第262話 「いざ北方山脈へ ~もしくは異世界観光ガイド~」
赤茶けた荒野を巨大な人影……ゴーレムがどっしりとした足取りですすむ。
両腕で、そして体中にロープを巻きつけ、その後ろにはたくさんの荷車が引かれていく。
「みけー、大丈夫か?」
ゴーレムの頭部へむけ声をかける。
すると、
『『ええ。慣れてきたので、もうほとんどオート操縦にしてますね』』
「へえ……そんな機能が」
ますますロボだな。
しかしあのゴーレム、操作はわりとアナログだったはずだが。
すると脇からユーミルがひょいと顔をだす。
「……たぶん新しく術式を組んで、魔力を注ぐだけでOKにしてるんだろ」
「なるほど。さすが天才魔法少女だな」
「……ふふん。だろ? 我が妹をもっと褒めたまえよ」
ちなみに俺たちは徒歩である。
いつもの馬車も連れてきているのだが、行軍部隊のほとんどは徒歩なのだ。
そして俺たちはその先頭……まあ、ずっと馬車にこもりきりではよくないかなと。
それに、この北方荒野……かつて帝国の西方領であり、そして黒森に呑まれ滅んだ地域には魔物が多い。
単純に手つかずで人の領域でないという理由もあるが、侵食し森が引いたあとに残った
城塞都市を発って7日になるが、その間。
王国や西方諸国では考えられないほどの数の魔物と遭遇した。
「……ああいう雑魚の群れには、師匠はむちゃくちゃつえーよな」
「師匠の本領発揮ですね!」
「……そうね」
ユーミルと、そしてイリムはにこにこと嬉しそうに語る。
昨日も、突然東から大量の森ゴブリンがやってきた。
100、200ではきかない。
まるでアリの群れのように一心不乱に一直線。
荒野をひた走る津波のような塊。
――まったく問題にならなかった。
全力の『
ただそれだけで、ひとつの群れは灰と化した。
「……。」
森ゴブリン、つまりは黒森産の魔物はまだいい。
あれらは正常な生き物ではなく、魂や命があるようにはみえない。
だが、通常の魔物、獣のたぐいもたびたび遭遇する。
そのたびに、心によどみのようなものがちょっとずつ溜まっていく気がする。
「……はあ、やっぱ慣れないな」
この世界の住人は図太い。
イリムもそうだし、ユーミルもみけもそうだ。
そして傭兵や兵士たちも同じく。
圧倒的火力で魔物をなぎ払うたび、後ろの群衆から歓声が上がる。
最初は怖がられるのを恐れていたのだが……たいしたものだ。
俺が複雑な顔をしていたからか、イリムがひょい、と馬車から飛び降り抱きついてきた。
「師匠、あれっ、あれ見えますか?」
「うん?」
イリムが荒野のはて、北西の地平線を指差す。
つられて見ると……細長い黒い影が見えた。
「なんだあれ、
ここからずいぶん遠い。
ぼんやりとした影は大地から天上までまっすぐに線を引いたかのようだ。
とても人工物にはみえない。
「……師匠はほんとに、全然冒険者らしくないですね」
「えっ、なにが」
「あれはかつての帝国、そして今は北方荒野に建つ【四大ダンジョン】のひとつです!」
「あー……聞いたことあるような、無いような……」
好んで
「あんなバカ高い建造物、ありえるのか」
「【
「へーえ」
マス◯ーソードか。
それかEXなカリバーか。
「それで、その剣を引き抜くと塔が崩れるそうです。するとどうなると思います!?」
「えっ、時間制限付きの脱出イベントが始まるのか?」
あの手のミニイベントはダルいのが多かったな。
「なんと、空が落ちてくるんですよ! 世界の終わりです!」
「まじか」
ああ、だから
なんとも
しかし、これから世界の終わり案件に挑むというのに、物騒な話が増えたな。
どうかただのおとぎ話でありますように。
「師匠、いずれどうでしょうか!?」
「どうって?」
キラキラとした瞳でなにかを訴えるイリム。
その目は言っていた。
憧れはとめられねぇんだと。
「いや、ないわ」
「えええーーーーっ!!」
「私たちセブンスアークは四大のひとつ【
「まあ依頼で、人助けだったからね」
「【
「えーー……危険な場所に理由もなく行くのはないわ」
「なんと!?」
ウボウボとかスターなんちゃらとか、初めて聞いたよ。
俺はこの戦いが終わったら……しばらくは休みたい。
殺したり殺されそうになったりは、やはり好きじゃない。
弱っちかったときでも、強くなったいまでも、それはあまり変わらない。
氷の魔女との戦い。
恐らくは、彼女とも殺し合いになる。
正直キツイ。
勇者のときと同じ……同郷の者を始末しなければならないのだからなおさらだ。
・
・
・
それからさらに7日以上をかけ。
幸い、帝国時代の街道の名残か、ならされた道をひたすらすすみ。
草が茂っていれば焼き払い、魔物が来れば焼き払い。
雲の色がなまりのように黒ぐろと、
空からちらほらと小さな粉雪が。
ああ、北に来たんだなと実感するほど肌寒く。
そうして、目的である北方山脈のふもとまでたどり着いた。
「遅かったの」
「やっほー、師匠くん!」
「アスタルテ、アナトさん」
そうして、3人の竜に出迎えられた。
白き幼女の土竜、アスタルテと。
青き美女の水竜、アナトと。
「カカカッ!! 久方ぶりじゃの、まれびとよ」
彼女らのわきに鎮座した、巨大な、ティラノサウルスのような頭骨から声が響く。
かつて最強の竜であり、すべての炎を統べるものであり、俺に
火竜、【竜骨】である。
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