方陣を描く訓練用の石盤を、バカにしてきたライバルの顔面に叩き付けてやったらしい。


「光になった『pedicabo《く》 ego《た》 vos《ば》 omnes《れ》』という文字が、ライバルの歯と共に飛び散ったのを、よーく覚えているよ」


「あ、あはは……これ、笑っていいんでしょうか」


 これは、周りからスルと「恋バナ」なんだ。バカ笑いするソランジュさんに合わせてみたが。


「とにかく、その後は魔王の元で訓練をして、強くなっていった。二年もしないうちに、上位魔族など相手にならないほどになっていったさ」


 魔王からすれば、ソランジュはタダのいち兵隊候補と認識していたかも知れない。それでも、現状を抜け出せるならば。そんな気持ちで、ソランジュさんは必死に己を鍛えたという。


「そのうち身体まで要求してくるようになってな。いわゆる愛人だ。といっても、相手も女だったが。いわゆる両性具有というヤツだね」


 だから、同性間のヒメゴトに抵抗がなかったのか。


 わたしは身震いした。


「私は、ありとあらゆる魔王の命令に従った。抱くぞと言われれば足を開き、殺せと言われたら殺した」


「ひょっとして、人も」


「ああ、何人かは手に掛けたと思う。もう覚えていないけどね」



 そんな壮絶な過去が。


「しかし、私にもヤキが回った。人に負けたんだ」

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