幕間 「原初《はじまり》の原罪《まちがい》」

気付けば、私は『異世界』に召喚されていた。


いや……うん、たぶんそうなのだと思う。


私を取り囲む人々の姿はちょっとどうなのと思うくらい大時代コスプレ的で、いかにもな中世風。


しかも口々に「召喚に成功した!」だの「国を救う英雄だ!」だの「これが神人……稀人まれびとか!」だの。


その熱狂はちょっと怖いくらい。

はい、ぶっちゃけますと正直引きますね。


これは夢かなにかなのかな、とふわふわした気持ちで受け答えをした。

すると、最初は優しかった彼らの顔が、だんだんと厳しいものに変わっていった。


……そうして、そこからが地獄の始まりだった。


「貴様は何の異能チカラもないのか? 魔法は!? シルシは!?」


すいません魔法なんて使えませんシルシってなんですか。


「この国は魔王の脅威にさらされている! 貴様は国を救う英雄ではないのか!?」


すいません魔王とか英雄とか、私にはわかりません。


「このクズが! 役立たずが! 貴様を召喚するのにどれだけの手間と金がかかったと思ってる!?」


すいません本当に。こんな私に無駄な投資をさせたみたいで。ご期待にそえずごめんなさい。



……そうして、本当の地獄が始まった。


せめて異世界の研究の役にたてこの役立たず! と罵倒されながら血を抜かれ体のあちこちを切り取られた。


ごめんなさい許してください痛いのはいやです。



痛いの熱いの冷たいのを繰り返し試され、その悲鳴の強弱を数値化された。


ごめんなさい痛いのも熱いのも冷たいのも嫌です。私にとっては4の苦痛も9の苦痛も変わりはありません。



視力を測定された。聴力を測定された。嗅覚を測定された。それは個々の部位ごとに切り離して測定され、そのつど『奇跡』で私に返還された。


ごめんなさいごめんなさい……本当にごめんなさい。



……そんなことが、ひたすらに続いた。

ありとあらゆることが試され、ありとあらゆることが許された。それは永遠にすら感じられた。


そうして、ある日。

当然のように私は崩壊したこわれた


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ときたま、認識いしきが戻ることがある。

ふだんの私はただひたすらの『無』で、どんな感覚も記憶も覚えることはない。


いつのまにかあのいつも怒っていたり笑っていた人たちはいなくなり、代わりに緑だの青だの変わった色の人がこちらを眺めている。


その人々の真ん中の、ことさら顔色の悪いイケメンは誰だろう。

真っ青の手のひらが、私の頭を撫でている。


やめてくださいすいませんごめんなさい。

私はあなたのご期待にはそえません、だからどうかいじめないでください。


「もう大丈夫だ」と彼は口にした。

とてもとても、信じられるものではなかったけど……信じたい気持ちが少しだけ残っていた。



またある時は不思議な雰囲気のお婆さん。


「凄まじいのう! そして懐かしいのう! 精霊界か……儂らドラゴンのふるさとじゃて」


精霊とかドラゴンとか、とっても懐かしい言葉ですがやめてください。


それから、それから。


……いくつも季節がめぐり、いくつも年月が過ぎたのだろう。

そのすべてがどうでもいい。


ただただ、私に何もしないでください。

永遠に、えいえんに、すべてが止まっていてください。


そう。


時間なんて止まればいい。

季節なんて止まればいい。


私はただただ……停滞やすらぎがほしい。



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◯プチ年表


※第132話 「氷の魔女」と重複情報あり。

だいぶ前になってしまったので整理と思い出しも兼ねまして。



・1000年前

氷の魔女、魔王と対抗していた国に召喚される。

数カ月後、その国は魔王に滅ぼされる。


・700年前

ニコラス・フラメル。計算により未来を予測しトンズラをこく。


・500年前

魔王とその国、冬に呑まれる。

【氷の領域】南下開始。

土のアスタルテ、北方山脈によりこれを阻止。


以後、一部地域の侵食などありつつも現在に至る。


・現在

帝国、冬に呑まれる。

土のアスタルテ、即座に山脈を敷きこれを阻止。

この山脈は新たに【南方山脈】あるいは【最後の長城ラストウォール】と呼ばれる。


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※次章準備のため次の投稿は金曜となりますm(_ _)m

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