第17話 ここから先は、私の時間だ(ソランジュサイド

 リッコが寝静まったのを確認し、ソランジュは着替えた。


 古き友人の住む都からの頼りを改め、街へと繰り出す。


「さて、私もデザートタイムと行くか」


 ソランジュには、まだやるべきことがあった。魔物共に、ペットを穢された落とし前を付けてもらう必要が。


 リッコに告げると、彼女も同行する可能性がある。だが、これは飼い主がすべき義務だ。新しい装備の試運転もしておきたい。


 街を出て、森とは反対方向の山へ。


 リッコは、ブドウに仕込んだ睡眠魔法で眠らせた。今はまだ、ソランジュのダーティな一面を見せるときではない。


 それにしても、かなり大量に食わせないと寝てくれなかった。


 ゾウでさえ、一口食べると寝てしまうほどの魔法なのに。


 リッコの神経が過敏なのか、元々の体格的な強靭さゆえか。



「ここだな」


 魔物の気配を辿り、洞窟を発見する。


「ノコノコ来タカ、魔女メ!」


「フン。身の程を知らぬ下級魔獣共が」


 鋭い角を持つ大型の魔獣たちが、ソランジュに殺到した。


「舐メラレタモノダ。我々ニ単身デ挑ミニ来ルトハ」


 魔物の数に臆さず、ソランジュはキャンディケインの先を向け、魔法を「撃つ」。「放つ」のではなく。


 心臓を射貫かれ、一体の魔獣が灰と化す。


「貴様らなど、髪の毛一本でも倒せるよ」


「コノ威力ハ、魔法ダケノ能力デハナイ」


 ステッキを握りながら、杖の先を魔獣たちに向けた。


「その通り。これは『銃』だ。杖としての役割を兼ねているがね」


 なおも襲いかかる魔獣の頬をソランジュはステッキで殴り、消滅させる。囲まれたら、ステッキを振ってカマイタチの魔法を発動させた。


 打撃、魔法、銃撃、すべてステッキで賄えるとは。


「ほほう、便利だな。杖を銃に変更することで、ここまで使い勝手がよくなるとは」


 どうして、今まで考えつかなかったのか。やはり引きこもっていては、情報が古くなる。今後は積極的に外出した方が、知恵が回るというもの。


 こんな兵隊以下の魔獣を倒しても、所詮は暇つぶしにもならない。腹ごなしの運動にいいかと思ったのだが。


「調子ニ乗ルナヨ、魔女ォ!」


 一際巨大な魔獣が、洞窟の奥からノシノシとこちらに歩いてきた。おそらく、リッコが倒したのはコレの片割れだろう。角の特徴が一致している。


 ステッキが、反応した。


 同じ種族の角で、ソランジュはステッキを作っている。


「ムザムザト殺サレニ来タ、哀レナ魔女、死スベシ!」


 魔獣が吠える。


「どうして私が、お前らの角で武器を作ったか分かるか?」


「コノ場所ヲ知ルタメダロ!」


 自分を狙う輩を探し出すため、ソランジュはあえて魔獣の角を素材にした。魔獣にしては頭が回るらしい。


「それもあるが。半分正解だね。もう半分は、お前をイグルに食わせるためさ」


 直後、魔獣の頭から先がなくなった。


 白き狼が、大型魔獣の頭を咥えている。


「イグル、あとはお前のエサにしようか」


 不敵な笑みを、イグルが浮かべたように見えた。


 その後は惨劇である。ほとんどの魔獣が、イグルの胃袋へ。


 あまりの地獄絵図に、小型の魔物たちが逃げ出した。


 しかし、イグルは分身の術を使う。一体も残さず捕獲した。


「キレているのは私じゃない。イグルの方なんだからね」


 イグルは弱った相手をいたぶっていたぶってズタズタにした後、もっとも死ににくい部位からかじっていく。悲鳴もエサにするかのように。


「待て。そいつは生かせ」


 ソランジュは、群れからはぐれた一匹だけ見逃す。


「お前はメッセンジャーだ。貴様らのボスに伝えろ。魔女の領域を踏み荒らした借りは、必ず返す、とな」


 仲間を見捨て、魔獣は逃げ去っていった。


 この魔獣共を操ってソランジュの居場所をかぎつけようとしていた節がある。その過程で、イグルが狙われた。ここを襲撃したのも、イグルのストレスを解消させるためである。これで、この地一帯も安心だ。


 それにしても、大型魔獣のレベルは相当高いはず。ワーンスの冒険者全員をかき集めても、討伐は困難だろう。


 リッコ・タテバヤシ。あの子は、何者なんだ?

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