第12話 おめかしです!

 値段がお手頃な洋服店を見つけた。


「ひっ……いらっしゃいませ」


 やや引き気味で、店員が頭を下げる。いきなり、全身ヨロイ姿の女が入ってきたせいだろう。店員の顔が引きつっている。


「我々は、怪しい者ではない。服を買いに来たのだ」


「そうです。よろしく」


 ヨロイ姿のまま、わたしは頭を下げた。カブトが脱げて、慌てて手に取る。


 長年の鍛錬で、音を立てずにヨロイ姿のまま歩くことには長けていた。しかし、インパクトまでは消せない。


 唐突に、ソランジュさんが指を鳴らす。


 わたしのカブトが、ひとりでに脱げてしまった。インナースーツ姿になる。


「ひいいっ、人の目がありますぅ」


 とっさに、わたしは手で身体を隠す。


「よさんか、みっともない。ほれ」


 わたし両手首を、ソランジュが掴む。


「もっと顔を見せんか。顔を隠されては、何が似合うか分からないではないか」


 目一杯、ソランジュに腕を広げられた。


 店員と目が合ってしまう。


「何かお探しですか?」


「あばあばば」


 緊張して、思わず赤ん坊のような口調になった。


「騒がしくて済まない。この子に見合う服を見繕ってくれ。あと、私の分も」


 慣れた様子で、ソランジュさんは店員に指示を出す。


「かしこまりました。こちらなんていかがでしょう?」


「助かる。すぐに買おう」


 いいとも悪いとも言わず、ソランジュさんはわたしに服を着せた? 下着姿のわたしに、手頃な服を着せておくのが目的だったみたい。


「ほら、試着室に入れ。下着も見繕ってやるから」


「悪いですよ」


「お前の衣装代くらい、こちらで手配する。お前が私の代わりに受けた依頼の報酬に比べたら、安いもんだ」


 下着どころか、わたしはいろいろな服を買ってもらった。


「お待たせしました」


 店員が、試着室に入ってくる。何着かの洋服と、スカートを用意してくれた。


「ふわあ、ありがとうございます。スカートなんて、冒険者学校の制服以来ですよ」


 町娘風の衣装なんて、初めて着た。久しぶりにスカートを身につける。こういうものだったなと思い出すまで、結構な時間が掛かった。


 いつも戦闘のことを気にしてズボンか短パンだったから、女っ気がないって師匠にも言われたっけ。


「生地から縫わなくてもいい時代に、なったんだな。ドレスは生地から作ることになるから、今は用意できん」


「構いませんよ! そこまでされたら、わたしは一生タダ働きです」


 魔女さんって、見た目と違って結構昔から生きているのだな。そんなことを言ったら、怒られるけど。


「そちらのお客様は、東洋のお生まれですか?」


 黒髪と茶色い目の色で、判断したか。


「はい。父が東洋人だったらしく」


「らしい? どういうことだ、リッコ?」


 店員に代わって、ソランジュさんが尋ねてきた。


「父らしい人は、なくなったそうで」


 師匠がわたしを拾ったとき、父らしき人物がわたしを抱えていたらしい。 


「その男性は、東洋人だったんですって」


『彼女はリッコという。私の娘だ。この子を頼む』と。

 母の生まれた国で『豊かに育つ』という意味だとか。


「東洋風の男性は、師にわたしを託したあと、安心して息絶えたそうです」


 まだ赤ん坊だったわたしは、師匠によって育てられたのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る