第162話 「旅の仲間」

「――――師匠ぉぉぉぉおお!!」

「ぐふっ!」


と、イリム恒例の挨拶。

だが甘い。

俺も鍛えただけあって、もはやこれぐらいではノーダメージだ。


そもそも、常時最高級の軽装であるミスリルの鎖かたびらを着ているのだ。

まともに考えればダメージなどないはずだ。


……なぜか、イリムの突撃やカシスのボディブローなど一部の攻撃は完全に素通りしてたのだが。イベント力場かなにかだろうか。


謎だ。

まあいい。


愛しい彼女にして愛弟子であるイリムの頭をぐりぐりと撫で返してやる。

気持ち強めに、そして彼女の弱点であるケモミミもソフソフと。

特にこの根本のところが……、


「うっ! ……ちょっと師匠!?」

「悪い悪い、久しぶりだからな」

「もうっ、知りません!」


プイッとそっぽを向き、釣られてキツネのようなシッポが揺れる。

ちなみにあそこも弱点だが、まあ、これ以上ちょっかいだすとほんとに怒られるだろう。


「ほんとにお前ら仲いいなぁ! ま、犬も食わねえモンはそこまでにして、報告だ」

「ああ」

「……はあ」


カシスがため息。

やれやれといった風に頭を押さえているが、その態度もなんだかさまになっている。ほとんど……いや、微妙にはしてるのだが成長の遅いイリムと違い、カシスはこの2年でぐっとオトナっぽくなった。


まあゆうてハタチ直前、まだ子どもらしさというか、少女らしさは十分残っている。しかし女性らしさも十分出てきて、こんなのが大学にいたら噂の的だろうな。


「なによジロジロと」

「いや、綺麗になったなぁって。うん」

「――なっ……」


なんだかプルプルしているカシスと、へえーというイリムの声が怖かったのでしばらく黙る。

しばらくが過ぎたころ、ようやく今回の探索と調査の報告会と相成った。


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「つまり……」


とカシスがその長い黒髪を撫でながら言う。

ちなみに、彼女はまだJKブレザーを着こなしている。

館のメイドさんに頼んでサイズを調整し、いろいろズルイ錬金術で劣化も修繕し。

20直前で制服、こう聞くとヤバそうだ。


しかし、なんとその見た目はぜんぜん違和感がない。

下手なJKモノのAVだと「……はぁあん、舐めるなよ!」という事案も発生しうるが、比較にならない。


「……ちょっと聞いてるの、アンタ」

「聞いてますよ、カシスさん」


ネコのような目で睨まれたが、かるく受け流す。


彼女とザリードゥの説明をまとめる。

まず遺跡探索ダンジョンアタックの成果は上々で、盾のコインを筆頭に便利アイテムはザクザク。

だが残念ながら上級の『防護』はゲットできなかったと。

基本防御のなかで、アレだけはまだ抜けがある。

魔法に長けたユーミルと、それにそう……いまだ俺は認めてはいないが、みけの分。

彼女らは自前の魔法防御に長け、なくてもなんとかならなくはない。


そして、ここからが本題だ。


「やっぱり、西方諸国のまれびと憎悪ヘイトはそこまで高くない」

「ふむ」


あの、2年前の王都からフローレス島までの旅。

そしてここ2年間の調査。

それをまとめると、やはりそう結論できる。


「ユーミルの故郷の自由都市はもとよりまれびと狩りは、ラビット達との条約でなかったし、他の街も感情というよりルールだからって感じ。

 もちろん、なかには嬉々として参加するやつもいるけど」


それはもう、一定以上は湧いてしまう問題だ。

ニンゲンはそこまでみんな、清くも美しくもない。


殴っていいサンドバッグだから、大喜びで飛びつくやから

そんなのはどこの世界にも存在するのだ。


「氷の魔女の問題がまずは先だけど、そのためにも各国の協力は必要だし。できれば、交渉可能なところはしておきたい。……でしょ?」

「ああ」


どう【氷の魔女】を攻略するかは、すでにアスタルテから案がでている。

ちょっと信じられない方法なのだが、あのスカイツリー火柱ができるのなら可能な気もする。


そしてその方法をとる場合、俺たちだけでは不可能だ。

また、【黒森】のように【氷の領域】の反発も考えられる。

だから、最低でも西方諸国は味方につけなければならない。


「王国、そして帝国は……」

「難しいかな、それに帝国はまずムリ」

「……そうか」


帝国は【氷の魔女】の驚異にじかにさらされており、異端刈りの本部すらあった。

あった、というのは2年ほど前に潰されたからだ。

下手人はいまだ不明だが、ほんの数人とのこと。ちょっと凄い話である。


「帝国はまれびと狩りのメッカといっていい。そしてそこからの旅人や、いわば難民。そして伝聞。王国も憎悪ヘイトは高め。

 もちろん、帝国とは比較にならないだろうけど」


「……まあ、できるところからだ」

「そうね」


方針は決まった。


氷の魔女を止める。

そしてまれびと狩りというこの世界の常識を変える。

ふたつを同時にやるなんて……とも思う。


しかし、やはり。


すこしでも早く、あんな悲劇は終わりにしたいのだ。

ひとりでも多く、助かる人は助けたいのだ。


たとえそれが、二兎を追うものの道であろうとも。


「そのためにも、最終の調整。しっかり完了してよね」

「ああ」



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【大陸メモ】

スピンオフの方にも載せましたが、この世界の代表的な防御魔法です。


矢避けアヴォイド』 

物理的な飛来物から身を守る。

中級で拳銃程度なら完全にそらすことができるし、上級なら狙撃銃クラスもそらす。


防護プロテクション

害意のある魔法から身を守る。

『呪い』や『睡眠』などに特に強く、逆に純粋な魔力攻撃である『魔法の矢マジックボルト』などは威力を少し減らす程度。


『耐火』『対氷』『対雷』『対土』

それぞれの属性・あるいは精霊力から身を守る。

ちなみに『石槍ストーンスピア』は土の精霊の御業ですが、ぶっ刺さったらフツーに痛いので『対土』は無意味です。

しかも完全に物理的な飛来物でもないので『矢避け』もかかりません。

熱杭ヒートパイル』も含め、こういうモノを魔法的物理属性と呼称する人も。


対色アンチカラー

上の四色全マシマシ。

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