第285話 「停滞少女」
あれから10日、つまり俺が目覚めてから10日がたった。
今は開拓村の手伝いをしつつ、仲間の到着を待っている。
「そーいや、特に不自由なくこうして体を動かせるけど……」
「それはですね、私とアスタルテさまのおかげですよ!」
イリムがケモミミをぴん! とおっ立てふんぞり返る。
「大地は癒やしと豊穣を
イリムが手をかざし、俺のお腹をなでる。
……するとこんこんと元気が湧き上がってきた。
「うぉお……すげえ」
「どんなもんです!」
「もしかして、コレを?」
「ええ、師匠が寝たきりお爺ちゃんのあいだ、『
「?」
会話の後半からイリムが顔をパッと赤らめる。
それからもじもじと、尻尾を力なく左右に揺らして。
これは彼女が後ろめたいことがあるときのしぐさだ。
「なんだ? ……ははーん、介護のついでにエロいことでもしたんか」
「……はい」
「マジで!?」
ふざけて冗談をかましたら衝撃のお返事が。
イリムはますます顔を赤らめ、もはやゆでダコのようだ。
「2回……いえ5回ぐらい。その……すいません。とってもさびしくて、耐えきれなくて……つい」
「……。」
縮こまるイリムの頭をぐりぐりと撫でる。
まあ、約束破ってぶっ倒れてさびしい思いをさせた俺が悪いしな。
それに、こうして顔を真っ赤にしてそんなコトを告げる彼女は逆にご褒美です。むちゃくちゃ可愛いです。
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それから2日後、予定よりもはやくザリードゥやユーミル、みけと再開。
今は彼女ら3人でパーティを組み、交易都市の
「うん? あそこってもう掘り尽くされたんじゃ」
「最近新しい区画が発見されてですね、特に魔術師の工房などが点在しているエリアが人気になっています」
目をらんらんと輝かせるみけ。
フラメルの復興のため、彼女は知識に貪欲なのだ。
「そーいえば聞いてくださいよ! ザリードゥさんはですね……」
トカゲマンに「女子ふたりに囲まれてハーレムパーティやん」と茶化したらすぐさまみけからツッコミが入ったのだ。
どうやら、街に引きあげるたびに
まぁ、15になったばかりのみけからしたら、そーゆー生々しいのはダメだろうね。
「ザリードゥ、ああいうのは子どもの教育に……ってそうか。この世界だとみけも成人かぁ、ややこしいな」
「俺っちたちの種族は13か14で成人だけどな。師匠の世界だといくつだ?」
「20だね、18にするとかいう話もあったと思うから今は知らんけど」
「……ずいぶん遅えんだな。なに、まれびとって長命種なのか?」
「こっちの世界基準だとそうかもな」
まれびとの話題、つまりは『あの世界』の話題になりつい、とカシスを見る。
彼女も同じことを感じていたのか目が合う。
「……。」
……そう、カシスを『あの世界』へ帰すのは仲間と再会してからと決めていた。
こうして仲間も戻り、みなで話に花を咲かせ……つまりは。
彼女の『帰郷』は、彼女と別れるのは、もうすぐだということだ。
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ひさびさに【セブンズアーク】のみなが揃い、フラメル邸で夜の
明日にはカシスをあの世界へと帰す。
その送別会でもある。
開拓村に残ると決めた人びとのうち、コバヤシさんなど交流の深い人たちも招かれた。
また、明日の『帰郷』があの世界へと帰る最後のチャンスとなる。
元帝国の『転移門』、あの巨大な大鏡。
あれは一度『あの世界』へと繋いでおり、まれびとたちの最初の帰郷に使われた。
そして
もう二度と、『あの世界』へ帰ることは叶わなくなる。
開拓村のみなにもそれを伝え、再度確認した。
しかしもう、帰ると選択したのはカシスだけだった。
実は、氷の……いや『少女』にも声をかけた。
彼女はいま開拓村の、イリムと俺にあてがわれた家でお世話をしている。
アスタルテいわく見張り、監視役、必要とあれば殺せとも言われたが……。
「もうアンタは魔女じゃない。帰っても、いいんじゃないか?」
しかし少女はきっぱりと断った。
そんな資格はない、と。
彼女は現在、あの家でほぼ引きこもりのような状態だ。
だが、以前はもっと大変だったらしい。
首を吊ったり、リスカしたり、あるときなどフラメル邸のすぐ近くの海岸、断崖絶壁からダイブしたり。
構ってちゃんの自殺未遂とはわけが違う。マジモンの自殺行為だ。
しかし、なぜか毎回五体満足で助かったそうだ。
そんなことが何度もあり、俺が目覚めるころにはすべてを諦めてたように日々を過ごしていた。
彼女の事情や、まれびとの召喚の真意については彼女本人からすでに聞いている。
少女に悪意はなかったし、いろんな歯車のかみ合わせが悪かっただけとも言える。
それにどちらかというと、彼女をそそのかした【氷竜】のほうが黒幕とも言える。
でもそれを、いままで犠牲になったまれびとたちに納得してもらえるか。
でもそれを、いままで罪を犯し続けたと自責する少女が納得できるのか。
……難しいだろう。
でも、いずれは乗り越えてほしい。
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