第247話 「アンタップ、アップキープ……」
「いまから……前衛は俺だ。こっから後ろにはただの『一歩』も歩ませない。ゆえに仲間はひとりも殺させない。全力でいくぞ……勇者」
俺の宣言を勇者はどうとったか。
にこりと、笑顔をうかべつつその色は無色であった。
「そうかそうか……わかったよ師匠さん。まずはアンタだ」
「ああ」
「まず、目を潰す。ついで四肢を落とす。それからひとりひとり殺す。……ビジュアルで見せられないのは残念だが、耳で存分に楽しんでくれ」
「そうか。傷ひとつ付けられる気もしないが」
挑発には挑発を。
敵意には敵意を。
殺意には……殺意を。
ここからは、この場は、ふたりだけの戦場である。
背後にさあぁぁっと『
「じゃあな師匠さん。わりと楽しかったぜ」
瞬間、言葉とそれによる音の振動……つまりは空間のゆらぎだけを残して勇者が『消失』した。
そう。
この……『
彼の言うところの腐った世界から去ることができる。
『
ほんのいっときだけ、この世界から離れられる……勇者からしたら願ってもないこと。
しかし、その魔法にも制限がある。
ずっとずっと、消え失せ忘れ去られた
ゆえに、『消失』はせいぜい5秒ほど。
そしてその『出現』先は……、
「――セイッ!!」
勇者が目前に現れる。現れた時点ですでにツルギを真横に振り抜いており、すぐさま俺の両目は切り裂かれるだろう。
……そのまま、剣が真っ直ぐに軌道を描けばの話だが。
ぐいっ、と勇者の剣が真下に進路を変える。
ただしく空間の道筋に従って。
「!?」
勇者はいっきにバランスを崩し、しかし即座に立て直す。
常人であれば体中の骨と筋が壊れかねない無茶な動き。
だが、勇者にとってはなんでもない。
彼の体の筋は、ただのひとつも切れてはいない。
はっきりと断言できる。
なぜなら――それを直接に『感知』できるからだ。
「――チッ、なんだ……賢者が言ってたアレか、空間魔法とかいうやつか!?」
さすが賢者、
『俯瞰』『歪曲』ともに秘中の秘だが、俺が火精と風精を操れることを知りいくつかの予想をたてていたのだろう。
そして、魔法のエキスパートの予想に
「なるほど、剣筋が曲がるっつーことはアレか。空間曲げてんのか」
「ノーコメントだ」
「ハッ」
おそらく素である笑いをこぼし、すぐさま勇者が『消失』する。
しかし、またもや『出現』地点はわかっている。
今度はななめ後ろ、剣筋は逆
俺の左足と左手首を同時に切り落とさんと、ほれぼれするほどの正確さで振るわれる『予定』のそれ。
そう。
勇者の動きは
どこを見てどこに飛びどこに現れどこを攻撃するか……すべて、すべて。
「――ハアッ!」
またもや『予測』どおり現れた勇者の攻撃を、『歪曲』でふたたびそらす。ななめの剣の軌道は、手首を折る勢いで180度進路を変え地面を割り砕いた。
「ッツツゥ!! 危ねえな!」
だが、相手も歴戦の
すばやく
だが……その動きももう読めている。
「師匠さん、アンタ……なぜ」
「……。」
なぜ、歴戦の戦士の動きについて来れるのか。そう問いたかったのだろう。
だがもちろん、答える義務はない。
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俺は風の精霊術師ではない。
風を吹かすことも、雷を起こすこともできない。
風の精霊が手を貸してくれるのはふたつだけだ。
俺の習得した空間魔法はたったのふたつだ。
だが、それをとことん極めればどうなるか。
この2ヶ月、対勇者を見越して編み出した答えがこれだ。
『
『
するとどうなるか。
1キロぶんの空間把握と同じ情報量で、10メートルを把握できる。
1メートルを移動する物体は100メートルとして観測できるし、1センチの指の動きは1メートルとして観測できる。1ミリの胸の鼓動は10センチとして観測できる。
するとどうなるか。
あらゆる筋肉や呼吸、鼓動。空気の動き、空間のゆらぎを完全に読み取れる。そして相手の動きを時間をかけトレースすることで、未来予知とよべるレベルで行動を『予測』できる。
「――チッ! またか!?」
勇者の『奇襲』を5度、ことごとく防ぎきったところで確信する。
『
防御に不足はない。
なら……ここからはこちらの
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