第218話 「機動戦士ゴーレム」

ここはフラメル邸の裏庭。

各都市との連携、連絡も一段落つき俺たちは実家であるフラメル邸に帰っていた。


紅竜たるリンドヴルムによる空飛ぶ荷台。

そして大陸の西端たる自由都市から、大陸の東、フラメル邸まで繋いだ『帰還』の扉によって旅はきわめて順調だった。

アルマもいたころ、馬車でカラコロてくてくと旅をしていた頃が逆に懐かしい。


ここに帰ってきた理由はホームでの休憩もあるがなにより……待ちに待ったアレの起動である。


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「では、いきますよ!!」


みけの気合のはいった一声で、ソレは動き出した。


フラメルいわく【巨大ゴーレムギガントマキア】、つまりはスーパーロボット。

かがみ込んだ体勢から静かに、赤銅色の巨体が立ち上がる。


「うぉぉ……でけえ」

単眼モノアイなのもポイント高いわね」とカシス。


おおっ、こやつもロマンがわかるじゃねーか。

もしやロボットな大戦ゲーも知ってたりするのか。


「カニみたいですね、二足歩行の」とイリム。

「そこも無骨でいいよな」


ゴーレムの見た目は彼女のいうとおり、太った人型の甲殻類を思わせる。

丸みを帯びたプレートが何枚も連なり、全体的なフォルムも丸っこくどこか愛嬌があり、目元もかわいい単眼モノアイだ。


高さはゆうに20メートルを越えていて、たとえるなら奈良や鎌倉の大仏が立ち上がったらコレぐらいじゃなかろうか。

猫背気味なところも似てるし。


「みけーーーー!! 大丈夫か!」


現在みけはこの巨大ゴーレムの頭部、ちょうど単眼モノアイの後ろに格納されたコックピットにおり、つまりはここから相応に遠い。聞こえるかなと大声で呼ぶと、巨体の腕が左右に振られた。


操作しているのが少女なのも相まって、見た目といい動きといいすこしコミカルだ。しかし、あの巨体と重量には途方もない存在濃度チカラと、同じく途方もないエネルギーが詰まっている。


動力源は、四大がひとつ【底なしの立方体クラインキューブ】を起動せしめていたまさしく迷宮核ダンジョンコア、『白い賢者の石アルベド・ストーン』。

そして操縦者パイロットは、その底なしの魔力を存分に扱える能力を持った、天才魔法少女のみけである。


『『師匠さーーん、聞こえますかーー?』』

「うおっ!!」


『『――わっ、これはうるさいですね』』


突然前方の巨大ゴーレムから、まるでスピーカーから流れるような大声が。

ほかの仲間たちもびっくりしている。


「……なんだ、ずいぶんでかい声だな……」

「メガホンでも付いてるのか?」


さきほどまで手を振っていた右腕は、ナナメ45度で停止している。

なにか違う作業でもしているのか……。


『『これが音量ですね。よし。

 ――みなさん、動作テストをするので離れていてください』』


ゴーレムみけに言われたとおり、皆でたっぷり50メートルほど離れる。


広大な新緑の草原に巨体がドシンと立ち、さらにそのずっと後方には深い緑の大樹海。

ファンタジーな景観に巨大ロボットという異様さは、しかしゴーレムの色やデザインのおかげで逆にマッチしていた。

あれがテッカテカの百式ゴールドだったりしたら違和感大爆発だな。


――そうして、おもむろにその赤銅色の巨体は、陽の光をにぶく照り返しながら走り出した。


「おおっ、ここまで揺れが……!」

「すごいですね師匠!!」


ズドンズドンと大地を踏み鳴らしながら、その巨体は駆ける。

その動きは寸胴な体型からは想像できないほど素早く、あっというまに大樹海のそばまでたどり着いていた。


「……すげーな、ミリエル……つーかフラメルか」

「ああ、あの誘拐未遂ヤロウも腕だけは一流だな」


「……あれ、なんか吹き出してねェーか?」とザリードゥ。

「うん?」


見ると、はるか彼方のゴーレムは、その太い脚の両サイドから、さらに両腕の肘から、轟々ごうごうと煙を吹かせていた。


「……やばいくらいの魔力量だな……」


ユーミルがそうつぶやくのと、みけの大音声だいおんじょうがこちらまで響き渡ってくるのはほぼ同時だった。


『『――みけ! 行きます!!』』


誇張でなく、ごばぁあああああああああ!! という凄まじい音をたてながら脚や肘の排気口から赤いバーニア。

そうしてそのまま、巨体がこちらまで迫ってきた。


文字通り、空をかっ飛びながら。


「――うぉぉぉ!!!

