第188話 「ニコラ・フラメル」

ホネホネキューブは、みけとユーミルが協力しチクチク作成中。

さすがふたりとも死霊術師だけあって、まったくビビらずに、かつ正確にホネの部位を選択していた。


「俺なんていまだに骨戦士スケルトン苦手なのに」

「師匠はそういうところまだまだ子どもですよね!」


イリムがにまっと笑いツッコミを入れる。

いや、お化け屋敷と違ってリアル人骨が襲いかかってくるんだから、怖いのはフツーだろ……。


「しっかし、発想もすげぇがエグイよなァー」

「ザリードゥ的には、つか教会的にはマズイよな」


「ああ、異端一歩手前だな」

「……レーテ達や教会の連中から見えないようにしないとな」


異端刈りほど極端ではないが、やはり教会からすると死霊術はいい顔をされないそうだ。

このダンジョンから救出したあと彼女たちとは交渉がある。

できるだけ、マイナスの印象は避けておきたい。


「――できました!」

「……さすがミリエル、さすミリ……」


みけがこちらへ、カラフルなキューブを誇らしげに見せつける。

確かに、色もキレイに赤、青、黄、茶、黒、白と、メモ通りに配置されている。


「……私じゃコレは無理。27個のパーツをそれぞれ空間に、ズレなく浮かせるなんて芸当……」

「えへへ、褒めすぎですよお姉ちゃん」


ユーミルはできのいい妹の頭をそすそすと撫でている。

こうしていると本物の姉妹みたいだ。

俺はあのキューブ触りたくないけど。


「それと、作成中にいろいろ気が付きました。お姉ちゃんとだったらこのパズル解けるかと」

「えっ、マジで!」


「……ふふん、もっと褒めてもいいぞ……」

「いや、それはいいや」

「……ケッ」


2年前にくれたユーミルの左腕の鎖が、気持ちギリギリと腕を締め付けてくるが無視する。


「いくつか法則性があるんですよね、構造上。例えば各面中央の、仮に『センターキューブ』と名付けますが、コレは常に中央のままですし、対面する色は必ず同じ対に……」

「……ふーん……?」


いや、俺そういうの苦手なんだけど。


「わー、師匠! みけちゃんが何言ってるのかわかりません!」

「いや、俺はわかるわ」

「すごいですね!」


「……それで、3色を有する角のキューブが8個……2色を有するフチのキューブが12個、つまり……まず1面を完成させてから………その途中に……」

「ふんふんふん、なるほど、なるほど」


とりあえず、失礼のないよう返事だけはしておく。


「師匠、私にもわかるように説明して下さい!」

「いや、イリムには難しすぎるな!」

「なんと!」


「……ので、まずは天井に白を揃えましょう。4色が四大精霊に対応しているとするなら、白は上昇、再生、天。黒は下降、死、冥府を意味しているのではないかと」

「あっ、それはわかるわ」

「……うん? 師匠、言動がおかしくありませんか」


「そもそもただ各色揃えるだけが条件かはわかりませんし、4大は方角も揃えておきたいですね」

「そうだな」


四大属性などの精霊術混じりの知識や、少しかじった魔術知識はわかる。

しかし、その後も続くみけのパズルに関する考察は俺のキャパシティを超えていた。つーか感覚派の俺にはお手上げだ。

なので、返す言葉はただひとつ。


「ああ……そーゆーことね。完全に理解した。うん」

「ほんとですか師匠!」

「うん」


俺は考えることを放棄した。

ここはもう、理系女子リケジョに任せよう。


「私も、今の説明でセオリー少しだけ思い出した。手伝えるかも」とカシス。

「おお、さすがJK。君もリケジョだったか」

「リケジョって何よ……まーたおっさん特有の語録?」

「ぐふっ!」


まじか……死語だったのか?

久々のMPダメージはなかなか堪えるものがあるな。


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パズルの問題はとりあえず、実物を作ることで格段に難易度が下がった。

みけとユーミル、あとカシスによるとおおよそ40手~80手ほどで揃えることができるのではないかと。


それでも10分に一回しか回せないぶん、時間はだいぶかかる。

60手だとしても10時間、休憩も挟むのでそれ以上だ。


そして、なにより。


「そのたびにゴーレムが再起動か」

「あと、恐らくだけど罠も再配置されてるわ」

「うへぇ、すごいな」

「だから、何度も何度も戦って、『調査』して……なかなかしんどいわね」


現在ここは地中深く、火精の反属性たる土精が強い領域だ。使えるのは連れ歩いているリンドヴルムの分と、いくらかの魔道具アーティファクト、特にみけに作成して貰った炎晶石の分。


炎晶石は内部に火精を封じ込めた、キレイな拳大のクリスタルで、投げつけることで『大火球ファイアボール』相当の魔法を発現させる。

ついでにあたりに火精が解放されるため、精霊術師である俺には一粒で二度美味しい。


……材料の特別なクリスタルがお高いので、現在3個しか持っていないが。


「やっぱり、ゴーレム対策はしたいところだな」

「ううん……でもコレ」


と足元に転がった黒光りする物体をカシスと睨む。

小型ゴーレムの胸のパーツだ。


こいつは外壁の色調べの際、ユーミルが『霊動ポルターガイスト』で運び込んだ。

最初はザリードゥに担いでもらうつもりが、彼ですら持ち上げることができないくらい重かった。

いわく、明らかに物理法則を無視した重さだと。


「起動してる時はそーでもねェが、バラされてる間は『加重』がかかってンな。こいつ一個で家一軒はある」

「こうして運び込んで、調べられないためか」

「……まあ、天才魔法少女のユーミルちゃんなら楽勝だけどな……」

「そこは素直に称賛しておくよ」

「……ふふん」


しかしそのユーミルでさえ、この重さのモノを運ぶのは魔力消費が大きいらしく、一個がせいぜいだった。

なにより、今は無駄なMPを払うのは避けたい。


遺跡全体を『回転』させる動力といい、そのたびにゴーレムを『再起動』させる魔力といい、個々の部品パーツに掛かった『加重』といい……


「この遺跡ダンジョン建造者マスターはとんでもないですね」

「……とんでもないというか、無茶苦茶だよな」


ほぼ、無尽蔵むじんぞう動力エネルギー源がないと不可能なのでは?

発見から半年、ひたすらにこの超巨大立方体キューブは動き続けている。


そして……あの小型ゴーレム。


「こうして間近で、ゆっくり観察してみるとやっぱり……」

「似てるわね、裏庭のに」


そう。

我が家と言ってもいいフラメル邸の裏庭にそびえ立つ巨大ロボット。

そいつのフォルムや体に刻まれた紋様とどことなく似ている。

素材も、黒塗りでわからなかったがもしかすると同じかもしれない。

みけがしゃがみ込み観察する。


「うーん、アダマンタイトですね。つまり壊せません」

「ビンゴやな」

「恐らく、胸部の部品パーツ内部にゴーレムコアがあり、『回転』と同時にダンジョンの動力源コアから魔力を受け取って『再起動』するのでしょう」

「つまり、無敵ってことか……」


そしてやはり、もう間違いない。

この立方体キューブを動かしうる無限に等しい『動力源』も、精密にして強力なアダマンタイト製の『ゴーレム』を作る技術も。


建造者マスター錬金術師アルケミストでないと不可能だ。

それもそう、この世界を去ったフラメルの始祖、ニコラ・フラメルほどの達人でなければ……。



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※ここのところ作品フォローや★評価を多く頂けたおかげで、週間ランキング88位! そして大台である★500が目前……たくさんの応援ありがとうございます、とても励みになりました!(`・ω・´)ゞ

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