北方小話 「ふたりしあわせにいつまでも」
「――――ガッ!!」
ついで、使い手を失った
「これでこの街の死神連中はお終いですか。なんともあっけない」
「……まあ、
僕は同胞を切り裂いた大鎌を肩に乗せ、仕えるお姫様を見やる。
リディア・レア・レーベンホルム。
ユーミルの双子の姉であり、レーベンホルムの死霊術の正統な後継者。
もちろん、妹も破格の域にあるが、彼女はそう……生家の魔術とは相性が悪かった。
リディアが父を殺し、家を解体し……そうしてネビニラル家に預けられたことでユーミルの才能は真に開花した。
今はもう、アスタルテの
「しかしデス太、帝国に残った死神は
「僕らが南……王国や西方諸国で暴れまわったせいで、強力な死神はみんな僕らを狩るためやってきたからね。今もうこの世界に残ってるのは、僕らから逃げ出した臆病者だけさ」
この世界で絶滅しつつある死神種の、最後の逃げ場である帝国。
ゆえに北方は特異点超えが少ない。
そしてそう。
帝国は鉄の力と数の力をなによりも重視する。
すなわちどれだけ装備をそろえ、どれだけ兵士を並べるか。
戦術も戦略も、集団戦が得意だ……というよりもそうならざるおえない。
【氷の魔女の領域】に長らくさらされていた唯一の国。
『天候固定』には以前はアスタルテが山脈で、今は風竜の『風繰り』で対抗しているが、彼女の
それらをずらりと並べた兵士で、漏れなく対処する。
皮肉にも、【炎の悪魔】への恐怖をヒト族でもっとも強く持つ彼らは同時に、炎の技にもっとも長けている。
【黒森】戦に各国で採用されている『火炎壺』を投射する兵器も、元は帝国が開発した。
奇しくも、この世界の2大脅威は炎に弱い。
「ところでデス太、この格好はどうでしょう?」
「うん?」
リディアは今、帝国……つまり北国の格好をしている。
いつものドレスのような群青色のよそおいのうえから、真っ黒な質の良いガウンを羽織っている。
「うん、暖かそうだね。残念ながら僕には寒さがわからないけれど」
「……デス太、女性の格好はですね……いえ、いいでしょう」
リディアはなぜか不満げだ。
あらためて彼女を見やる。
……うん、大きくなったな。
今彼女は17だけど、外見だけ見れば十分大人の女性……背も高いし20ぐらいに見えるだろう。
「綺麗になったよね、リディアは」
「――えっ……」
ぱっとお姫様は顔を赤らめる。
やっぱり彼女も女の子だよね、容姿を褒められれば当然……、
「ちょっとちょっとそこのお嬢さん! 今日泊まる宿が決まってないなら俺がさあ――」
……当然、こういった
リディアが、声をかけてきた中年男性に『麻痺』の呪いと『
彼女の指差しの呪いはすべてが特級。
なんの魔法抵抗も持たない彼は、心臓に直接『麻痺』を叩き込まれ、同時に体を透明にされた。
そうして今は死者として立ち上がり、みずからの足であるき出した。
大都市に必ずある、地下の下水道へ飛び込みに。
「――まったく、いい気分が台無しです」
「……どうも最近、多いね。彼みたいなのが」
「死にかけの国、死にかけの国民。動物は命の危機が近づくと
「大人になるのも考えものだね。リディアはさ、綺麗だから無用なトラブルを招きやすい。顔を隠したらどうかな?」
「……ふふっ、今日のデス太はずいぶん積極的ですね」
ぐいっと彼女は僕の右腕にヘビのように絡みつき、腕と体を押し付けてきた。
……わざとなんだろうけど、最近富みに成長してきた胸もぐいぐいと。
「あのねリディア。僕も一応は性別上オスなんだ。あまりレディとしてそういう、はしたないのはよくないよ」
「あれっ、デス太。もしかして照れてるんですか?」
「……いや違うよ、僕はキミの
「姫と騎士の恋物語、しかも激しいものは今の流行りなんですよ」
「えっ!」
……驚いた、昔とはだいぶ価値観が変わってきたんだな。
でも、リディアをどうこうしようとか、そんな気はぜんぜん……うん。
「ええ、早くデス太と、自然に触れ合えるようになりたいですね」
「まあ、そこは否定しないけどさ」
僕らは触れられる時間のギリギリまで腕を組みつつ、石造りの無骨な建物が続く街並みをすすんで行った。
とても甘く、とても幸福な時間を噛みしめながら……。
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