第197話 「必殺技は十八番にて」

手数、物量では彼の守りを突破できない。

いくら盾を割ろうとも、いくら壁を砕こうとも、無限の魔力により、無限に貼り直される。


『火弾』や『火葬』では役不足だ。

ただの一撃であの守りを突破し得る、最強の一撃でなければ。


古代の火精と風精を総励起フルブースト


熱杭ヒートパイル』の弾体を、強く強く固めあげる。

サイズは丸太ほどだが、中には『大火球』50個ぶんの熱量エネルギーが詰まっている。


そしてなにより、ここから先が重要だ。


砲身を敷くバレルセット、さらにさらに敷くセット


都合5つを 砲身直結シングルコネクトし、ぴったりと目標ニコラスへと向ける。


「ふむふむ、凄まじい術式行使を感じる。しかもここまで3秒、イメージがずいぶんうまいな」

「……。」


小言を無視し、弾丸を砲身に叩き込み、即座に火精と風精の精霊力チカラを注ぎ込む。

限界の、限界の、さらにその先まで。


――ガギギギギギギギィィィイイイイ!!!


過剰充填オーバードーズにより、砲身が悲鳴をあげる。

金属と炎と大気が叫びをあげている。

あまりの熱量エネルギーに、架空要素イメージでしかない砲身自体が輝きだし、あたりを眩く照らしだす。


素晴らしいエクセレント……だが、そんなあからさまに大砲を向けられては、さすがの私も避けるよ」

「……。」


「それに、ソレ。さすがの私も死んでしまうぞ? 跡形もなく。それどころかひとたび地面に着弾しようものなら、ここら一体まるごと吹き飛ぶだろう。フジヤマに新しい火口でも作るつもりかね?」

「…………。」


「だんまりかね」

「……そうだな」


手の内を明かすつもりはない。

それにここから先は初手をミスっただけで終わりだ。

彼の言った通り、ニコラスも俺もみけもみんなまとめて消し飛び、後にはひとつのクレーターが残るのみだろう。


「――充填完了だ。みけ」

「……なんですか」

「万が一、失敗ミスったらごめん」

「ええ、その場合は責任とってもらいますね」


「……あー、キミの趣味に口を出すつもりはないのだがね、その――」


目標マトの言葉をさえぎるように、全力全速の『熱杭ヒートパイル』を撃ち出した。


------------


大気を切り裂く金属のごとき怪音、弾かれた空気があげる音の悲鳴ソニックウェーブ


しかし、

もちろん。


敵は当然のように、あらかじめ仕込んでいた『空間転移』を発動させた。

この場から離脱、はいさようなら。


……させるかよ。


それを、あらかじめ仕込んでいた『歪曲』で境界さかいをズタズタに引き裂いた。

この空間はあくまで俺のものだと、どこぞ繋いだ別の空間に理解わからせる。


「――なっ!?」


ここまでコンマ1秒もない。

すでに『熱杭』はニコラス・フラメルに迫り、彼がいくえにも展開した魔法の盾を割り、砕き、そして――、

『歪曲』で軌道きどうを90度折り曲げた。


放たれればただ愚直に、真っ直ぐに進むほかない弾丸は、魔法のように急旋回をきめ、空気を引き裂きながらはるか南へと。

……ここからも見える、はるか遠くの夜の海へと。

あの辺りはたぶん、駿河湾か。


「……流れ星みたいですね、師匠さん」

「うん、そうね……」


スマホかなにかで撮られてたらマズイかも……まあ、いいか。

少しして、はるか遠くに見える海面の、さらにさらに沖のあたりに、計算通り『熱杭』は着弾した。


瞬間、水面みなもが膨れ上がり、巨大な水のドームが現れた。

まるでというかそのまんまだが、ミサイルどころか爆弾の実験のようだ。


「へえーーーー……師匠さん、あれは漁港とか、被害は?」

「津波と違って表層だけだから大丈夫、のはず」


いくらか遅れて、ドゴォォォオオオオン……という重低音が響いてくる。

うん、これは確実に明日のニュース行きだね。

……国際問題とか、ややこしい誤解にならないよう祈っておく。


そうして、しっかりと『熱杭』の処理を確かめたあと、さきほどまで敵だった男へと視線を戻す。


「――はあー、はあー……ハッ、」


彼は膝をつき、しかし笑いながらこちらを眺めている。


「みけ、ここからでも治療はできるか」

「ええ、『封傷バンテージ』はすでに」


出血が止まっているのはそれでか。


ニコラスは、急旋回した『熱杭』の余波でギリギリ右手を吹き飛ばされ、ついで体中が傷だらけ。上等そうなスーツもズタズタだ。

空気を切り裂いて進むあの攻撃、直撃せずとも至近にいれば当然ああなる。


そして……『賢者の石』は俺の手にある。

彼の手を奪い、彼が落としたソレをすぐさま地面からの『火槍』でこちらへ弾き飛ばしたのだ。


ステッキ部分はまるごと焼け焦げたのに、石はまったくの無傷。

さすが、完全物質の名は伊達じゃない。


「コレが『賢者の石』か……でも、俺が持ってても特にパワーアップは感じられないな」

「あくまでシルシがないと。でも所有権は今、師匠さんに移っているようです」


「……みけ、いる?」

「わっ、危ない!!」


ほい、と差し出したソレから、みけが全力で飛び退いた。

なんだろう、本当に嫌がっている。


「私ほどのシルシがあると、その魔力の塊は危険です。……制御する前に、相性が良すぎて大変なことになります」

「へえ」

「ですからそこのニコラスさん程度なら、逆に自由に操るのに都合がいいんでしょう」


「ハハッ、なかなかどうして……辛辣しんらつだね、我が娘は」

「フラメルの娘は継承しましたが、あなたの娘は絶対にイヤです」

「ふっ、そうか」


ひとしきり、くつくつと静かな笑いを楽しんだニコラスは、この稀代の錬金術師は、


「――そうだな、キミとみけクンから手を引こう」


あっさりと、負けを認めたのであった。

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