冬に備えて
第202話 「ロイヤルスイートは500G」
【
最後の
「うおっ、眩しっ」
久しぶりの陽の光……地下にいたのは2日ぐらいだろう。
仮眠、休憩などはとっていたがさすがに疲れた。ぐっすりと暖かいベッドで休みたい。
「ぜひ、大聖堂でお休みになってください」
というレーテの誘いをやんわりと断る。
教会のベッドは例外なく固い。
清貧だかなんだかの理念だろうし、旅人や巡礼者、余裕があれば街の貧民に貸し出すこともある。量より質なのだ。
お偉いさんのベッドは知らんけどね。
だがまずは大聖堂に聖女をお届けしなければ。
「目立つから裏口から行こうと思うんだが……」
「いえ、ここは正門から行きましょう。考えがあります」
「……ふむ」
レーテの案はコテコテだが効果はありそうだった。
ちょっと恥ずかしいけど乗ることにする。
――細いスラムの路地から、メインストリートへ。そこからさらに街の中央広場へ。
先頭に【奇跡の聖女】レーテ、そのすぐ後ろに赤毛のマルス青年と、生き残った
そして彼らをはさむように護衛しながら3、3に分かれた我らがパーティ。
「おい、あれ聖女さまじゃないか!?」
「……たしか、何日も見かけずに……」
「なんでも噂じゃおっかねえ地下に……」「――シッ! それはあくまで噂だろ……」
「なんだろ、あのお付きの人たちは冒険者?」
「もしかして……彼らが?」
商人や通りすがりの主婦の次は、武器を帯びた連中が。
「……同業者だな。ギルドでの噂は本当だったのか」
「じゃあ、奴らが【セブンズアーク】?」
「ずいぶん装備がいいわね……多重術式防御、構成もずいぶん硬いし……」
広場を一歩、また一歩すすむたびそこかしこから注目をうける。
うん、思ってたよりコレ恥ずかしいわ。
しかし目の前を歩くイリムはウキウキとした足取りだ。
「――師匠、大注目ですね!!」
「……俺はこういうの苦手」
「ええっ!? 誉れと名誉と栄光は冒険者の命ですよ!!」
まあいい。
「……ユーミル、『死期』はどうだ?」
「……大丈夫、だな」
万が一があるので俺も『
まあこれだけ堂々と聖女を連れて行進してるんだ。
教会の
聖女をダンジョンに放り込んでわざわざ……というのも考えづらいし。
正門にたどり着く頃にはすでに沢山の人だかりができていた。
ぐるりと俺たちを取り囲み、期待と
……仮にコレが罠で、彼らが敵であろうとも俺たちは……どころか俺ひとりでも切り抜けられる。
まず
多少デキるやつがいようとも、最速最硬にしてあらゆる角度からの
10秒とかからず全滅させられる。
「――うっ」
その事実に、一瞬吐き気をもよおした。
その状況になったとしても、ためらいなく実行できる自分にも。
強さも、心構えも。
……あの森から、スタート地点から、ずいぶん遠くまで来てしまった。
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群衆の騒ぎに気がついてか、大聖堂の表扉がぎいっと押し開かれ、中から豪華な法衣の男性が現れた。
初老で
「――おおっ、レーテ!」
「大司祭さま!」
カッカッカッと石畳を蹴り、駆けるレーテ。
すぐさましっかと大司祭と抱き合い、涙さえ流している。
たしか、教会内では彼女の後見人のようなものらしい。
「まずは大丈夫、かな?」と小声でカシス。
「……ああ」
「演出重視なら【聖女】で呼ぶだろうし、あの涙も嘘泣きじゃない。第一、レーテはそんな器用な娘じゃない」
こんな時でも
しばらくして大司祭とレーテはこちらへ向きなおり、深々と頭を下げる。
「みなさん、レーテを救って頂きありがとうございます」
「マルスも、聖騎士もあなた方のおかげです」
ふたりの言葉の直後、そこかしこから爆発するように歓声があがった。
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あのあと、このままでは話ができないと聖堂の中へ招かれた。
だが、まる2日のダンジョン探索。俺たちはまだしも、なによりレーテとマルス君たちの疲労がピークだ。
「ロイヤルスイートです」
「おおっ、なんと!」
すっ、と大司祭の脇に控えた助祭から金糸で
ニコニコキラキラした顔で、宝物のようにそれを掲げる。
「師匠!
「そんな嬉しい?」
「なんと!
「なんだその風習」
聞いたことないな。
でもまあ、たしかにロイヤル泊まるのは初めてだね。
どうにも無駄な出費に感じてしまい、いつも中級の宿に泊まっていた。
お金はできればすべて戦力に注ぎたかったし。
「すいませんね」
「いえいえ、この街の聖女を救って頂き、そしていまやあなた方も
「……では、遠慮なく」
どうにもこの世界で褒められ慣れていないせいか、裏があるんじゃないか、罠じゃないかと勘ぐってしまう。
小声でカシスに話しかける。
「なあ、これ報酬から天引きされてないよな」
「それは依頼完了の書類で確かめた。大丈夫よ」
こいつもしっかり疑り深いね。
それじゃあまあ、2日ぶりにマトモな寝床で休むとしよう。
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