第14話 ごちそうです!

 適当に宿屋を手配し、着替えを済ませる。ヨロイ以外の服を着るのが、こんなに楽しいなんて。長い冒険者生活にすっかり毒されていた。


 いつも食べている大衆酒場より、少し高めの店で夕飯だ。服を買っておいてよかったかも知れない。


「なんでも好きなモノを頼みたまえ。私も好き勝手に食べるから」


 ソランジュさんがそう言ってくれる。


 だが、緊張で水にすら手を付けられない。わたしは「じゃあ、遠慮なく」といいつつ、ちょうどいい値段の品を二、三程度選ぶ。


「おいおいリッコ、仲間に遠慮するなよ。仮にもキミは、私の仲間なんだ。これじゃあ、私が気を遣ってしまう」


「お金の貸し借りはナシにしたいな、って」


 わたしは、メニューで顔を隠す。


「なるほど。分かった。今日だけは私に奢らせてくれ。次回はキミが出す。それでいいかな?」


「はい。それなら遠慮しません」


 変に断るのも、失礼だ。高い料理をオーダーする。


 ソランジュさんは、この店で一番高いワインを頼んだ。


「酒は飲まないんだな?」


 グラスを渡されたが、わたしは断った。


「匂いがダメで」


 ジャンジャーエールで、ノドを潤す。わたしは元服している。もう大人なので、酒は飲んで大丈夫だ。聖騎士に飲酒の戒律もない。だが、一口飲んだだけで頭痛に悩まされる。体質的に合わないらしい。


「甘い飲み物なんて、料理に合うのか?」


「平気です。甘いものスキなので。あ、すいません。同じものをもう一杯」


 通りかかった店員に、声をかける。飲めない代わりに、ジンジャーエールを何杯もおかわりした。


「その意気だ。じゃんじゃんやってくれ」


 見たこともない料理で、テーブルが埋め尽くされる。


 適当に頼んでしまったのを後悔した。しかし、どれもこれもうまい。フォークが止まらなかった。


「このお魚、おいしいです!」


 フォークに刺さったままの切り身を、ソランジュさんに見せびらかす。


「いただこう」


 なぜか、ソランジュさんは身をのりだした。わたしのフォークに刺さった切り身に、パクつく。


「あーっ!」


 あんまりだ。人が食べようとしているのを横取りするなんて。


「ふむふむ、北方のサバだね。脂がのっていて濃厚な味わいだ」


 ワインと一緒に、ソランジュは人からかっさらったツマミを味わう。


「そういうんじゃなくて! 人のフォークから食べます、普通?」


「構わないだろ。同じサバだ」


「同じですけど!」


 納得いかない。


「ただ、ここで食べられるってコトは、缶詰なんだろうけど」


「カンヅメ? 瓶詰めなら、冒険者学校でも出ましたが」


 わたしは、パンを口へ詰め込んだ。


「柔らかい金属の筒に、食材を入れて密封する保存方法さ」


「そんなことが、れきるんれふね!」


 ソランジュから、「食べながらしゃべるな」と注意される。


「クテイ地方の錬金術を応用したものさ」


 聞いたことがある。無から黄金を作り出す技術だとか。

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