第135話 「いつか平和に」

※短い、箸休め回となります。



ここまで旅を続けてきた。

王都から十字路宿、アルタルテと遭遇し、風の谷では風精に認められた。


交易都市では【氷の魔女】の尖兵、そして彼女の領域とまみえた。

自由都市ではトランプ富豪ラザラスに出会い彼の悪行を終わらせた。

元冒険者の領主に会い渡航許可を得て、ブランディワイン号でフローレス島へ。


船長カンパネラのおかげでイリムとそういう仲になり、まあそういうコトになった。

そうして現在、当の彼女に連れられラビット庄を散歩している。


「すっごく平和な空気ですね!」

「のどかだよなぁ……」


村中が、春の陽光のようなポカポカとしたオレンジ色に照らされている。

住人たちは明るく陽気、朝昼夕の食事の合間に必ず休憩をとる。

そこではひとり静かに、またはみなで騒いで。


紅茶やパイプ、人によってはバタービール。

思い思いにくつろいでいる。


ぎっこぎっこと優しい音を弾きながらまわる水車を横切り、小さな池のほとりへ。

大きさはサッカーコートぐらい。

小さな舟がふたつ浮かんでいて、そこから釣り竿が生えている。

船長は寝転がってパイプをくゆらせている。


……時間の流れが違う、と感じる。

もちろん戦いや流血とも無縁だ。


「イリムはさ、戦うのは好き?」

「……師匠?

 ええっと、まあ、好きですね。

 なにより体を動かして、こう……勝負!ってのは好きです」


獣人らしいというか、戦士らしい答えだ。


「じゃあ、旅が終わったらこういう場所で暮らすってのはないか」

「……えっ」


「いつか……いつになるかわからないけど、俺たちでも、まれびとでも大丈夫な世界になったらさ。俺は戦いからひいて、静かな場所で暮らしたいかなぁ」

「……師匠」


ぐいっ、とイリムが俺の腕を引きたまらずバランスを崩す。

そうして彼女と同じ目線で、彼女に見つめられる。

その体を抱きとめられながら。


「いいですよ、師匠。

 ぜんぶ、ぜんぶ終わらせたら一緒になりましょう!」

「……そうだな」


彼女の抱擁を受けとめ、そのままこちらも強く抱きしめる。

しばらく、本当にしばらくそうしていた。


そうして思う。

ここで平和に暮らすという選択肢。

もう、戦いは止めてここでイリムや、皆と。


……いや、イリムは、カシスは、アルマは。

  ユーミルは、ザリードゥは、みけは。


協力してくれると、そう言ってくれた。

この世界の異端者であるまれびとに。


ラザラス邸のメイドさんたちも、快く協力してくれた。

あの屋敷で、どんな目にあっていたか……彼女らもよい境遇だったとはとても言えない。

それでも、力になってくれている。


開拓村には助けた3人がすでに。

これからもどんどん増えていくのだ。


もう、俺たちパーティだけの問題ではない。


ラビット庄を越えエラノール地区の向こうには深い森が広がっている。

自然、あの大樹海のことを思い出す。


俺は、あそこに飛ばされたからいまここにいる。

生きている。

スタート地点がよかったから。


あそこに飛ばされた意味を、俺は見つけなくてはいけない。


深い森の奥には、岩肌がむき出しの大きな山がそびえている。

その、モクモクと煙を吐き続ける三角山を眺めながらそう想いを固めた。


最後は必ずハッピーエンドにしなくてはいけないのだ。

この先、どんなことが起ころうとも……。

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