prologue0「炎の悪魔の物語2」
あのあと【賢者】とやらに回復を施され、俺は視力を取り戻した。
そうして見えた最初のモノはアルマの死体だった。
【勇者】が持つ奇っ怪な形状の剣に腹をくり抜かれたのか、お腹がぽっかりと無くなっている。
そうして血溜まりに倒れ込むアルマの顔は、なぜか涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「…………アルマ?」
もしかして、彼女は。
本当はあんなことなど……やりたくなかったのでは?
先の言葉に、もしかして……嘘などなかったのでは?
しばらく、本当にしばらく俺は身動きひとつとれなかった。
ある考え、そして後悔に押しつぶされた。
しかし、俺の中の
……馬鹿じゃねーの、と。
急いで頭をよぎった
そう。
それだよ。
その甘ちゃんでクソみたいな思考を捨てろ。現実を見ろ。この世界の奴らはすべて敵だ。あのイリムでさえああだったんだ。
信じられる奴はいない。それを履き違えるな。
そう、この女は勇者にやられた傷がよほど痛くて、だから泣いていたのだ。そうに違いない。それしかありえない。
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……あれから1年が経った。
今は、勇者と賢者と、3人でパーティを組み『世直し』をしている。
東にまれびと狩りが起きれば東に、西にまれびと狩りが起きれば西に。
賢者は『空間魔法』を多少使え、それでまれびとの転移を察知できるそうだ。
そして勇者は『縮地』が使える。
彼と手をつなぎ(最初は抵抗があったが)、彼が『一歩』を踏み出すと、そのまま視界の許す限り遠くまで一瞬で移動できる。
この『一歩』の連続で、大陸を極めて素早く移動できる。
間に合うことも多く、まれびとを急いで救出。あとは残りの害獣を殺していく。
まれびと狩りを何度も目にしてわかった。
こいつらは、異世界人は、バケモノだ。
特に帝国はひどい。
ズタズタに虐殺された青年。
ぼろぼろになるまで酷使された女性。
四肢を奪われ胴体のみ、性別不明にされた誰か。
……そんなモノを延々えんえん見続けて……俺は悟った。勇者の言っていた通りだ。
こいつらは、ニンゲンじゃない。心を持たない害獣だ。
SF映画でいう、侵略しにきたエイリアンだ。
だから、これは殺人じゃない。正当な戦いだ。正義はこちらにある。
「しっかしジェレマイアのやつは滑稽だったな」
「【紅の導師】か。なんで【闇産み】になんて挑んだんだろうな」
PRだ、と勇者たちと参加した【黒森】の防衛戦で、かの有名な赤い魔法使いは
その後、俺を妙に気に入ってきた壁の指揮官から、彼の日記を受け取ったのはラッキーだった。
あの日記は一種の
……ヤツもまれびと、いや転生者だというのは勇者とふたり、おおいに驚いたがね。
いつも無表情な賢者でさえ驚愕していたのだから相当なことである。
「……肉体でなく、魂だけで召喚された……? その後赤子……そうね」
賢者はひとつの仮説を立てた。
魂だけで転移すれば、普通はすぐにも消えてしまうそうだ。
だが、もし。
転移したそのすぐそばに、強力な
それもとびきり、魂を吸い寄せるほどの類まれなる強力な徴であったらなら。
『異世界転生』が成立するのではないかと。
「とてつもなく、奇跡的な確率だけど。それなら確かに、結果的に、ニンゲンのくせに、あれだけの魔法使いが産まれてもおかしくはない」
そう語る賢者の表情は、まさしく苦虫を噛み潰すがごとくであった。
魔法に長けた種族を自負するエルフの彼女からしたら、ジェレマイアの存在は認めがたかったのだろう。
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それからさらに数年……邪魔者がやってきた。
白い幼女、アスタルテは強かった。
仲間と力をあわせ、なんとか殺すことができた。
『
あれの直撃はさすがの彼女も防ぎようがなかったのだろう。
群青色の二人組もなかなかだった。
【四方】ではないとはいえ、相方が反則的だった。
なんだよ、人間には殺されないって
だが彼のルールには穴があった。
人間には殺されない。
人間とはなにか。
この世界の、人間もどきのことだ。
つまり、本当の人間である俺たちまれびとには通用しない。
「――!! 存在の移し替えが効かない!? 君たちまれびとはまさか……」
「危ないっ! デス太!!」
そうして、青衣の死神は俺の『
後は、楽勝だった。
残された女がいっきに崩れたから。
あれだけ展開していた守りも、なにもかも。
勇者のミキサー剣の一撃で
倒れざま、女は相方の残されたローブをかきだき、ひとこと呟き死んでいった。
それから、それから。
強者も、弱者も、大人も、子どもも。
ただ一切の差別なく。
ひたすらに平等に。
この世界の害獣どもを焼き尽くした。
同胞たちを救っていった。
大人を焼いた。子どもを焼いた。老人を焼いた。妊婦を焼いた。村を焼いた。街を焼いた。国を焼いた。
すべてすべて、この世界の人間もどきを焼き尽くした。
俺たち本物の人間にもう二度と、手出しができぬよう。
そうして、……そうして。
数え切れないぐらいそれを繰り返したころ……。
懐かしい、ひとりの少女が俺たちの前に立ちふさがった。
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