旅中小話 「パーティ名は恥ずかしがらずに付けましょう!」

急遽きゅうきょ追加した小話です。

 気軽&設定回ですね、箸休めにお楽しみください。


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カラコロと自由都市の街道をすすむ。

街の門を出て、それからしばらくすすんだ辺り、できれば人通りが少ないタイミングを見計らって紅竜リンドヴルムでいざ大空の旅へ……が今の目的だ。


だが、大都市の街道というのは人の流れによってはそこそこに混む。

あちらの世界の渋滞とまではいかないが、馬の速度も人のそれ。


「……どうする。騒ぎになるがここから一気に……」

「師匠、それはちょっとマズイのでは!」

「……そうね、イリムちゃんの言う通りよ」


カシスは辺りの群衆や馬車に目をやりひと言、「少なくとも10人は怪我人がでるし、下手すると死人もでる。これが、調査役としての見解」とただ事実を告げた。


「チッ、急いでるってのに……」

「でも、ちょうどいいかも」

「なにがだよ」

「休憩がてらって考えたら? ここんとこずーっと張り詰めてて、会談、戦闘、また会談……それに正直、ドワーフ島では心から休むことはできなかったし」

「……まーな……」


「ユーミルもか?」

「……万が一に備えてな。四六時中『魔眼』で見張ってたんだよ……」

「おおう……すまない」


とはいえ俺も『俯瞰フォーサイト』を常時展開、最大出力で起きてるときも寝てるときも、飯食ってるときもアレのときも、ひたすらずーーーっと維持していたので人のことは言えないが。


ドワーフ達に対して、すぐに信頼を預けられるほど「あの日」の記憶は軽くない。

あくまで彼らとは利害の一致、生き残るための協定だ。

彼らに理由があるのも理解はしている。しかし共感まではできない。


「まぁーた師匠は暗え顔してんな。なんか明るい話でもしようぜ!」


鈍行どんこうのため、馬に鞭を振る必要のないザリードゥがこちらの表情を察して声をかけてくれる。

……いやまあ、そうだな。

偶然できたホットスポット、たまには気を緩めよう。


とすると話題はアレしかない。

ザ・パーティネームである。


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「俺が修行、ユーミルがカンヅメだったあの2年間、君たち3人はすげえ頑張ってくれたと思う」

「まぁーな」

「楽勝でしたよ!」

「……この二人が強いからね」


そう。

冒険者がパーティを組むさい、いわゆる黄金律ゴールデンルールとしてよくあげられるのが以下の4人構成だ。


すなわち、戦士、盗賊、魔法使い、僧侶である。


前衛の要にして近接戦闘のエキスパートたる戦士(たまに肉盾)。

死の罠の迷宮や、二枚舌の依頼人との交渉に欠かせない盗賊。

手数と強力な一撃で、細事から大事まで大活躍の魔法使い。

怪我から呪い、脱臼骨折なんでも癒やすぜすげえぜ奇跡! の僧侶。


これら4種がまんべんなく揃うのは限りなく理想論に等しい。

魔法の使い手は少なく、癒し手ヒーラーはもっと少ない。

ぶっちゃけ戦士のみのパーティなんてのもザラだ。しかもすべてオスとかもザラだ。ほぼほぼ柔道部かラグビー部だ。


その荒野の果てにあって、彼女ら3人パーティは恵まれているといっていい。


イリムは特級の戦士にして、『石槍』を始めとする攻撃魔法も扱える。

しかもたくさん、ホントたくさん。


カシスは達人級の盗賊にして、前衛も投擲とうてきも問題なくこなせる。

しかも受け流しパリィの腕前は随一ずいいちだ。


ザリードゥは特級の戦士にして、奇跡も潤沢じゅんたくに発現できる。

そして大技『神の怒り』、使い手は大陸でも数えるほど。


つまりこの3人は、戦士も盗賊も魔法も奇跡もすべて高いレベルで備えているのだ。

大陸でもまず五指に入ると言われている。


そして……そのパーティ名が【トライフォース】だった。


「あの香ばしさは絶対カシスの命名だよね」

「なんか文句あるの?」

「……いえ、なんでもございません」


「私はお気に入りでしたよ!」

「ありがとイリムちゃん!」


ガシッ、と抱き合うふたりの少女。

このふたりは名付けのセンスが近しいのだ。

俺は直訳というか、飾らずカッコつけずふつーの名前が好み。


熱杭ヒートパイル』も『火弾バレット』も『俯瞰フォーサイト』もすべてシンプル・イズ・ベストさ。


「トライフォース……しばらくアレで通してたからなぁ、俺っちも思い入れがあるパーティ名だぜ」

「えっ、そうなの?」

「なによりよ、パーティ名で覚えられるなんて初めてだからな」


トカゲマンは一匹狼時代が長い。

年代が近いので感性が……とも思ったがやはりヒトそれぞれか。


それからドワーフ島へ旅立つさい、パーティが5人になったので「フィフス・エレメント」という案が出た。

発案者はもちろんカシス。


「オマエの名付けルールはゲームか映画だよな……しかもやや古めの」

「……なんか文句あるの?」

「いえいえ」


最初は却下したかったが、急造だしこれまたイリムが気に入ったしで一時採用。

しかしなんと、一度も名乗る機会は訪れなかった。

口に出すのが恥ずかしかったんだよ、スマンな。


「ちなみに……フィフスとか、フォースとか、意味は伝わってるんだよね?」

「うん? わかりますよ」とイリム。


そう。

ニホン語も、それから簡単な外来語もだいたいは伝わるのだ。

厨二病、チートなど概念がいねん自体が新しいものはだいたい伝わらない。

法則性は……よくわからない。


そもそもなぜ言葉が通じているのか謎だから、考えてもしかたないか。

いずれは、きちんと理由が知りたいけどね。


「そして、私も加わった新しいパーティ名は【セブンズアーク】ですね!」


元気よくみけが答える。

彼女からすると今回の依頼クエストが冒険者としての初仕事だから気合が入っているのだろう。

……ああ、そういや2年以上前に、ひとりで冒険者登録をしてしまい、猫探しをやったコトもあったか。


あの時とは比べ物にならないぐらい強くなったみけ。

そしてあの時にはリーダーとして存命していた彼女アルマ


そう、パーティ名のセブンは、彼女も加えての数である。


今この馬車にいる6人に、今もパーティの助けになってくれているアルマを加えて7人。

発案者は俺だ。


まれびとの転移を感知する『風の羅針盤らしんばん』を筆頭に、いまだ動かす手段がわからないけど裏庭のゴーレムのメモ。

ほかにも、みけが短期間で錬金術を習得できたのも彼女の残したモノが大きい。

みけいわく、もし生きていたら極めて優秀な教師になっていただろうと。


「アルマも加えて、は私もいい案だと思うわ。けど聖櫃アークって……」

「うん?」

「……もしかして、アンタ名前の意味知ってる?」

「すげえ! とかつええ! って意味じゃなかったっけ」


俺がそう答えると、カシスは「間違ってはないけど……うーん……」となにかを言いたげ。

なんだよ、言葉の響きがカッコイイんだからいいじゃんさ。

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