第235話 「赤の領域」

砂煙と土煙。

その違いはなんなのか。


命を削る戦いのなかで、ふとどうでもよい疑問が湧いてきた。


俺の攻撃はとにかく派手だ。

風精により高速回転させた自慢の螺旋剣ミキサーで、これまた風精により発生させた電気を増幅させ叩きつける。


『ギガ勇者スラッシュ』


威力も射程も申し分なく、最大出力では山を削ることすら可能。

しかし難点はコレだ。

触れた大地を問答無用で切り刻み巻き上げるため、あたりの視界が最悪になる。


「……まあ、利点のほうが大きいけどな」


煙幕、奇襲その他もろもろ。

風をはらう魔道具もあるし、周囲を感知する魔道具もある。


……だから、向こうに援軍が来たのもわかってしまった。


「……。」


『風繰り』を起動させ、いっきに周囲の粉塵をはらう。

ざぁっ、と視界が晴れていく。


そうして目の前に、前衛3人、後衛1人の『冒険者パーティ』が現れた。



「……やあ師匠さん、よく風竜から逃げ切れたな」

「ああ、かなりギリギリだった」


相手は微かに笑ったように見えたがしかし、すぐに表情を引き締め杖を構える。

それにぴったりと前衛の3人も続く。


何度もこの仲間たちで旅をしてきたのだろう。

それが見て取れるほど、完璧なまでの連携、意思疎通……なにより信頼。


「……。」


羨ましい、と思ってしまった。

俺はここまでのモノを持っていないから。


だが、そこにこの世界のニンゲンまで混じっているのは許容できない。

それだけは絶対に、絶対に。


……そういえば旅の連れスピカは今ごろどうしているのか。


紫のローブ女と2、3手やり合ったのは見た。

そのあと両者とも丘から離れるように戦場を移したため動向はわからない。


きちんと始末しているだろうか、この世界のニンゲンもどきを。

師匠さんには悪いが、そこを譲ることはできない。


「じゃあまあ、役者も揃ったところで第2ラウンドといくか」


4人の険しい視線を受け止めつつ、螺旋剣を再稼働する。

渦巻く風が刀身に宿り、その内部で蓄電が始まる。

すべてすべて、風精のチカラによるものだ。


俺は精霊術師ではない。

この世界のモノと心を通わせるなど死んでもゴメンだ。

だからあくまで俺は精霊使い。

錬金術の素養もある賢者スピカが作成した魔道具により理論的に効率的に、精霊力エネルギーを引き出し操るのだ。


……正直、同郷人は殺したくない。

だからさきほどまでは前衛のJK(にしてはだいぶ胸がデケェが)を殺さぬよう出力を抑えていたが、本物の精霊術師である師匠さん相手に手加減はできない。


躊躇えば殺される。

間違いなく。

だから一切の手加減をするな。


そう賢者からは何度も何度も念を押された。

そして彼を目の前にしてわかった。

それはまさしく正しいと。

ここからは全力をぶつけねばならないと。


「……ふう」


右手に握った螺旋剣から膨大なチカラの渦が伝わる。

まるで、台風をそのまま握りしめているかのようだ。


――これをひとたび放てば、地形が変わる。


足元の丘も、振り抜いたさきの大地もグシャグシャに撹拌かくはんされる。

あとにはひたすら真っすぐに溝が刻まれるだろう。


師匠さんならなにか手はあるかもしれない。

しかし前衛の3人は終わりだろう。


ひとりか、ふたりは生き残るかもしれない。

だがひとりは確実に死ぬ。

そうなれば勝機はいっきにこちらへ傾く。


「……。」


同郷のヤツはいままでひとりも殺したことはない。

そうなったとき、自分がさらに変わるという予感もある。

だが、もうそんなことを考える状況ではない。

ここから先は全力マックスで当たらなければ。


――そうして手にした暴風を叩きつけんと構えを変えたその瞬間、螺旋剣あいぼうはストンと回転をやめていた。

紫電も、風も消え失せる。


「――!?」


そんな俺の驚きスキを手練の冒険者が見逃すわけもなく、間髪入れずに前衛の3人が飛び込んできた。

だが、この程度の踏み込みなどなんなくかわし、捌き、また距離をとれる……つもりだった。


しかしまたもや、加速のための『風の疾靴エルブンブーツ』が起動しない。

いつもの速さが得られない。

いつもの歩法が得られない。


結果として、トカゲ男の長剣とケモミミ少女の槍の間合いから逃れられない。


「チッ!」

「――セイッ!!」


銃弾のように迫る黒槍をミリで回避し、暴風のように迫る2刀を剣でいなす。

そうしてこちらが踏み込もうとすると、今度は的確にJKが割って入る。


そんな流れるようなコンビネーションの後ろでは、じっとなにかに集中している師匠さんの姿。


「……なるほどな」


精霊を操ることはできないが、その存在を検知することはできる。

その感覚が告げている。

この場にはいっさい風の精霊が存在しないと。

なぜなら、別の存在が在り得ぬほどに敷き詰められているのだと。


「……ハッ、」


思わず笑いがもれる。

まさか氷の魔女の術を真似るとは。


どうやら、俺や賢者の予想以上に彼は【精霊術師】であったらしい。



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※投稿予定が一日ずれておりましたm(_ _)m

それと、たくさんのフォロー&ご評価頂きありがとうございます。すこしストックができたので、ひとつのシークエンスはできるだけ待たせずに投稿したい所存……。

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