第10話 旅支度です!

「わーい。ではさっそく」


 元気になったわたしは、さっそくヨロイを着け直す。


「現金な子だねぇ」


 ソランジュさんは、わたしが取ってきた魔獣の角を握り混む。他にも、ヒゲの商人が運んできた銀色のカギを角に取り付けた。


「あとは武器か」


 ベッド脇のタンスから、ソランジュさんが仰々しいサーベルを掴む。随分と使い込んでいるように見えた。


「やはり、愛用品だけあって、手に馴染む。でも、これでは雰囲気が出ないな。魔法使い! って感じがしない。潰して素材行きだな」


 どうもソランジュさん、サーベルはお気に召さない様子である。実用性より、気分で装備品を選ぶ性格らしい。


「いいんですか、ソランジュさん?」


「ソロプレイなら、サーベルがベストさ。だけど、キミがパーティにいるからね。後方の支援に回るよ。それにふさわしい武器が欲しい」


 最後に、ソランジュさんはベッドへ移る。


「よし、こんなもんかな」


 指輪にするには大きすぎるルビーを、ソランジュさんはベッド脇の宝石箱から取り出す。これらを集めて、角に魔力を込める。


「どうするので?」


「武器を作るのさ。よく見ておきなさい」


 角はみるみる変形し、丸形グリップのステッキへと変形した。見た目は大きなキャンディケインを思わせる。ステッキの持ち手には銀細工が施されており、ルビーがグリップの先に埋め込まれていた。


「すごい、アイテムが変形しました。どういう仕組みなんですか?」


「マジック・アイテムを最適化したんだ。これも錬金術のさせる技さ。ご感想は?」


「カワイイです」


 キャンディケイン型のステッキを振り回す大人の女性なんて、実にメルヘンチックではないか。


「そ、そうか……」


 どうやら、期待していた答えではなかったらしい。

一振りすると、杖からカマイタチが作動した。カマイタチはソランジュさんの周りを高速で旋回する。


「ふむ」と、ソランジュさんは納得した様子でうなずいた。


 続いてステッキの先をかざす。握りこぶし大のファイアーボールを連射し、カマイタチを相殺した。


「おー。カワイイ上に強いとか、最強ですね」


 あまりの華麗さに、わたしは手を叩く。


「カワイイかどうかは知らんが、準備もできた。よし、行こうか」


 最後に、ソランジュさんは最低限の着替えをカバンに入れる。


「ではレディ、お手をどうぞ」


 ソランジュさんが、わたしの手を握ってきた。いきなりスキンシップがフレンドリーすぎる気がするが。


「冒険者ギルドに飛ぶから、手を放すなよ」


 魔法で移動する、という意味だろう。


「そういうことですか。分かりました」


「じゃあイグル、旅に出るから留守を頼む」


 ソランジュさんが言うと、イグルはワンと吠えた。


「うれしいです。ソランジュさんがお友達になってくれて、少し世界が広がった気がします」


「だから、私は友達ではないと言っている」


「いくぞ」とソランジュさんがいうと、わたしは光に包まれた。

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