城塞都市小話2 「師匠VS大翼竜」

リンドヴルムの背に乗り、4人で空の旅を敢行中。カシスが当然の疑問を口にした。


「でさ、ぶっちゃけアタシらいるの?」

「いざという時のパリィ役に、いざという時の前衛に、いざという時の回復役に……」


「その、いざという時が来た場合、わりと詰みよね?」

「いや、どうでしょうね!」


ふふっ、とイリムが後ろで笑う。


「仮に師匠がいなくとも、【槍のイリム】【短剣2爪のザリードゥ】【クロウ】の前衛3人が揃えば巨大ワイバーンもなんとかなります!」

「……まあ、確かになんとかなりそうなのが恐ろしいな」


さきの城塞都市で、防衛隊長は「剣や弓では不可能だ」と言っていたが、それは通常ノーマルな物差しでの話だ。

100メートル級のバケモノですら近接武器で討伐しうる、まさしく規格外バケモノがこの世界には存在する。


カシスはやはりイリムやザリードゥのふたりには劣るが、この2年。

一番得意とする受け流しパリィ投擲とうてきを鍛えに鍛え、そこだけは誰にも負けないと自負している。


ザリードゥは元々の剣技もさらに冴え渡り、習得奇跡もいくつか増えた。

そのひとつの『聖戦アクシオス』は、神が価値ある戦いだと認めた場合に限り発動できる全体補助バフで、カシスいわく「全ステータスが上昇する感じ」らしい。


ちなみにその奇跡をザリードゥは任意に発動できるそうだ。

神さまは判定しなくていいのか? 謎だ。


そしてイリムは、対大型モンスター用にある技を習得している。

必殺の螺旋らせん突きからの、槍の刀身からデタラメに『石槍』をブチかます大技だ。


敵は体をつらぬく槍から発生した、無数の石槍につらぬかれ中身からズタズタに破壊される。

表皮が硬い魔物も、内部はそうではないことが多い。


熱杭ヒートパイル』と、俺が教えたとある神話の槍の逸話が元ネタで、技名は『獣の宴ブラッディ・カーニバル』。

……俺は渋めに『死突しとつ』を提案したのだが……まあいい。


『聖戦』の加護を受けた状態のイリムなら、大翼竜の体だろうと駆け上がり、くだんの大技を心臓にぶちかましKOだろう。

だがまあ、そんな危険な試みは今回は不要だ。


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山からちょうど1キロ地点。

俯瞰フォーサイト』で捉えた大翼竜の姿は、たしかに規格外にデカイ。


この世界のノーマルな翼竜ワイバーンは、紅竜ドレイクの半分程度。


そして紅竜たるリンドヴルムは胴体だけでバスほどはあり、翼を広げれば30mを超える。


あのシャラシャラしたイケメン、【風竜】はおおよそその2倍ぐらい。

ジャンボジェット機ぐらいある。でかい。


そして……ニカレストの大翼竜は、俺の相棒の3倍以上はある。超でかい。


しかし……『俯瞰』で捉えてすぐに直感した。

コレは倒せるな、と。


「念のため離れててくれ」


「はい!」

「そーいゃあ師匠の必殺技見るのも久しぶりかァ」

「お手並み拝見ね」


「……。」


みんなに見られながらのため若干恥ずかしい……がすぐに気を引き締める。


「――よし」


目の前の火山との経路パスは繋いだ。

太古の精霊と、相棒とのリンクも済んだ。


「――『熱杭ヒートパイル』!」


そうして、勝ちの決まった戦争たたかいを開始した。



大気を切り裂きながら、熱の弾体が直進、すぐさま山の中腹あたりに直撃し、ややあってズドォォォオオン……という重低音。

跡には小さなクレーターができている。


「おーーー! ……うん?」とイリム。

「おおっ! ……ふーん……」とトカゲ。


「うわぁ……ムチャクチャね」


カシスは元地球人らしく正常にドン引いているが、ほかふたりは頭に?と疑問符を浮かべている。


「師匠、アレは……?」

「まずはコイツで叩き起こす!」

