第150話 「丘の下の巨神兵」

みけは、巨大ゴーレムと口にした。

男の子なら憧れる、すぅぱぁなロボットが頭に浮かぶ。


「えっ、どういうことよみけさん?」

「説明致しましょう!」


みけはフラメルの書庫に浸り、毎日その知識を高めている。

もちろん、たまの息抜きや午後の紅茶はかかさず、日々も楽しんで。

そうして今日、ある本と出会ったそうだ。


「……アルマの、メモ?」

「そうです」


その本にはびっしりとアルマの走り書き、そしてメモが挟んであったそうだ。

来たるべき戦いに備え……というメモ。

宛先はみけ、そして俺たちであった。


「アルマは……なんて?」

「もしもの時は、コレを活用して下さいとだけ」

「……そうか」


なにか、手紙のようなものを期待したのだけど。


「本とアルマさんの書き込みによると、この丘自体がフラメルの開祖、ニコラ・フラメルの創造した機構人形ゴーレムだそうです」

「……相変わらずすげぇなフラメルは……」

「すげえな音割れてないほうのポッター……に出てくる人」


足元の丘はざっと見て、幅50m、高さ15mぐらいある。

お椀をかぶせたような、もっと上品に言えばパイオツのような、キレイな半円形だ。

この足元の丘に巨大ロボットが埋まっているというのか。


「掘り出すのは骨が折れ……ああっ、そうか!」

「そうです、アスタルテさまです!」


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俺たちはアスタルテを呼び、丘からすこし離れた草原にいる。

みけが懇切丁寧に説明する声がさきほどから続いているが、さしものドラゴン様もうろんげな表情だ。


「ふーむ、ゴーレムかいの。にわかには信じられんが……」

「お願いします、アスタルテさま!」

「ま、よかろ」


ずい、と白き幼女が丘へ向けて手をかざす。

ただのそれだけで、巨大な丘が吹き飛び砂が流される。

5秒とたたずソレは姿を現した。


「うひょおおおおおお!!!」


「わっ、師匠さんなんですか!?」

「……うるせーな、まれびと……」


俺は思わず某有名棋士ひふみんのごとき奇声を上げていた。

巨大なソレの、あまりのカッコよさに。


まさしく鉄の巨人、スーパーゴーレムである。

丸みを帯びたプレートが何枚も連なり、全体的なフォルムは人型の甲殻類を思わせる。

色は赤銅色、目元は単眼モノアイでこちらもカニの顔に似ている。

今は屈むようにしゃがみ込んでいるが、立ち上がればさらなる威容を獲得するだろう。


「まったく、ヒトは時として驚異的じゃな」


アスタルテですらけらけらと小気味よく笑っている。

みけとユーミルは、ちょっと反応が鈍いが……。

生まれ持ったオトコノコ回路が少ないのだろうか。


みなで、姿を現したゴーレムに近づく。

突然動き出しそうで正直すこし怖いが、まあロマンには勝てまい。

憧れは止められねぇんだ!


巨大ロボの屈んだ足元までたどり着くと、コレが規格外のシロモノであることが改めてわかる。

装甲はおろか、可動部にあたる球体間接に至るまで。

すべて赤銅色の鋼でできている。

そしてソレは、とある魔法金属である。


破壊不能特性を持つ、チート金属アダマンタイトだ。



みけの調査が終わった。

ロボットの威容と、外殻の豪華さで興奮していたが、彼女の口から語られた言葉はそれを冷ますには十分だった。


「絶対に、動かない?」

「ええ」

「……まあ、そーだろーなと思ったけど……」

「ほうか」


どうやらこの巨大ロボは、とある動力を前提として組み立てられたものらしい。

無限とも思えるエネルギーを供給し、総アダマンタイト性という超重量を軽々と動かしうるモノ。

すでにこの世界から失われたモノ。


「……賢者の石、か」

「ええ、ニコラ・フラメルが創り出し、そしてサン・ジェルマンが盗み出した」


ギリリ、とみけが歯ぎしりを立てる。

すでに【フラメルの娘】としての自覚を持った彼女からすると、一連のこの出来事は怒りをもって語られる。

祖たるニコラさんは遥かに昔の人だし、そもそもこの世界を旅立っている。

そして彼の残した遺産や知識は、まれびとたる【詐欺師】に盗まれた。

そして盗人は石のチカラで故郷へ帰った。


その石こそ、この巨人を動かしうる奇跡の動力だったのだ。


規格外のボディには規格外のエネルギー、考えてみれば当たり前の話だ。

例えば、原子力空母はその名の通り原子炉を備えている。


「動かすことのできない、巨大な銅像か」

「……残念ながら」


「じゃあ材料をなにかに使えないか? 例えば鎧とかさ」

「『破壊不能』鉱石たるアダマンタイトは、一度カタチを決定されると絶対に壊れません。そして壊せません」

「……。」


「じゃあさ、賢者の石のほうを作れば……、」


俺の軽率な発言は、殺気でもって止められた。

みけから本気で睨まれている。


「師匠さん」

「……なんだ?」


みけさんがなぜかお怒りである。

にこっ、と笑っているのが逆に怖い。


「アレを作れだなんて、そんな簡単に言われては困りますよ。他の錬金術師に言えばそれだけで殺人の正当な理由になっちゃいます」

「……そ、そうか。……すまん」


その日、フラメル邸の真後ろの丘は吹き飛び、代わりに置物が出現した。

文字通りの、ただの巨大なモニュメントが……。



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今日だけでお星さま、またの名を輝くスリケン……つまり評価を12も頂け、とても励みになりました、ありがとうございますm(_ _)m

これからもちくちくと創作頑張っていきます。

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