第165話 「イリム100%」
「本当に驚いた、防御の素質があるとはふんでいたが」
「いえ、ここまでこれたのは最近で、それに……仲間のおかげです」
カジルさんとミレイちゃんに、カシスを紹介する。
JKは、まんまな猫顔のカジルさんにやや面食らっていたが、すぐさま丁寧に挨拶。そう、あそこまでのザ・獣人はあまり大樹海から出てこないため、かなり珍しいのだ。ただしトカゲは除く。
「……ところでこちらの女性は」
「師匠サンの、彼女でありますっ!!」
さきほどの俺とカジルさんの攻防を興奮した様子で見ていたコバヤシ
「そうか。改めて、俺はクミン村のカジルだ。旅人さん、やるな。綺麗な人じゃないか」
「……イリムの妹のミレイです。……お姉ちゃんじゃ、こりゃ勝てないよね」
「えっ、ええっと……」
ふたりに握手を迫られ、なんとか対応するカシス。
しかし、マズイな。
こういう誤解は、早いうちに解決しないとフラグがどんどん重なるという法則が……
「――師匠さぁーん! わっ、猫が立ってます!?」
「……あん、猫?……すげえな純粋獣人じゃん……」
みけと、ユーミルが仲良くこちらへテクテクと。
カジルさんがよほど珍しいのか、ふたりとも興味しんしんのご様子だ。
しかし俺と……あと表情を見るとカシスも気が気でない。
ふたりの
対する彼も満更でもない様子だ。
そっか、そういやカジルさんはプレイボーイだったよね。
しかし、みけはもとよりユーミルも見た目JCなのだが……彼の守備範囲に入っているのだろうか。
なんだか初対面のときからどんどん彼にはアプデが入るな。
「そうだ、旅人さん。彼女さんと一緒に【槍のイリム】のところまで案内してくれないか。その名を頼りに、フラメル領まで来たんだが」
「あっ、ああ。じゃあ急いでそちらに行こう」
下手なことになる前に!
しかし、耳ざといみけからちゃっかりツッコミが入った。
「……彼女さん?」
「……あん、師匠の彼女は……イリ、」
「さきほど紹介されたぞ、旅人さんの彼女の、カシスさんだろう?」
ええっ! とふたりの少女がこちらを睨む。
両者ともに、いろいろなことを言いたげだ。
「師匠さん、もしかして本当に浮気……」
「いっ、いや違うっ」
「……まじかよ……へえー、師匠はわりとオッケーなんだなそういうの……」
「いや、なんで俺の服摘むのさ?」
「カシスさんもやりますね、イリムさんと略奪愛ですね」
「ちょっと、止めてよ私イリムちゃんと喧嘩なんてイヤだって!」
「……さすが
「だからっ!」
どうしよう。
今のうちの真相を話すかいやしかし。
さきほどからコトの発端のコバヤシさんがいまだにこの場を離れないので、弁明の機会が訪れない。
こういうとき、魔術師なら『睡眠』とかで彼を一発退場させられるのだろう。
便利だ、俺も
やはり俺はどこまでいっても火力バカ、そこは変えられないのか。
「――おおっ、カジルに……ミレイ!!」
「あっ、お姉ちゃん!!」
背後から、愛しい人の声。
そして正面のミレイちゃんは喜びを隠さずその場で飛び跳ねる。
姉妹はそのまま駆け寄ると、しっかと互いに抱き合った。
ぐりぐりと互いに撫で合うように。
シッポを互いにバッサバサと。
涙は流さず、しかし喜びだけに包まれて。
美しい光景。
そう、最初の旅の目的はこれだった。
彼女を【槍のイリム】として有名にし、そして妹と再開させる。
その目的は果たされた。
……のだが、ここに来て最大のピンチだ。
カシス恋人だよ案件が彼女にバレたら、この感動が台無しだ。
喜び100%のイリムに水を差すことはしたくない。
横のカシスと目を合わせる。
それだけで、彼女も同じコトに思い至ったことを確認する。
まさに
まさに長年組んだ
ふたりでコバヤシ
そして大声で、礼として頭を下げて宣言する。
「ごめん、あんまりにもアンタがしつこかったから、コイツが恋人だって嘘ついちゃった!」
「スマン! 騙して! でもしつこい男は嫌われると思うぞ、そりゃ」
大声で。
カジルさんやミレイちゃん。
みけやユーミルに聞こえるように、事情がわかるように。
一発で誤解が解けるように。
……そしてつまりは、村のみんなに聞こえるように。
周囲のすべてから彼に視線が集まる。
スマン、コバヤシさん。
姉妹の感動の再開と、あとついでに俺の安全のために、ちょっと厳しめに女心を教えてやる必要が生じたのだ。
「――ぐふっ!!」
彼は衝撃でその場で膝立ちのまま崩折れた。
有名戦争映画、プラトー◯の名シーンのように。
しかもそのまま泡を吹いて気絶している。
うむ、後日……ちゃんとフォローはしておこう。
彼がこの世界であらためて別の希望を抱けるように……。
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