第147話 「みけVSアスタルテ」
私はみけ。
でも、今の名前は正しくはミリエル・ペルト・フラメル。
フラメルの……裏の当主を引き継いだ。
……なんだかまだ、ぜんぜん実感がわかないけど。
師匠さんたちが戻ってきた日のことは忘れられない。
あのアルマのお姉さんが。
私のことを考えて、ここに受け入れてくれたあのひとが。
死んでしまったと、そう告げられた。
話を聞かされた直後、私はふにゃふにゃとその場に座り込んでしまった。
……なんで?
……なんで、また。
そこでそうして当たり前のように、私はもうひとりの姉のことを思い出した。
アリエルお姉ちゃん。
ネビニラルのお屋敷であの日、あったこと。
地下の暗く、長く、冷たい石の廊下で、お姉ちゃんは血だらけだった。
あたりにはたくさんの白いローブの人たちが倒れていた。
すぐ、お姉ちゃんがやったんだと思った。
そうして姉はからだのあちこちから木の杭を生やしたまま、私の手を引き……そう。
私を地下牢の一室に閉じ込めた。
そうして、姉の冷たい手が私の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「ミリエル……あなたは助かって」
そこで私の記憶は途切れる。
今ならわかる。
アレは、とても高度な術式だった。
特定の記憶だけにキレイに蓋をして、そして元の人格もその他の知識も壊さない。
お姉ちゃんはとても優秀だったから、ソレを、あんなボロボロの体でも実行できた。
そうして私は【死霊術師の牢に捕らわれていた実験材料】として回収され、流れに流れて王国の孤児院へ。
それから先は……ううん、いいや。
あの屋敷のコトはどうでもいい。
あそこでの暮らしは私じゃないから。
あれから半年。
師匠さんと……アスタルテさまはこの館に滞在して、毎日海岸で訓練をしている。
最初に師匠さんが彼女を連れてきた時は本当にびっくりした。
だって。
だって。
この世界の最強格、伝説の中の人。
【四方】土のアスタルテ。
そんな存在に会えるなんて夢にも思っていなかった。
ほんとうに、師匠さんはすごい人なんだ。
こんな人ともお知り合いだなんて。
でも、師匠さんに彼女の話を聞くと最近反応がおかしい。
……と、話をすればちょうど。
とててて、とフラメル邸の庭園を走り、門をくぐるって彼のもとへ。
海風がここまできて気持ちがいいけど、結わえた髮が暴れるのはちょっと困る。
ぼさぼさ頭で彼と話すのは恥ずかしい。
……手早く整えて、よし。
「師匠さん、今日の訓練はどうでしたか」
「……えっ、はい?」
師匠さんは静かにほほ笑んでいるが、やっぱりおかしい。
だって表情が固まったまま変わらない。
まるでお面みたいだ。
「師匠さん、アスタルテさまとの訓練は」
「……えっ、誰ですそれ?」
「師匠さんを鍛えてる人ですよ!」
私がそう言うと、師匠さんはほほ笑みながら口にした。
「……あぁ、ハートマン軍曹ですか」
「?」
ハートマンさん?
開拓村の誰かだっけ?
「軍曹は私のために、つきっきりでシゴイてくれてですね。感謝感激ですよ」
「……えぇと」
師匠さんはそう言うと「これから
餌って……なによそれ。
もしかして、アスタルテさまのあまりに厳しい訓練のせいで師匠さんがおかしくなったんじゃ。それは困る。
私はいてもたってもいられず、いつも彼女がいる海岸へと走っていった。
「アスタルテさま!」
「なんじゃな」
アスタルテさまは、アルマさんの墓のそばに立ち、海を見下ろしていた。
はるか、人には超えることすら許されていないその先を見ていた。
彼女には行けるのだろうか。
……行けるのだろう。
だってエルフは、西の海を超える方法を知っているから。
彼らのほとんどはもう、この大陸にはいないって。
仲間とともに逃げないのだろう。
……まあ……彼女が居なかったら【黒森】か【氷の魔女】、どちらかにとっくの昔に滅ぼされちゃってるんだけど。
いえ、今はそれよりも師匠さんです!
「あの、訓練が厳しすぎるんじゃないかと」
「ほう」
「なんだか最近の師匠さんはおかしいです。泣いたりとか、笑ったりとかせずずーっと同じ表情でっ!」
「ほうか」
「えぇっと……だからですね」
「安心せい」
「?」
「肉体もじゃが、
「!!」
この人は……そんな。
「それじゃ師匠さんがあんまりです!」
「ヤツは出来るというた。だからやってもらう」
「でもっ!!」
「コレは我とヤツとの契約じゃ。小娘の意見など知らん」
「――!!」
「なんじゃうっとおしい。別にヤツはまだ……ほう。ほうかほうか小娘!」
「なんです」
ぶすっと答える。
さっきから小娘小娘って……アンタだって見た目は子どもじゃない。
「好いた男が別な女に付きっきりでイジメらて、気に食わんと!」
「――――なっ!」
「小娘がのう、ハッ、小娘のクセにのう! そりゃいい!」
けらけらと笑う目の前の少女。
私は顔を赤くしてるだろうか、どうなのだろう。わからない。
しかもそれをこの少女に見られ、いや……少女じゃない――、
「小娘小娘うるさい! アンタなんてババアじゃないのっ!!」
……あ。
気がつけば、あたりは波の音と風の音だけ。
先ほどまでけらけらと耳障りだった
アスタルテさまは、静かに私の目を見つめていた。
ただ静かに、まっすぐに。
心臓がバクバクする。
手が震えている。
だって。
だって。
【四方】の彼女を怒らせてしまった。
死ぬ。殺される。いや、彼女からしたらそれこそアリを踏むがごとく……、
「すまなんだな」
「……えっ」
「すまぬな小娘、いやフラメルの娘よ」
「……。」
「我は長らくまともに人と関わることをしてこなかった。
じゃから勝手をずいぶん忘れておる。
……非礼を詫びようぞ」
すっと素朴な仕草で頭を下げた。
四方、この世界最強のひとりが私に頭を下げていた。
頭が真っ白になる。
「えっ、と……その」
「すこし話をしようかの」
そうして、彼女は彼女の
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4日休憩しようかな、と思っていましたがあまり空けるのもあれなので投稿です。
代わりに人が少ないとされる木曜日は休載の予定です。
休憩中にもたくさんのフォロー、そしてお星さま頂きありがとうございます!
ストックもそれなりに確保できましたので、またボチボチと連載していきます(`・ω・´)ゞ
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