第149話 「丘の上のふたり」
アスタルテとの
「今日は休憩でよい」と告げられ俺は手持ち無沙汰に散歩などしている。
ぶらぶらと館の裏手へまわると、そこには小高い丘がある。
緑の草に覆われ、ところどころに小さなピンクの花が咲き誇っている。
たしか……ヒースとかいったっけ。
素朴でかわいい花で、俺は気に入っている。
ちなみにこの花が堆積して
ちょっと開発してみたら商売無双できないだろうか……と考えたところで苦笑してしまう。
ウィスキーは樽に貯蔵して何年も寝かせなければ完成しない。
旨い、と文句なくいえるには10年はかかる。
つまり、【氷の魔女】をなんとかしてからでないと意味がないのだ。
「まあ、いずれ……かな」
ふと丘の上を見ると、紫色の人影。
ユーミルだ。
彼女は俺のパーティで唯一の「まれびとでなく、獣人でない人物」であるため勇者の抹殺リストに入る。
『死法の魔眼』の持ち主であり、その効果で死期が見えるため、奇襲……例えば狙撃など……は問題なく避けられる。
しかし万が一があるかもと、現在彼女もここ、フラメル邸に滞在している。
アスタルテの庇護下であれば、勇者もそうそう手出しはできない。
丘を登り、ユーミルのもとへ。
「よう」
「……師匠か……」
彼女は地面から突き出た赤銅色の岩に腰掛け、パンを食っている。
どでかい丸パンで、脂したたるベーコンと屋敷で採れる香草をふんだんに挟み込んだ一品だ。
「おまえって、結構メシ食うよな」
「……まー、食事からも魔力は取れるしな」
「ふむ」
「……師匠の故郷でも言うんだろ、命を頂くって……」
「ああ、いただきます、だな」
「……命そのものには魔力がある。私ら死霊術師はソレを使う」
「なるほど」
みけに魔導書の読み方を教わってからは、たまに彼女やじいやさんに頼りつつ座学も嗜んでいる。
だが、死霊術に関してはおどろくほど資料が少ない。
たまに記述があってもぼやかしやほのめかしばかり。
物凄く秘密主義なのだ。
「……ん?」
ユーミルからぼーっと見つめられているのに気がついた。
なんだろ。
「……なあ、なんで師匠は私を避けなかった?
ああ、そんなことか。
「ええっとだな」
「……うん」
鎖で
さらに
トラップゲームの
厨二御用達でほとんど抵抗ないというか、まれびとはキミみたいな娘に優しいのだ。
……ということをユーミルに説明するのか。
難儀だな。
「ユーミルが闇の波動に目覚めたのはいつ?」
「……はあ?」
「ちなみに俺が14のとき、友達の女子が拷問器具辞典とか持っててだな……」
あれは引いたな。
ニコニコと解説してくるんだ、聞いてもいないことを。
まあ……今思い返すとほほ笑ましい青春の1ページだが。
「……私は最初の友達がアリエルとミリエル、つまりネビニラルの姉妹。
……それと、拷問器具に憑いてた死霊たち……」
チャリチャリ、とユーミルの紫衣の内から、彼女の言葉に応えるように鎖が鳴く。
「……まあいいか。師匠には話してやるよ……」
そうして彼女は語りだした。
幼少のころ、死神であるデス太を挟んで姉とよくおとぎ話を聞いたこと。
地下の拷問部屋で泣いていた霊を、父親と姉を説得して自分に帰属させたこと。
「それが、盾太郎と鎖丸?」
「……ああ」
お家交流でよくネビニラル家に遊びに行ったこと。
アリエル、
そのブランコの取り付けられた大木は今でも容易に思い出せること。
「……立派な樫の木でな。この前寄ったらそばに墓が立ってた。屋敷もリディ姉が買い取ったらしくそのまま……」
「ふうん」
あの、悪魔のような少女にも人の心があるのか。
親友の死をいたんだり、思い出を保全したり。
ただのサイコパスではないのかな。
……と、ふたりでしんみりしていると、トテテテ、と丘を登ってくるみけの姿。
実は常時展開している『
「師匠さん、お姉ちゃん」
「おっす」
「……よう、ミリエル」
そうなのだ。
みけ……ミリエルは記憶を取り戻した。
アルマの死を告げたあの時に。
あれから半年以上……月日が経つのは早い。
「……ミリエルは、あのブランコ憶えてる?」
「はい、楽しかったですね」
みけがほっこりと笑う。
それを見て、俺は彼女が記憶を取り戻せてよかったと心底思った。
姉のことも、ユーミルのことも。
……リディアは別にいいや。
「師匠さん、お姉ちゃんとおふたりで……もしかしてっ!?」
「……おい、ミリエルお前、」
「いや、ないよ」
「……。」
「そういうのじゃないぞ」
「そうですか」
みけがほっ、としたような残念なような、不思議な表情をする。
そして突然、左腕にギリギリと痛みが走った。
「いてて! いてぇ!!」
「……ケッ」
ユーミルに渡され、俺の左腕に巻き付いている鎖が心持ち強めに締め付けてきた。
この鎖には幽霊が取り憑いているので、彼なりのなんらかの意思表示なのだろうが……。
しばらくゴメンゴメンと鎖に謝っていると、ようやく彼は解放してくれた。
以前、フローレス島で大軍を突っ切った時、俺は不思議と怪我ひとつ負わなかった。
恐らく、彼が
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「そうです、お姉ちゃん。ちょっとそこどいてください」
「……? ああ、いいけど……」
ユーミルがひょい、と腰掛けていた赤銅色の岩から飛び降りる。
その岩を、みけは手で撫でたりふんふん頷いたり。
「……やはり、これは凄い」
「なんかあるのか?」
「……とんでもないですね」
「あの、聞いてるみけさん?」
「いま考え中なんですけど」
「あっ、すまんね」
こうなるとみけは人の話聞かないしテコでも動かない。
俺も気になって彼女の関心を惹いている岩を観察する。
確かに、自然の造形としては変だな。キレイな直線で角もきっちりしており、クリスタルかなにかのようだ。
人工物……いや、玄武岩がキレイな六角柱で連なっているのは見たことがあるな。
じゃあ鉱石だろうか。
「凄い、記述の通りですね」
やっとみけの思案タイムが終わったようだ。
さっそく質問を浴びせてみる。
「わかった!凄い貴重な石だろ」
「ええ、当たりです師匠さん」
「どうよ」
「……なんで私を見るのさ」
ユーミルに睨まれるが、俺はあてカンが当たった優越感に浸る。
そうして、みけはその鉱石の秘密を開示した。
それは、俺の予想を越えてとんでもないモノであった。
「アダマンタイトを外殻とした
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ドラゴンノベルス新世代ファンタジー小説コンテストに参戦中です(`・ω・´)ゞ
チート、スキル、ステータス、追放の新世代ワードひしめく中でなんとか26位を維持しております。旧式の古臭いファンタジー作品ですが応援のほどよろしくお願いしますm(_ _)m
木曜日は閲覧者が最も少ないという話なので、休載の予定です。
評価……つまりお星様をくれたおふた方、ありがとうございます!
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