 かっけえけど……怖っ!!」


とってもオトコノコ魂を刺激される光景だが、巨大な物体がこちらへ猛然と迫ってくるのは恐怖でしかなかった。


「わーーっ、すごいすごい!」

「……さすがミリエル。魔力の流動も適切……」


きゃっきゃとはしゃぐイリムと、冷静に分析してるユーミルもすげぇけどな!


そうして大砲……いや隕石のごとく飛来してきたゴーレムみけは、俺たちの手前100メートルに着地した。


ズドォォォォォォォオオオオオオオオンン!!! ……というバカバカしい轟音と、凄まじい砂煙があたりに舞う。


……着地ではなく着弾だなこれは。


とっさに前方に『歪曲』を展開していなければ、今ごろ体中砂まみれだ。


みけはあんな無茶な動きをして平気なのか?

いくら外殻がアダマンタイトとはいえ、衝撃とか、Gとか、馬鹿にならないと思うのだが……。


しかし、砂煙が晴れるとそこには元気に手を振る巨大ゴーレムの姿があった。

まったく問題ない、ということだろう。


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あれからいくつか動作、そして機能のテストをした。


この巨大人型兵器はいわゆる近接特化で、ミサイルやレーザーなどの飛び道具は搭載していなかった。

ちょっと残念。


代わりにさきほど目にした機能……両脚の外側と、足の裏。そして両腕の肘にバーニアの噴出孔があり短時間の飛行を可能とする。

さすがに飛び続けるのは『白い賢者の石』をしても魔力エネルギーの無駄らしく、いわば大ジャンプ機能にとどまる。


パンチ力はイリムが精霊術で作った巨大岩石で計測。

これはあっけなく粉砕し、それによるとそこらのトロールなら一撃でぺちゃんこだそうだ。


そしてなにより特筆すべきは防御力だった。


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「……本当に大丈夫か?」

『『ええ、本気の『熱杭ヒートパイル』でお願いします』』


硬いゴーレムに搭乗し、さらにはアスタルテのかけた『土殻シェル』があるとはいえ仲間へむけ攻撃するようで気乗りしなかったが、性能テストのためには仕方がない。

しかし、全力など心理的にムリだ。


そうして十分の一程度に抑えた『熱杭』を喰らってもなお、巨体にはかすり傷ひとつ付かなかった。

試しに2射、3射と重ねるが結果は同じ。


『『衝撃もありませんね。……さすがは破壊不能金属アダマンタイト、素晴らしい』』

「熱くもないのか」

『『ええ。アダマンタイトは熱も冷も遮断します。

 ……さすがはニコラスさんが対【氷の魔女】用に仕上げただけはありますね。気密性も可動性も確保してこの動きとは。恐らくマグマに飛び込んでも大丈夫でしょう』』

「とんでもねーな」


絶対壊せない巨大ロボット。

逆にコレが敵だった場合、俺ならどう戦うだろう。


似たようなことを考えていたのか、ユーミルがぽつんとつぶやいた。


「……アダマンタイトは唯一、ある威力の電気だけは通す。そこだけ注意だな……」


「威力……電圧か?」

「……電圧ってなんだよ。……いや、知ってるやつはごく限られるけどな……私もここの蔵書で知った」


そうしてユーミルは語った。


アダマンタイトは、ドワーフや一部の鍛冶師、錬金術師のみが製法を知ると。

原石から加工し、その後ある特定の温度に熱し、そこにある特定の強さの電気をわずかに通すことでカタチが決定されると。


そして一度カタチが成された後は、もう2度とあらゆる物理的・魔法的破壊を受け付けなくなる。

熱も冷気も受け付けない。


ただ、そう。

カタチ作られたその瞬間と同質の電気だけは、わずかに通してしまうのだと。


「……錬金術では『産声の記憶オリジン』つーらしい……」

「まーた、厨二なネーミングやな」


ゾクッとしたぞ。

もしかするとニコラスの命名じゃなかろうか。


「……まー、それでもほんの少しだ。みけなら『防護プロテクション』か『対色アンチカラー』で対応できる。それに敵は氷だろ……」

「ああ」


こいつの役目は『対・氷の魔女』。

つまり寒冷地仕様の人型決戦兵器だ。


雷の相手をすることにはならないだろう。

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