「なるほど! それであの程度の威力なんですね」


「えっ?」というカシスの反応ももっともだが、今の一撃は全力の10分の1も込めていない。


熱杭ヒートパイル』は弾体に力を注ぐほど弾の硬さと着弾後の爆発力が増し、砲身バレルに力を注ぐほど弾速、すなわち貫通力と破壊力と命中力が増す。


初撃はヤツの眠る山の、寝室の扉をちょっと強めに叩いて起こすのが目的だ。


弾体に強めにチカラを注ぎ、爆発音は派手に調整したが、砲身バレルは一本分。

レールガンの要である速さと、そこから生まれる破壊力が圧倒的に足りていない。


ちなみに弾体の方の特性アビリティは現代兵器でいうとバンカーバスターに近い。

硬い弾体で基地のぶ厚い天井や地表を貫き、内部で爆発。破壊せしめるというシロモノだ。


つまり俺の『熱杭』は、バンカーバスターをレールガンで撃ち出す超兵器である。

あんな程度の威力ですむはずがない。


「師匠! 山から……!!」

「……おでましだな」


山の裏手で丸まっていた巨体が、静かに姿を現した。


すみを浴びたかのように、全身真っ黒けで、爬虫類はちゅうるいというより両生類りょうせいるいのような全身のつや

腹部や羽の皮膜は灰色だが、第一印象は【闇のドラゴン】である。

サイズも相まって、終盤あるいは裏の隠しボスといった風格すらある。


……しかし、そう。


彼には魔法のチカラも、精霊の加護もなにも感じない。

魔力が存在しないのは別の要因であって、彼の力ではないのだろう。

つまりはただひたすらに巨大で、ただひたすらにフィールドがよかっただけだ。


スタート地点がよかっただけで調子こいていたバカを思い出すな。

その点では、彼に親近感がわいた。同情する。


しかし、手を緩めることはない。


「GUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


巨体から、精一杯の咆哮、雄叫び。

こちらの大気までが震える。


――精霊を総励起フルブースト、失敗は許されず慢心もありえない。

初撃に、すべてを。


巨体は翼をひろく、本当に信じられないほどひろく広げ、空気を掴む。


――弾体を形成、『大火球』50個分の熱量をただの丸太サイズに凝縮ぎょうしゅく

下手すれば即座に漏れ出し、爆発しかねないそれを正確に押し固める。

ひたすらに硬さを、ひたすらに硬さを。


巨体は翼をはためかせ、砂煙を盛大に巻き上げながら飛翔ひしょう

一匹の獣の、ただ飛び立つという動作でこれだけの自然現象が引き起こされるのかと感嘆かんたんする。


――砲身を敷くバレルセット。さらにさらにさらにさらに砲身を敷く。

それらをすべて、砲身直結シングルコネクト

都合5本、総延長100メートル。


巨体は猛然もうぜんと、しかしどこかゆったりとこちらへ迫る。

速度は目算200キロ。うちの相棒の倍はある。


――しかし、あとはそう。砲身に火精と風精のチカラを限界まで注ぎ込み、ソレを解放するだけだ。

ありったけの速さでもって疾走はしらせて。


「ぶち抜けッッッッッツ!!!」


……そうして、こちらに届くまでに10秒はかかる愚鈍な獣は、秒に満たずに到達した弾体タマに体を穿うがたれ死に絶えた。

心の臓があるあたりを、ごっそりまるごとブチ抜かれて……。



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※城塞都市と境界都市との交渉・クエストは当初、「こんなことがあったよ」で概要だけざらっと流すつもりでしたが、世界観拡張などのため書くことにしました。

ちょっと蛇足だったかな……ううむ。本筋サクサクがいいのか、脇道もオッケーなのかはまだ感覚がわかりませんね。とりあえず城塞都市は3話、境界都市は2話の予定です。

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