第280話 「最古にして最強の炎」
「!?」
吹き上がる炎に目を見開いたのか、魔女の
正面から、玉座から。
殺気と冷気がいっきに突き刺さる。
だがそれを無視し、次々とチカラを火柱に叩き込む。
広間の高い高い天井を舐めるように広がった炎は、そのままぐんぐんとあたりの気温を引きあげていく。
もし、ただの広間でコレをやればたちまちあたりは火炎地獄と化すだろう。
だがここは【氷の魔女の城】、そして冬の領域。
これぐらいの焚き火でもまだまだ足りない。
「くっ、こざかしい! どこにそんな
魔女もまた、この火柱に対抗して『冬の領域』を広間に殺到させる。
こうすることで、みけへの攻撃を鈍らせることができる。
つぎつぎに流れ込む炎の精霊力、それを黒杖と自身の体へと注ぎ込む。
そのチカラの
アスタルテが築きあげ守りつづけたかの山脈。
あれは造り物でありながら長く世界に
その連なりたる山脈の、すべてのチカラを引き出している。
『焔の道』を
あれは、魔女の城に至る
「……ハッ、いいねいいね、師匠さん! いや炎の悪魔! そうでなくっちゃ面白くない!!」
ガツン! と殴りつけられるような衝撃を伴ってあたりの気温が低下する。
この巨大な火柱、『
「――がっ! ……っううう……」
一瞬、致命的な冷気を吸い込んでしまったのか、喉と肺がザクザクに切り裂かれ、口から血がこぼれる。
「師匠! いまのは……」
「大丈夫だ」
すぐ隣の『
そう。
彼女も、そして仲間もアスタルテがしっかり守っている。
俺自身も、この火柱を保っているかぎりそうそう『冬』も手出しはできない。
「……すうーっ」
炎により温めた空気をしずかに吸い込む。
そうして、ふたたび大地へと感覚を伸ばす。
――残念ながら、ここまでやってなお。
山脈のチカラを借りてなお。
氷の魔女には及ばない。
それはそうだろう。
彼女は500年、あの世界を維持してきた。
冬の、氷の、霜の世界を。
彼女は言った。
この世界でもあの世界でも、かつて星がすべて凍りついた死の時代があったと。平和な時代があったと。
彼女は、氷の魔女は、そのときの『上古の霜』を操っていると。
であるなら、俺も。
それと同じ……いやそれ以上の『炎』を従えねばならない。
下へ下へ。
地下へ地下へ。
触覚を伸ばし続ける。
土の精霊に満ちた、俺にとっては反属性となる場所を突き進む。
窒息にも似た感覚……ここは
そうして大地のチカラが満ちる場所をどんどん潜っていくと……指先がなにかに触れた。
熱く、燃え盛る。
膨大な炎のチカラに。
この星の、世界の根っこにある……この世で最も古い炎に。
◇◇◇
その異変に気づいたのは誰が最初であったか。
魔女の城にひたすらに拳を叩きつけていた
――地震? いえ、もしかしてアスタルテさまの攻撃かも……
そうして違和感はどんどんその強さを増し、もはや疑いようのないほど大地は震えに震えている。
それに伴って……なぜか気温がぐんぐんと上昇している。
――凄まじい精霊力……しかもコレは……土でもなくもちろん氷でもなく……
みけの疑問に答えるように、そこかしこから『あるもの』が吹き出した。
大地がひび割れ、盛り上がり。
そこかしこから真っ赤なマグマが。
ギラギラと照りつく溶岩、もくもくと天に伸びる黒煙。
――なっ!! これは……もしかして師匠さん!?
冬のような景色は一変。
そこかしこで白い雪原がマグマに犯されている。
触れ合うはしから蒸発し、ぶわっと爆発するように水蒸気が。
あたりはもう、マグマの赤と、湧き立つ黒煙と、蒸気の白煙により地獄のような光景だ。
みれば、空までが煙に浸されくろぐろと。
みけの足元にも、どろどろと溶岩が広がりつつある。
――まったく……やってくれましたね、師匠さん! この子に乗っていなければ大変でしたよ!
そうして気を取り直して、彼女はまた城へのボクシングを始めた。
すこしでも、ほんのすこしでも彼の助けとなるように。
◇◇◇
――なぜだ、なぜだ! 何をしやがった!?
いやわかりきってる……こいつ!!
魔女は驚きと、怒りに震えながらも正確に事態を把握していた。
周囲の天変地異、そして彼に注ぎ込む炎のチカラ。
――地殻のマントル……いや
真実そうであれば、彼は『星の誕生時の記憶』『最古にして最強の炎』を引きあげたことになる。
星の始まり、すべてが溶岩と熱と炎であった時代。
氷河期よりも、全球凍結よりも……はるかにはるかに古い、最も古い星の始まり。
――けど、私だって!
精霊の強さ、古さではもはやあちらが優るだろう。
だが、こちらは【氷の魔女】
『停滞』により肉体の時間を止め、1000年の存在年数を誇る。
『冬の領域』により、500年。人類の
その逸話、いわく、すなわち伝説がこの身をより強大なものとしている。
たかだか新参の、炎の御使い……いや【炎の悪魔】に負けるなど許されない。
現に、城内はいまだ『冬』を
まだまだヤツの『炎』に劣らぬと。
――ハッ、……つまりここが、ここからが……
魔女も、ぐっとチカラを引き締めた。
――認めてあげる。
さっきまで、アタシはアンタを敵だと思ってなかった。
いつでも潰せるアリ、ただの
でも、ようやく。
殺し合うに
◇◇◇
ここが最後の戦いになる。
ここで明暗が分かたれる。
俺の、みなの、そして世界の。
「――はぁああああああああああああ!!」
注ぎ込まれる膨大な熱量、そして情報量。
太古も太古、すべての始まりの炎がつぎつぎと殺到してくる。
炎と一緒に、なぜか記憶もつぎつぎと。
すべてが溶岩に染まった赤い大地。
どろどろのマグマの海が、えんえんと続く光景。
城の外に再現されているのはそんな最古の星の記憶だ。
それらに気を取られつつも、火柱にチカラを叩き込みつづける。
それはいつしか、広間の天井をぶち抜いていた。
天に捧げるかのごとく、
天に見せつけるかのごとく、
『竜の炎』が魔女の城から吹き上がる。
それはぐんぐんと伸び続け、ついにはそのきざはしが雲を捉えた。
見よ。
これが俺の全力の、まさしく全力全霊の……最大最強にして最後の技だ。
炎がほとばしる。
炎が吹き上がる。
手にした黒き杖のさきから、途方も無いほどの熱量が吹き上がる。
あらゆる火山の噴火よりも、あらゆる兵器の火力よりも、あらゆる神話の破壊よりも、それは軽々と超えていた。
これを真横に振り抜けば、世界を焼き尽くすことすら可能ではないか。
そう思わせるほどの凄まじい火柱……いや、
黒杖を起点に、まさに剣の柄に見立てた炎の
あちらの世界の神話において、一度世界を焼き払った
もちろん振り抜く先はただ一点、最悪にして最古のまれびとが座る玉座、氷の魔女その人である。
「来なよ師匠さん! 最後の最後……純粋に『どっちが強い』か決めようじゃないか!!」
見れば、彼女の周囲には渦を巻くように吹雪が吹き上がりカタチを取り、まるで氷の剣のよう。
それはすでに溶かされきった天井を抜け、空高く舞い上がっている。
かたや、雲を割る炎の剣。
かたや、天を突く氷の剣。
「ああ、決着をつけよう。氷の魔女」
あとはただ、これを全力でぶつけ合うのみ。
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