第233話 「Fall Guy」
この世界の人間はもとを辿ればまれびとだった。
「…………。」
そう明かされても、なぜかそれほど驚きはなかった。
今までの旅路でも経験したことだ。
実は、まれびとだったりとか。
明らかに、あちらの世界の技術や知識が利用されていたりとか。
それが、はるか古代から行われていたというだけのこと。
そもそもヒトはヒトを驚くほど簡単に殺す。
環境や条件や時代、それこそその日の気分などによって軽々と。
目の前の青年に「同族殺し」だと
そんなのはあちらの世界でもバーゲンセールだ。
少しは動揺したが、すぐさま平然な態度になった俺が不満だったのか。
風竜は明らかにつまらないといった顔をむける。
「……なんだか拍子抜けだね」
「悪いな」
「まあ、僕ら竜は個体数も少ないし存在自体とても希少で貴重だ。だから年がら年中繁殖期のサルどもとは個々の命の重さが違いすぎる。僕ら竜からしたら同族殺しなんて考えられない。
だから、ボウフラみたいに増える君ら
「だろうな」
風竜の態度がだんだんと、落胆から不満げなものへと変わってゆく。
「……あのさ。
とっておきの秘密を教えてあげたのに、正直その反応はガッカリだよ!
ついでに君と遊ぶのも飽きてきたな。
……はあ、もういいや。次の一撃で終わりにしよう。本来、ニンゲンと
「ありがとな」
「なにがだい?」
「アンタが、長話が大好きな暇なやつで助かった」
そう言い終わるやいなや、相手に悟られぬよう己の
もちろん銃口はシャラシャラとした青年に向け、
「じゃあな」
「――ハッ、その程度の奇襲、風を司る僕に……」
と相手がまたひとり言を始めるのと、砲身をぐるりと回転させるのは同時だった。
銃口を風竜から真下の大地へと切り替える。
相棒たるリンドヴルムが『熱杭』の弾体に噛み付く。
そうして、真下へ向け『熱杭』を射出した。
「――えっ?」
という風竜の声を置き去りにして、俺とリンドヴルムは超高速で上空から離脱した。
------------
風を切り雲を裂く。
速度は体が耐えられる限界ぎりぎりで、当然のように全身が悲鳴をあげる。
……そうして、当然のように背後から風竜の姿。
緑の巨体が冗談のような速度でぐんぐんと追い上げてくる。
だが、これも想定内だ。
風のチカラをほとんど借りられぬ『熱杭』では、速度が圧倒的にパワーダウンする。
それに、これ以上の速さでは体がGに耐えられない。
今出せる速さと、さきほどまでの戦いで体感した風竜の速さ。それは後者がやや勝る。
しかし、今の俺の役割にはぴったりだ。
「――話の途中で逃げ出すのかい。それともアスタルテに泣きつくのかな? 残念! 彼女はしばらく使い物にならないよ!」
大気を切り裂く爆音に飲み込まれているはずなのに相変わらずやつの声はよく通る。
これも風の精霊としての
あいつがお喋り好きなのもそのせいかもな。
そして、そのおかげでたっぷり時間稼ぎができた。
師たるアスタルテとは師弟の契約を結んでおり、それはこの
だから、もう向こうの準備は整った、そろそろ役割交代だ……という直感は間違いではないはずだ。
――パッ、と乳白色の視界が終わった。
やっと巨大な雲海を抜けたのだろう。
眼下に広がる赤茶けた大地へぐんぐんと突き進み、ついでに四方八方から迫る紫電を『
竜のウロコによるものか、通電の痛みは一切ない。しかし、そのたびに次々と相棒のウロコが剥がれ落ちていく。
彼はそれでも、うまく体をひねり残り少なくなった竜鱗で攻撃を防いでいく。術者たる俺を守るために。
「――あと少し、あと少しだけ頑張ってくれ……」
無言でうなずく相棒。
気づけば、大地はもう目の前だった。
-----------------------
多くの作品フォロー&評価頂きまことにありがとうございますm(_ _)m
今話が短めなので、できれば次話は明後日にしたいところ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます