帝国VS王国

第223話 「宣戦布告」

「帝国が……王国に宣戦布告しました」


コバヤシさんの伝令のあと、急いでみなを集めた。

今は一同、フラメル邸の応接間にそろっている。

ここは、みけを旅に出すかどうかみなで相談した部屋でもある。


「……してやられたわ。すでに王国は応戦の準備に入ってる」

「ちょっと待ってくれ、カシス。いくら今まで帝国の秘密主義がつよかったとはいえ、戦争、それに軍隊の準備なんて……」


ここまで秘密裏に行うことが可能なのか。

いくら帝国の盗賊ギルドが使えず、スパイの潜入も難しいとはいえ限度がある。


「わからない。でも、現にここまでバレずに開戦準備をして、それに軍隊も続々と集まってる」

「……もしかして」


みけが口を開く。


「帝国の地下に広がっているダンジョン、【果てなき地下道アビスゲート】を使ったのかもしれません」

「……。」


【四大】に入ったり抜けたりしているダンジョンだったか。

帝国領の地下、ほぼ全域に張り巡られた古代の地下道と地下街の複合施設で、危険度自体は低いのだが、とにかく広大で最深部もダンジョンのコアもわかっていないとか。


「特に地下道は、たまに通過する巨大トラップに気をつけていれば危険度はぐっと下がるとか。地下道に限定すれば、使えるレベルの地図があるのかもしれません」


地下を使って軍隊を……か。

あちらの世界の戦争でも使われた手であり、帝国とつながっている勇者が吹き込んだ可能性もある。

ありえないほどの情報隠蔽も、人間狩りをつづけていてまるで気付かれない勇者組、そして賢者の影がチラつく。


しかし勇者の目的がコレだったとは。

大国同士の戦争、たしかにヒトは大勢死ぬだろう。

しかしなぜ、わざわざまれびと狩りが苛烈な帝国に与しているのか……。


俺が思案していると、ラザラス邸から駆けつけたメイド長のスミレが手をあげた。


「その、過ぎたことについて話し込んでいる時間もないようです。王国の支部から届いた情報によると、おそらく5日とたたずに戦いが始まります」


場所は【古戦場】

帝国と王国との境に広がる荒野であり、幾度となく両国の戦争の舞台となった長い歴史を持つ土地である。


しかし戦争といっても、あちらの世界の第一次大戦や第二次大戦のような国の存亡をかけた戦いではない。


それはある意味、外交戦争であり「帝国は氷の魔女の危機に直接さらされているのだから、その経費を払いやがれ」「うるせー! そんな大金払えるか」のせめぎ合いである。

古戦場を舞台に、勝った負けたを繰り返しそのつどマネーがやり取りされたのだ。


しかし今回は毛色が違う。


宣戦布告の内容に「今度こそ貴国を滅ぼす」「帝国の領土は倍となる」「獣人族はすべて奴隷となる」などなど、挑発的な文章で飾られていたという。


王国は現在、全力で兵力をかき集め古戦場に向かわせている。


冒険者ギルドの依頼板クエストボードも、緊急依頼として大量の貼り紙で埋め尽くされているだろう。

それはおそらく帝国のほうでも……。


「……クソッ!!」


どうして……いまは人間同士で争っている場合ではないのに。

冬が迫っていること、そしてそれにむけ西方諸国が団結しつつあることは王国や、それこそ帝国にだって伝わっているはずだ。


現に、【西方教会】は王国との交渉に入っている。


王国内の教会は、帝国派と西方派が半々だ。

まれびとへの対応の苛烈さも、北部へいくほど厳しくなる。


だが国の中心たる王都はどちらかというと西方寄りで、これから北との戦いへの協力を取り付けるつもりだった。


「戦争になったらどちらが勝つ?」

「……そりゃあ、勇者が加勢するであろう帝国じゃろうな。末席とはいえ【四方】。ただの人間の軍隊など敵ではない」


「……。」


「おぬしもわかっておろう? のう、【精霊術師】よ。我らの領域に至った本物の精霊術師なら、この言葉の意味が」

「……ああ」


人に許された存在濃度を超えたものは、それすなわちヒトではない。

そしてその階段を登れば登るほど、許されざる力、世界に対する影響力は増していく。


アリ同士の戦争にゾウが加勢したらどうなるか。

考えるまでもない、加勢するほうが勝つ。


その巨体でただ大地を踏みしめ蹂躙じゅうりんするだけですべてが終わる。


ただの兵士と【四方】クラスでは、なんの誇張もなくそれだけチカラの差があるのだ。


「止めるしかなかろ」


アスタルテはなにかを諦めるかのように言葉をこぼした。

今まではしたくなかったことを、無理やり決断したかのような。


「我が弟子は、それができる程度には鍛え上げたつもりじゃが?」

「……。」


「本物の精霊術師にとって、軍隊なぞものの数ではないからのう」

「…………。」


「戦争を、止めるのじゃ」

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