城塞都市小話 「ニカレストの大翼竜」
※短めです。
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俺たちは今、交易都市より北の城塞都市を訪れていた。
リンドヴルムによる快適な空の旅により極めて迅速に、最短距離で。
ちなみに俺は都市の名前を覚えるのは苦手で、しかもこの世界のほとんどの住人も「交易都市」「自由都市」など街の特色名で呼ぶ。
いちおう、
●交易都市リューム
●自由都市ベネシア
●城塞都市カルカソ
●境界都市カウニング
●闘技都市スパルタ
●湾口都市セイラム
など正式名称はあるのだが、俺もあんまり覚える気はないし、これまでこの世界で生きてきて不便を感じたことはない。
「もう! ひどい依頼でしたね! 師匠」
「……ああ」
目下ぷりぷり怒っているイリムにならい、話を戻そう。
この城塞都市はその名にふさわしく、黒い石と鉄の門で組み上げられた
西はエルフの森まで、東は黒森の突端まで。
アスタルテの築いた土の壁が伸びているのだが、そのところどころに石の見張り塔があり、ここ城塞都市はその親分だ。
元ある壁を取り崩し、強固な石と鉄の壁を設けた。
その壁の内部や、取り付くように増殖した外部に居住空間があり、壁の手前側にはこれまたひたすら石、石、石の街並みが。
城塞都市といわれるより牢獄都市のほうがしっくりくるぞ。
「まァ、リザードマンの俺っちからしても、あれはねェな」
「でしょう、ザリードゥ!」
そしてこの城塞都市より北は、かつての帝国領にして現在はひたすらに続く荒野。
その昔、黒森への大規模な作戦の失敗により、一時的な森の爆発に巻き込まれあっさりと滅んだそうだ。
……帝国の北西部が滅んだおかげで、結果的に西方諸国のまれびと狩りがゆるくなったのは皮肉なものだ。
そうしてこの城塞都市は、魔境と化した荒野からたびたび訪れる黒森の魔物や、氷の領域からはるばるやってきた魔物の相手をしている。
「……合理的ではあるけどな……」
「えっ、お姉ちゃんひどい」
そうして、その城塞都市の北のエリアに、ある魔物が棲みついた。
それが今回の依頼の討伐対象、【ニカレストの大翼竜】である。
……まあ、その作戦内容にイリムは怒っちまったんだが。
先の依頼人とのやり取りを思い出す。
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「……魔法が使えない?」
「ああ、あの一帯は何故か使えん」
依頼人……壁の防衛隊長は城壁の見張り台から、彼方に見えるニカレスト山を指差した。
あの赤茶けたむき出しの火山に大翼竜は棲みつき、なぜかその周囲では魔法が使えないと。
「範囲は?」
「この壁にちょうど到達しうる。つまりこれより先で魔法は使えん」
にわかには信じがたいが、『魔力感知』の
「そして、ヤツのサイズは規格外だ。ただのワイバーンならこの城塞都市の敵ではないが……アレを見ろ」
防衛隊長は見張り台から身を乗り出し、壁の外側にある見張り塔……だったモノを指差した。
「滑空し、一撃。それだけでああなった」
「……ほうほう」
塔はすべて石造りで、背は低いがそのぶん頑丈なブロック型。
真ん中から真っ二つに割り砕かれている。
凄まじく爪が硬く、巨大だったのだろう。
「羽を広げるとそうだな、あの塔とあの塔の間にすっぽり収まる」
100メートルは優にありそうだ。
風竜がジャンボジェット機ぐらいなので、おおよそ2倍か。
よく飛べるな。
「それだけの大物、剣や弓ではどうにもならん。まさに魔法の出番だがそれが使えんのだ」
……つまり、超巨大な物理モンスターと魔法無効化空間の組み合わせが【ニカレストの大翼竜】だと。
「そしてコレを解決しうる手段が、ようやく産まれた。冒険者諸君、君たちの出番だ」
「ニカレスト山よりヤツの赤子を奪い、この城塞都市まで持ち帰ってきてほしい」
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「赤ちゃん誘拐して、壁の向こうに縛りつけて!
槍で痛めつけて、鳴き声をあげさせて!
そうしてお母さんを誘い込んで一網打尽なんてひどすぎます!!」
「……や、解説ありがとう」
「師匠! ふざけてます!?」
「いやいや、俺だってそんな作戦イヤだよ」
「でしょう! だから師匠の出番ですね」
「ああ」
そう。
ニカレストの大翼竜は退治しなければならない。
城塞都市をいくども襲撃する怪物であるし、その討伐が冬との戦争の協力条件である。
そしてそのテリトリーは、氷の魔女との戦いにおいて、軍の進軍の妨げになる。
だが、いくら魔物とはいえ、そしてその魔物の子どもだからといって非道な手は取りたくない。
できるだけ苦しまずに始末してやりたい。
「……まあ、甘ちゃんの師匠らしいなー……」
「じゃあ私達はただしく【魔法使い】なので、ここでお留守番ですね」
「ああ、すまんね」
初めての旅装、アルマにそっくりの茶色のローブで身を包んだみけはまさしく見た目も魔法使いである。
あれがピンクやオレンジだとジャパニメーションな魔法少女になるのだが……まあいい。
「……ミリエル、彼らが帰ってくるまでお姉ちゃんと遊びましょう……」
「ちょっとお姉ちゃん、私ももう14で……」
さすさすとみけの頭を撫でるユーミル。
それに対して抗議しつつも、まんざらでもなさそうなみけ。
ふたりの
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