第13話 着せ替え人形じゃないんですが!?

「申し訳ございません。お客様の私的な事情を」


「いえいえ、どれも素敵なお召し物ですね。着るのが楽しみです」


 暗いムードになりそうだったので、話題を変えた。


「ぜひご試着下さい。では」


 店員を待っている間に、わたしたちは店のモノを物色する。


「どれもこれもカワイイですね」


「ふむ。普段使いの服にはもってこいだな」


 こういうときは、さすがの魔女さんも単なる女子のような表情になるのだなぁ。


「何だリッコ? 私が洋服を物色する姿は変かな?」


「いえ」と、わたしはソランジュさんから視線をそらす。危ない危ない。心を読まれそう。


「私がそこらへんの女子のように、キラキラした目で服を探すのがそんなに珍しいか?」


 読まれていたーっ!


「違います違う違う」


 わたしは、慌てて取り繕う。


「で、でもぉ、服を着るにはヨロイを外さなきゃですよねぇ」


 慌てて、わたしは話題をそらした。


「心配ない」


 なぜか、ソランジュさんはヒモ製のベルトだけを真っ先に買う。


「わたしにですか?」


 ソランジュさんは、わたしにベルトの寸法を合わせた。


「バックルを作って、と」


 続けてソランジュさんは、手持ちのアイテムと買ったベルトを融合させる。できあがったのは、楕円形のバックルだ。


 ソランジュさんに腕を引かれ、更衣室へと連れて行かれる。


「あの、まだ買うとは」


 わたしの静止も聞かず、ソランジュさんはヨロイにベルトを装着させた。ヨロイに合ったデザインだが、サイズが合っていない。


「まずは、その格好ではいられなくなってもらう」


 館で行ったように、ソランジュさんは指を鳴らした。今度は更衣室の外に、二回である。


 外に立てかけていたヨロイが、バックルの中に収まった。


「あの、ヨロイが消えてしまいました!」


 これでは、街を歩くコトもできない。顔を見られながらだと、わたしは外で出ることも難しくなる。


「慌てるな。バックルを横に撫でてみろ」


 言われたとおり、バックルをスッと撫でてみた。


 再び、銀のヨロイがわたしの身を包む。今度は、ちゃんとベルトがヨロイと融合していた。


「おーっ」


 思わず、笑い声が出てしまう。


「インナーアーマーも、バッチリです。さっきまで、スカートをはいていたのに」


「物質が変換されて、服のほうがバックルに収まったのだ」


「もう一度バックルを触ってみろ」と言うので、試す。再びヨロイが、バックルの中に収まった。質量とかどうなっているのか。


「そういうワケで、服を着る際の無駄な動きは軽減された。安心するがいい。そうだ。お前のファッションセンスを知っておきたい。今度は、自分で選んでみろ」


 ソランジュさんの機転により、心置きなく服を選んだ。


「明るめの色が好きなんだな」


「服の色が暗いと、心まで暗くなりそうなんです」


 ネガティブ思考なので、せめて外見はパッとした方がいいかなと思ったのである。結果、無難な白ばかり選んでしまう。


「浴衣まであるんですね?」


 着物なんて、いつ以来だろうか?


「ショートパンツルックもいいな」


 ソランジュさんは、肌の見える洋服を着せたがった。だが、もっとおとなしい服がいい。


 パフスリーブの白いシャツに、辛子色のスカートを合わせてみる。


「いいんじゃないか?」


「これにします」


 わたし自身も気に入った。


 この日、が買ったものは、普段着と寝間着、よそ行きのワンピースである。


「せっかくだからペアルックなんて」


「いらん」


 秒で断られた。


「こっちのペアルックならゆるそう」


 ソランジュさんは、わたしにスケスケのランジェリーを見せてくる。


「結構です」


 わたしは、秒でお断りした。


 めったなことは言うものではない。

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