第136話 「ラビット庄の掃蕩」
平和な日々。
静かな時間。
ラビット庄や、まれびと地区での交流。
そこで得た情報や、見識はとても有意義なものだった。
いろいろ思いついたこともある。
開拓村や、そしてこの世界の
……しかし、そう。
静かな平穏のあとには、必ず。
その期間が長ければ長いほど。
人の世にそれは起こるのだ。
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「師匠!!」
「……なんだ」
ラビット庄の宿での何度目かの目覚め。
しかしそれは、いままでの目覚めとは決定的に違っていた。
悲鳴、騒音、爆撃音。
「状況は!?」
「帝国兵、ドワーフ部隊……それに異端狩りです!」
「なんだって!」
ベッドから飛び起き、急いで身支度。
10秒かからずそれを終え、相棒たる
イリムとともに宿を飛び出すと、周囲はまさしく地獄そのものだった。
燃え盛る家々、あたりに散らばった小さき人々。
子どもも、大人も、老人も。
ひとしく誰もが平等に扱われていた。
「師匠!」
ザリードゥの一喝でフリーズした脳を再起動させる。
そうだ。
立ち止まれば立ち止まるだけ、これが起こる。
であるなら悲しむのは後だ。
周囲に仲間たちも集まっている。
まずアルマが状況を伝える。
「この村を取り囲むように、突如森から大軍が。
おそらく、すべてを封鎖し根絶やしにするつもりですわ」
「逃げ道は!?」
「海岸、そこからなら頑張れば……」
海か。
しかし、海に逃げ込もうとも、そこから大陸まではかなりある。
船が足りるのか、どうなのか。
泳ぎ切るだけの体力が、異世界人にはあるのか。
だが、そうだな。
やるべきは決まった。
「できるだけ助けて、できるだけがんばって、包囲の速度を落とそう!」
「了解!」
「わかりました!」
「ほいさ!」
秒で作戦が行き渡る。
あうんの呼吸。
このパーティは、本当に優秀だ。
その直後、美しの塔の方向から。
丘を越え大軍があらわれた。
鉄鉄鉄、くろがねの群れ。
ギラギラと鈍い光を見せつけながら、ソレはこちらへ迫っている。
彼らは、主に長い槍で武装しているようだ。
……?
その槍にたくさんの、なにか丸いモノが突き刺さっている。
なにかの追加武装、あるいは
「…………。」
部隊が近づくたび、ソレの
見たくもないモノを見せつけられる。
「……ちくしょう……」
怒りで食いしばった歯から、血がにじみ出る。
彼も、彼女も、あの子も。
まれびと村で出会ったたくさんの同胞であった。
……あの黒い髪の青年は、サトウさんか。
サトウさんの下には彼の娘が。
会ったことはないけれど、その下は奥さんだろう。
そうか。
そうだな。
すべてがベキリとへし折れる音が脳内から。
――――皆殺しにしてやるよ。
火炎の暴風、ただそれだけ。
限界まで鼓舞された、いまだここまでの
真実このとき初めて。
歓喜の産声をあげた。
――やっと、本当の力が出せるのだと。
俺の咆哮と、彼らの咆哮が互いに重なる。
同じ意思のもとチカラを織りなす。
そうしてカタチ作られたソレを、前方の大軍に展開した。
巨大な火柱、そしてそれが渦を巻き炸裂する。
ひとつのビルほどの『
ソレを左右に振り回す。
豆粒のように、ゴミクズのように。
兵士たちが巻き上がり焦げ上がる。
「……まれびと、お前……」
「――ハアッ! ハアッ!!」
「師匠!」
ぽふっ、と温かいものに抱きとめられる。
「師匠、目と、鼻から血がでてます!」
「――それが、なんだよ!」
「師匠、だって!」
「ごちゃごちゃうるせぇな、あいつらを皆殺しにしないと……」
ペチン、とほほをアルマに叩かれた。
ものすごく冷めた目で俺をにらんでいる。
「師匠さん、冷静になってください」
「――いや、だって!」
「大軍攻略の要は師匠さん、アナタです」
「……だったら!」
「であるから! そんな暴走のようなチカラを行使していつまで持ちますか!?」
「……。」
「あくまで戦いを、継続しなければなりません」
「……。」
「なぜなら、今この時も殺戮にさらされんとする人たちがいるからです」
「……それは」
「彼らをひとりでも多く守るために戦うんです」
「……守る……ために」
そうだ。
それが正しい行いだ。
「すまない……みんな」
「イヤ、いいぜ師匠」
「実際、あの一撃に関しては有効でした」
「……まー、連続して師匠がぶっ倒れたらぜんぶおじゃんだったけどな」
「では、やはりここは冷静なるリーダーの指示に従ってくださいね」
「頼む、アルマ」
この危機を、この悲劇を、乗り越えるために。
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