城塞都市小話3 「火葬」
「これで城塞都市の協力と、北への進軍路の確保ができたな」
リンドヴルムの掴んだ馬車に乗り空の旅。
今は交易都市へむけ帰る途中だ。
あのあと城塞都市で一泊し、約束の取り付けを得た。
軍事力の提供がメインのため、報酬はやや少なめ……の予定だったのだが、子ども人質作戦を経ずにそのまま大翼竜を討伐したので大いにイロを付けてもらえた。
あの作戦だと、壁のこちら側で総力戦なので被害も相当覚悟していたのだろう。
それをすべてチャラにできたのは大きいと。
「しかしまさか、『魔法無効化』に当家の技術が使われていたとは……」みけが唸る。
「ネビニラルの秘奥、だっけ」
「はい。魔力効率の悪い銅板を、さらに効率の悪い術式で『無限回転』させることにより、周囲の魔力を霧散させる
「……アルマが、昔作ってくれたな」
「そうなんですか!?」
「みけを助けにあの
「……そうでしたか」
3年前なのに、ずいぶん昔のことのように感じる。
ユーミル、アルマも揃った初めての
「山の地下に……ソレがあったんですよね?」
「ああ、とびきりでかくて、とびきり複雑なのがな」
火山の地下に広がる大空洞で、翼竜の子どもを、素早く始末した。
痛みを与えぬよう『火槍』で脳を一撃で。
そうしてその広間の、さらにさらに奥にソレはあった。
巨大な銅の円盤が、いくえにも複雑に連なり回転していた。
ありえぬほどに大量の円盤が、ありえぬほどに高速で。
時計やオルゴールの内部に飛び込んだかのようだった。
ここが、この場所が周囲一体の魔力を喰らいつくしていたのだ。
「まあ、城塞都市も困ってたし、進軍の邪魔にもなるしでソレを精霊術でぶっ壊そうと思ったんだが……」
「そこで、『爆発』に巻き込まれたと?」
「……ああ」
精霊を
まるで、今まで消費し溜め込んだ魔力のすべてを解き放つがごとく。
とっさに『
最後に遅れてイリムが『石牢』でみなを
……恐らく、誰かひとりが欠けていたら誰も助からなかっただろう。
それほどの凄まじい爆発だった。
「あのあとのトンネル工事は私の大手柄ですよね、師匠!」
「ああ、土の精霊術師さまさまだな」
「えっへん!」
イリムが薄い胸を誇らしげにそらす。
そう。
爆発を生き延びたとはいえその後の埋め立てからの脱出も、彼女がいなければ難儀だっただろう。
不自然なほど巨大な
極めつけは、精霊術を感知しての自爆じみた大爆発。
その破壊の跡から、なんとか銅板の歯車の一部を持ち帰った。
ソレを見たみけはただひと言、
「恐ろしく
「……そうか」
「『至宝』『輝きの真珠』……間違いなく、賢者スピカの手によるものです」
「……。」
「彼女はなんらかの方法でただの翼竜を巨大化させ、そのうえで円盤を配置。人間への嫌がらせを成したのでしょう」
「……。」
「そうしていずれ来るであろう『魔法無効化』をものともせずに【ニカレストの大翼竜】を討伐しうる存在……すなわち精霊術師である師匠さんに備えた。罠をこしらえた。精霊の
「……なるほどな」
ずいぶんな念の入れようだ。
俺ひとりを殺すにしては、だいぶ遠回りでだいぶ大掛かりな。
そして、ずいぶん……俺以外の仲間や街の人々を危険にさらす手だ。
許されることではない。
そしてもちろん、その相方も……。
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「しかし、今回は間に合うでしょうか」
「……わからん」
早朝、『異世界転移』の波を検出し、予定より早く城塞都市を発った。
空の旅で、まさしく飛ぶように駆けつけているが結局のところ助かるかどうかは運である。
運とはつまりスタート地点であり、俺が格別に持っていたものである。
ここ西方諸国なら、まだ助かる率は高いのだが……。
そうして、
そうして。
今回は……間に合わなかった。
小さな街道沿いに並ぶ木々のひとつに、男の死体がぶらりぶらりと揺れていた。
首にロープ、体中に打ち据えられた跡。
まあ……65点といったところか。
平均点、人並み。
もっとひどい遺体はいくつもあった。
――周囲を感知する。
おおよそ1km圏内は問題なし。
後ろで控えている仲間も特に警告してこないので、俺ではわからない視線や監視の目もとりあえずクリア。
「カシス、頼む」
黒髪の少女がするりと滑るように木に登る。
ロープの結び目を確認し、
「これなら楽勝。すぐほどけるから準備して」
「OK」
ほどなく落下してきた遺体を、『歪曲』により地面すれすれでふわりと着地させる。
と、同時に首に巻き付いたロープだけを焼き切る。
遺体の服装、所持品などを簡単に検める。
……うん、間違いなし。
「できましたよー、師匠」
とイリムの声。
彼をカシスといっしょに担ぎ、仲間が開けてくれた穴へと放る。
今度も、地面に叩きつけられぬよう注意して空間を折り曲げ、優しく下ろす。
穴は2メートルほどあり、これなら野犬に掘り返されることもない。
いやでも火葬するから大丈夫なのか、そこらへんの知識は残念ながらない。
「じゃあみんな、離れてくれ」
いつもどおり、俺とカシス以外の仲間は離れ、遠巻きにこちらを見ている。
最愛の少女……イリムは穴を開けてくれて、このあと穴を埋める役目がある。
土精を操る彼女からすれば、まさしく朝飯前だ。
ザリードゥは黙ったまま周囲に鋭く視線をまわしている。
残りふたりのともにローブ姿の彼女らは、あまり関心がない、といったふうだ。
紫ローブのユーミルに、茶色のローブのみけ。
それでも、警戒はしてくれているので助かる。
「じゃ、やるぞ」
「OK」
葬式の手順は知らないし、なにかの宗派に入っていたわけでもないので自己流だ。
目をつぶり、まあ……成仏してくれよ、と10秒ほど
目を開け、カシスのほうをみると彼女も「ん」と頷いた。
ふたりして穴から離れ、遺体に火を放つ。
穴からみるまに炎が上がり、5秒とたたず火葬は完了した。
空へと上がる煙を眺める。
あの煙は、魂は、どこの世界に還るのだろうか。
すぐさまこの世界から消失するというまれびとの魂。
願わくば、願う世界に還っていてほしい。
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