第261話 「海のめぐみがたっぷりです」
城塞都市へついた翌日。
城壁に取り付くように建てられた石造りの議事堂へ招かれた。
外装も、内装も豪華とは言いがたい。
それから会議室風の部屋にて、各都市の代表とあらためて顔合わせ。
交易都市からは教会の聖女であるレーテ、そして弟のマルス君。
そのとなりに居るのはたしか、教会の
「師匠さん、お久しぶりです」
「ああ、レーテも来てくれて心強いよ」
彼女は大陸でも指折りの『奇跡』の担い手だ。
持久戦が予想される北での戦いで、これほど頼もしい味方もそういないだろう。
「教会の
団長さんとマルス君とも固く握手。
ついで冒険者ギルドの役員や、商会ギルドの方々。
戦争とは、兵士や武器以外にもいろいろ人手も金もかかるのだ。
自由都市からは領主のカシェムさん。
執事のマスターさんはお留守番だそうだ。
いくら決戦とはいえ、ここは魔物もいるファンタジー世界。
街をカラにするわけにはいかない。
「まあ私が華々しく散っても、マスターならうまく息子に引き継ぎをしてくれるだろうさ」
「そんな、冗談でもやめてくださいよ」
「いやいや。街に語り継がれるのなら、元冒険者としては悪くない死に方じゃないか?」
「……うーん」
まあ、冒険者にはこういう人もままいる。
老いてベッドで死ぬなんてクソ喰らえ、それならドラゴンに挑んで死んでやる! な老年冒険者に会ったこともある。
いつまでたっても少年のような心なのだ。
お次はアスタルテが交渉した境界都市の代表さん。
「エルフと共同で作った西森産の盾。なんとか間に合いました。それに
代表さんはずいぶん若い……10代かそこらの青年だった。
なんでも、内輪揉めで10人いた代表が、半分以上アサシンしたりされたりしたそうだが……なにそれ怖い。
だが、彼の話によるとさっぱり
やっぱり怖い街だな。
だが、さらに怖い街からも代表が訪れていた。
湾口都市の町長……というか実質支配者。
彼女はリディアの友達にして、魔術師にして……まれびとである。
「やあやあ師匠さん、いや【炎の
「ええ、そうですね……」
「なんだよー、そんなかたっ苦しい口調やめようよー。おんなじ日本人じゃんさ」
「……ちょっ」
「だからさ、フランク! フランクにねっ」
一方的に手を握り、ブンブンと上下に振るセレス。
こうして間近でみてわかったが……彼女は湿度が高い。
肩まで伸びた黒髪はくせっ毛で、表情はいやに明るい。
狂気的、といってもいい。
瞳もぐるぐるのうずまき模様があるみたいで、深海に引き込まれるような不気味さがある。
「おー、ユーミルっちじゃん! おひさ、またまたレベルアップした?」
「……ああ、あんたは変わんねーな……」
「街から出ちゃうとね、信仰パワーが減っちゃうからね。街のみんなは海から離れられないし、こればっかはしょうがねえのよ」
うーーん……この人苦手だな。雰囲気が。
年は20近いと思うのだが、子どもっぽい無邪気さに満ちている。
……同時に子どもっぽい残酷さも。
「ま、兵隊は提供できないけどさ。そのぶん海産物には自信あるからね! ちょちょいとイケニエ増やしたからお魚もたくさん採れたし! 瓶詰め、干物、保存も抜群! 塩辛なんかもあるから御使いさんなんか懐かしくて泣いちゃうかも」
「……ああ、楽しみにしておくよ」
そう。
湾口都市は海産物の街。
ゆえに行軍に必要な保存食を大量に用意してくれた。
……一部、気になるワードもあるのだが、事前にユーミルから警告を受けているのでなんとか我慢する。
彼女いわく「絶対に刺激するな。ある意味リディ姉より
自陣である街から離れているからか、
俺やリディアはおろか、ユーミルよりも数段落ちる。
しかし、彼女の操る魔術……星界の邪神だかなんだかのチカラを借りる召喚術は極めて危険である。
こちらの世界の魔術と法則、術理が違うらしく『
しかし、あちらの世界からやってきた、こちらの世界にない魔術の使い手か。
……あの世界も、わりかしファンタジーだったのだ。
街の路地裏や廃工場で、夜な夜な魔術師や能力者がバトルを繰り広げてたりするんだろうか。
なかなか夢のある話である。
もしかすると【氷の魔女】も、元はそうした魔術師だったのかも。
破格の能力に、おそらくは召喚の使い手……可能性はある。
それからドワーフの王、スラールとそのお供のレイトール。
彼らは山の根の民の代表であり、ドワーフ島からはるばる、ほぼ全兵力を投入してくれた。
「自由都市はあのカシェム殿が領主です。留守のあいだに攻められる心配は皆無ですので」
「ああ、助かる」
2年前まで奴隷身分だったドワーフ達。
その王となったスラールはまだまだ指導者としては新米であるが、お供のレイトールがうまく補佐をしているそうだ。
なんでも奴隷時代、多くのものが鉱山や鍛冶働きに駆り出されていたなか、彼はその能力から傭兵として名を
亜人種として低く見られていたなか「こいつは使える」と特別に許可されていたのだ。
その逸話、そして実力からドワーフ達からの人望は厚い。
「山の根の民、そして勇者さまとリディアさまが救ってくれた岩の根の民の生き残り。これらもまとまっております」とレイトール。
彼はドワーフ部隊の隊長として、先陣を切る。
斧を双手に担ぎ、みなの先頭にたち突撃する。
【斧手】と呼ばれる、ドワーフにとってなにより
ドワーフにはかつて代表的な3部族があった。
帝国の
帝国の脅しに屈せず……結果、種族として徹底的に使い潰された土の根の民と岩の根の民。
前者は……土の根の民は、岩の根の民ほど体が頑丈ではなかった。
ひとりまたひとりと過労で倒れていき、ひとりのこらず全滅した。
最後のひとりは、帝国の書記官の目の前で溶鉱炉に投げ込まれた。
それは、この世界で唯一の『ある部族の絶滅日時』を記録するためという、
「……。」
もし、スラールがフローレス島の襲撃を断っていたら、彼も、彼の部族も、同じ道をたどっていたかもしれない。
しかし、『あの日』の光景、燃え盛るラビット村、槍に刺さったたくさんの友人……かんたんには、割り切れない。
焼き殺してやりたいと思ったこともある。
一度でなく、何度も。
……しかし、あの小さき船長カンパネラは言っていた。
船も、未来も、前に進めねばならないと。
それに、『あの日』
俺は数え切れないほどのドワーフや帝国兵と戦い、そして殺した。
それについて彼らから責められたことはない。
かつてレイトールは「戦士が戦場で死ぬるは役目です」と「死なずにすむ者の代わりに死ぬるが戦士の役目です」とはっきり告げた。
彼らも過去ではなく未来へ、来たるべき戦いへ全力で臨む。
だから、彼らはもう味方……そう、仲間なのだ。
「師匠どの、必ず勝ちましょうぞ。この大陸から『冬』を拭い去りましょうぞ」
「ああ」
戦士であるレイトールと、固く握手をかわす。
その手はごつごつとした、まるで岩から切り出したかのような手応えがあった。
まさしく山と岩と土の民、ドワーフの手であった。
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※湾口都市でのお話は、本編開始5年前のスピンオフにて……
セレスはかなり珍しい、もともと魔術師だったまれびとです。
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