白雪姫と吸血鬼

あんどこいぢ

白雪姫と吸血鬼

「白雪姫の髪、ピアノの黒鍵にも使われる黒檀のような黒なんだそうだよ。ちなにに唇と頬は血のような赤。いいかい? 血のような赤だ。でも肌は雪のような白で……。美人ではあるんだろうけど、なんか吸血鬼じみてないかい? さらに魔女役の継母、あるいは母との関係にしたって、いづれ白雪姫自身がその立場になり、容色も衰え、と、物語全体のループ構造もはっきりしてるんだ。で、その必然を堰き止めるためには? 先に指摘した吸血鬼的要素は? なんだ、白雪姫って、女吸血鬼カーミラの原型なんじゃないのか? 棺ん中から起きあがって来るわけだしね。となるとやっぱ、ほんとのヒロインは王妃様で、カーミラにはレズビアニズムもからむから、現在一般的な設定を継承し、継母、いやいっそ義姉ってことにしとくか。女版ヒースクリフの女吸血鬼に、年増の王妃様いびらせるってのも大いにそそられる設定だけどね。そりゃ僕の個人的趣味だ。そうだ。姉を二人に分けよう。一人は残念ながらルーシー役ってことで……。これはストーカーのドラキュラのパクリ。やっぱ生け贄役は必要だよね? ヒロイン救出の前振りとしても。ならやっぱ継母も登場で、彼女にはより悲劇的な死が与えられる。こりゃいい。年増好きなうえドSな僕の趣味に合ってるし、普通の読者は、若いコが助かるほうがいいんだろうしね。じゃあ継母の熟女がゴア・シーン要員で、そしてうえの姉が、あくまで美しく、儚く……。女の子が増えて来ちゃうと、なんかシンデレラっぽくなって来ちゃうね? フロイトの解釈だと三女のシンデレラは冬を体現してて、姉二人はそれぞれ春、夏。秋がないのは古典古代の季節感の反映で、春は芽生え、夏は盛り、そして冬は老いと死で、つまりシンデレラって死を受け入れるための物語なんだってさ。結果やっぱ、吸血鬼が──リビングデッドの最高位種が──回帰して来てるってわけさ。野郎の設定はチャチャッと済まそう。まず父ちゃんと王子。そういやヴァンパイア・ハンター、でんのかな? 話が逸れた。戻そう。父ちゃんは末娘溺愛のデレデレ親父。王子も面食いのチャラ男。七人の小人はどうしよっか? 彼らドワーフだよね? この世界、ヒト以外の知的種族、いんのか? まあ吸血鬼がいんだから、小人たちはその眷属ってことで、レッサー・ヴァンパイア? いや違うな。指輪物語の挿絵でも英米のヤツは意外とエグくて。昔SFマガジンで紹介されてた。あんなドワーフならそのままドワーフでいいや。反白雪姫陣営。吸血鬼ってことにされちゃった彼女に対する人間側の陣容は? ストーカーのドラキュラじゃまさに西欧ベースの有志連合で、オランダの学者、アメリカ帰りの冒険家が、やがてその流れに加わる。ルーシー・ウェステンラ。西の光を守るためにね。でもルーシーは当時としちゃちょっと奔放過ぎる女性で、そのため罰を受け、死亡する流れに……。フェミっぽい再解釈がいろいろあるようだけど、そりゃまあ、僕が書くような話じゃないな。あとヒロインのミナがやっぱいいんだ。ドラキュラって小説は彼ら有志連合の手紙、電報、日記なんかの集積で、当時最新メカだった蝋管蓄音機から起こした文書なんかもあるわけだけど、それらの集積センターになんのが、彼女なんだ。つまり彼女、いわゆる美人秘書さんってわけさ。やっぱ落ち着きある長女がその役? ルーシーのほう、助けちゃうけどね、僕は。ほら僕、Sだしね。好きなコのほういじめちゃうんだよ。白雪姫の正体にあと一歩ってとこまで迫ったのに、そこで第三者的立ち位置から急接近して来たチャラ王子に、なんて? 王妃殺しもその手で行こっか。一見誠実そうな娘のフィアンセに……。でもやっぱ白雪姫自身によるレズ吸血シーン、欲しいな。ややたるみ気味の白い首筋に、血のように赤い唇による、死の接吻。歯を突き立てたあとあえて引き、ツーッと流れでた血を意外と厚みのある舌でペロッ、とかね? いやこりゃ、長女惨殺のシーン向きかな? 王子に緊縛されたうえその縄尻を取られ……。ああそういや、ドラキュラは闇のプリンスだけど、息がひどく腥いんだってさ。カーミラにゃそんな描写ないけどね。この話じゃやっぱ、白雪姫の息、匂わせとこっか? そのほうが犠牲者の恐怖感増すだろうし、シーン全体の残酷度も……。でも王妃様のシーンのほうを、むしろハードに決めたいんだけどね。ほら僕、繰り返しんなっけどドSなんで。おっ? ここであのドワーフたちの登場? 塩茹の肝臓のエピソードを、王妃自身の体と、小人たちの森の小屋とにシフトさせるんだ。殺しのシーンはあっさり流して、その後のシーンを、ふふっ。ふふふふふふふふっ。馬だ! お城のほうから! 裸馬っ? いや違う、馬の背に誰か括りつけられてる! 死んでる! 王妃様だ! 馬自体は白雪姫の馬だねっ? 手紙がある! 小屋の大鍋でこの女を始末しておしまいなさいっ? 始末って? 始末って? そりゃお前、細切れにして、塩茹にして、俺たちの腹ん中に全部納めちゃえってこったろうな! ヒエッ! とにかく降ろせ! いい匂いだ! お香だお香だ! 違う、ゆばりだ! ゆばりっ? 腹んとこで二つに折られ、そのうえ散々、馬の背に揺られて来たわけだからな! じゃあまりもっ? でもいい匂いだ! 早く早く! 小屋に運び込め! 裸に剥くんだ! そしてっ? いい匂いだ! いい匂いだ! 王妃様だ! ……つまり王妃の失踪により、この物語の怪異が始まるってわけだが、彼女何か、見ちゃったのかな? 白雪姫の姿が鏡に映ってないこととか……」

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