第144話 「弱すぎるにもほどがある」

それから、それから、そう。

自由都市までたどり着き、そこから宿の、アルマが敷いてくれていた『帰還』の扉をくぐってフラメルの領内へ。

アルマのお兄さんや屋敷のメイド長であるじいやさんに経緯を話して。


そうして、そうして。

ひと月が経っていた。

俺はそれだけの時間、ただ動けずにいた。


立ち止まっていた俺に愛想を尽かしたのか。

ぴーすけは南へ飛び去っていった。

海を越え、大海のはてへ。


険しい崖に、波が打ち付け音を奏でている。

その音は、ゆっくりゆっくりこの地形を変えていくのだろう。


そのみさきの突端に、ひとつの墓石が立っていた。

まだまだ新しい、できたての墓石が。


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アルマの墓の前に座り込み、悟った。


俺は……この異世界に飛ばされ、たぶん調子に乗っていた。

ほとんどの冒険者が一ツ星のなかで、あっというまに二ツ星。

術もバンバン撃てて、MPは破格の域だ。


樹海で灰色熊グリズリーを倒した時、

初めての依頼でゴブリンの群れを焼き払った時、

北の砦で600発はいけると豪語した時、

ラトウィッジ邸で骨戦士スケルトンの群れを留めきった時、

交易都市で飛竜ワイバーンを次から次に屠っていた時。


ほかにも、ほかにも。


その時、オマエにはおごりがなかったか?

先輩たちに並んで戦える自分に酔っていなかったか?

ただ運よく授けられただけのチカラで?

ただただ、スタート地点がよかっただけで?


――心底、虫唾が走る。


オマエは確かに強い。

人間の尺度ならすでに上級超え。


しかし、しかしだ。

俺が為すべきコト、倒すべき相手に比べれば。


――弱すぎるにもほどがある。

  まったくお話にならない。


立ち上がる。

ずいぶん時間をムダにした。

俺が立ち止まっていたその間も、冬は待っていてくれない。

氷の魔女の侵略は止まらない。


いずれ、なにもしなければ。

誰も止めなければ。


このアルマの墓も氷に閉ざされるのだろう。

永遠の冬にて閉ざされるのだろう。

そんな光景を彼女に見せることは断じて許されない。


放り捨てた黒杖を拾う。

雨風に晒され泥まみれだ。

しかし、その手触りはとても馴染みのあるものだった。


立ち上がり、アルマに告げる。


――俺が必ず止めてやる。

  だから、どうか。見守っていてくれ。



俺の停滞うじうじは終わり。

立ち止まる時間はない。


俺は、強くならなければならない。


------------


地面に黒杖を突き立て、精一杯、心の底から声を放り出して叫んだ。

そうしてアスタルテを呼んだ。

この世界の最強格、【四方】のひとりを。


ほどなくしてあらわれた彼女に、俺の言葉を伝えた。

俺の目的を伝えた。


氷の魔女を止める。

冬の侵略を止める。


つまりは【四方】を止める。

それができる存在になれるよう、俺を鍛えてくれと。


アスタルテの表情は極めて厳しかった。



「笑わせるなよ……オマエが?……ハッ、アリにも劣るじゃろうて」

「……頼む」


「仲間ひとりが死んだ程度で、その程度の無念で何かが為せるとでも思うたか?」

「お願いします」


「その程度の無念で変われるならのう……誰も、何も、間違いはせんわ」

「……お願いします」


「――ハッ、好いた女が死んだから変われると? お前など……」

「…………お願いします……」


俺は、無様に額を地面に擦りつけて泣いていた。

ただただ、それしかできなかった。

そうすることしかできなかった。


「……そうか……まあいい、いや、よかろう……」

「…………。」


「――覚悟は、できておるな」

「……はい」


「死ぬ覚悟で……いや、死ぬ寸前で我が回復するからのぅ。

 幾度も死線をさまよいながら、お主を鍛え上げる。

 その地獄に耐えられるかの……なあ、どうじゃ?」

「……やってみせます」


アスタルテはしばらく無言で俺を睨む。


……そうして。

よう言うた、と彼女は呟いた。


「よかろう、竜骨の弟子、そしてまれびとの精霊術師よ。

 おぬしを鍛え上げようぞ」




-------------第二部・完




幕間を金・土に投稿したのち、3日か4日休憩。

そのあと第三部の連載を通常ペースで開始する予定です。


できれば第二部完結記念に評価やフォローなどのご支援頂ければ……。

処女作で長編、話数も長くなりここまで読んで下さる方も少数です。

Web小説ではランキングに載るかどうかで、読者数がまさしく桁違いに変わります。

それは書き手のモチベーションに直結します。

どうか、少しでも面白いと思って頂けたなら応援よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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