第111話 「いざゆかん自由都市へ」

仲間と合流し、最後にひと目……と自由都市とは反対側の北門へ。

そこから北方を眺める。

ひと月まえと変わらず、ひたすらに凍てついた世界が続いている。

森も、大地も、村も。

ひたすらに真っ白に塗りつぶされている。


「今の世界地図は、こうなっているそうですわ」


アルマが地図を広げると、北の山脈から一直線に白い塗料が交易都市まで。


「幸い、この途上に大きな都市はありませんでした。山脈の修復も済んでいます」

「大きくない都市は?」

「小さな町と、村はそれなりに」

「……そうか」


俺が押し返した十数メートルなんて取るに足らない。

ここから見ることのできないはるか北方の山脈まで。

ただひたすらコレが続いているのだ。


氷の魔女、まれびとの精霊術師。

彼女はなにが目的なのだろう。

本当に世界を氷漬けにしたいのか。

勇者といい、これじゃまれびと狩りのほうが正しい行為では……。


いや、それですべてを正当化することはできないし、したくない。

俺は旅を続けなければならない。


交易都市を北門から南門まで、まっすぐに縦断する。

と、アルマがついでに荷運びの依頼を引き受けていた。

馬車に大量のワインが積み込まれている。


「ところでさ、依頼じゃなくて行商ってしていいの?」

「それは商人ギルドや商工ギルドなど、いろいろ問題になりますね」

「ふむ」

「冒険者ギルド、商人ギルド。

 両方に在籍してそういったコトをしている方もいらっしゃいますが」

「……権利とかいろいろめんどくせーんだよ……」

「そっか」


「あ、ソレ私がやってたわ」

「そういやカシスも出会った時、なんか商談してたもんな」

「でもやっぱり、面倒くさいわよ」

「へえ」


ゲームだとときたま、モノの為替でそういうコトができたのだが。

やはりそこは商人の領分で、ソコで稼ぎたいならしっかり加盟しゼニを払えと。

そりゃそうか。

隠れてやってたりしたらアサシン送られたりするんだろうな。


というわけで、ワインのぶん席が占領され俺も徒歩かち組となった。

まあ、イリムやザリードゥと同じくこれも修行だと思うことにする。

いざゆかん、自由都市へ。


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最初の野宿の夜。

地図を広げながらユーミルに話をふる。

見張りはいま俺の番だが、彼女が起きているので。


「そういや、自由都市が故郷なんだよね」

「……家族も、友達もいない故郷だけどな」

「そうか」

「……母親は記憶にないし」

「……。」

「……親父はリディ姉がぶっ殺したし」

「えっ!」

「……言ってなかったか?」

「初耳だよ」


ユーミルの話によると、彼女の双子の姉は11の時に親父を殺し、家の遺産である術式もだいたい回収しトンズラこいたそうだ。


「すげえ家庭環境だな」

「……まー、魔導の家なんてだいたいこんなもん……」

「ラトウィッジ家もひどかったもんな」


みけの救出(と依頼の達成)のためあの死霊術師の館に潜入したときは、反吐へどの出そうな光景に何度も出くわした。

ああいうフザケた連中は正直勘弁してほしい。


「それにデス太も……まあそれはいいか」

「うん?」


「リディ姉の相棒……いや下僕?……昔は私らの家庭教師だった」

「あぁ、すっごいイケメンの」

「……そう」

「アレ?『霊視』じゃないと視えないんだよね」

「……そうだな、死神だからな」

「へーえ」


死神さんですか。

そういうのも居るのかよこの世界。

死の宣告とか使えるんだろうか。


気がつくとユーミルがまっすぐこちらを眺め、そのまま彼女の右目が青く光をたたえる。

澄んだような彼女の魔眼だ。


「……コレは、その影響だ。リディ姉も同じものを左目に持ってる」

「その、死神の家庭教師の影響で?」

「私ら、いっつもデス太を挟んで昔話や勉強を聞いてたからな。

 ……私は左、リディ姉は右で」


つまり。

つねにその死神と接していた側の目が、『魔眼』になったと。


「『死法の魔眼』っていって、効果はいろいろあるが第一に魂の色が視える」

「ふむ」

「……で、まれびとは色が違うんだよ。だから一発でわかる」

「ああ、それでか」


ユーミルにはすぐまれびとだと看破された。

そして彼女の姉も同じだと。


「その目ってほかには誰が持ってる?」

「……当の死神連中だけかなぁ……」


とりあえず、もの凄く希少レアということか。

助かった。


「……あと、かすかに死期が視える」

「えっ、すごいな」

「……数秒先だけどな……それでも助かってる」


なるほど。

彼女は妙にカンがいいというか、攻撃に対しての行動がパーティ随一だ。

ラトウィッジの当主が飛び出した時も、アスタルテの岩石が迫ってきた時も。

いの一番に対処したのは彼女である。


それでいてアルマいわく、術の走りがとても速いそうだ。

未来予知ができる早撃ちガンマン。

こやつもたいがいチートやな。


「……ただ、不思議なのが師匠とカシスは視えない……」

「つまり、まれびとのは視えない?」

「……ああ、なんでなのかはわかんない」


なんか、この世界の法則からも人間扱いされてないみたいでイヤだな。

ほかに理由があるのかもしれないけど……。


話し込んでいたらいつのまにか次はユーミルの当番になっていた。


「えーと、任せちゃっていいか」

「……そんなに眠くない……このままいける」

「じゃあおやすみ」

「……ああ」


毛布をはおり、丸まるとすぐに睡魔がやってきた。

そのなかで考える。


自由都市……ユーミルの故郷、みけの故郷。


そこではまれびと狩りはせず、フローレス島に引き渡しているという。

そこで、なにか俺たちが人間扱いされる手がかりがつかめるといいのだけれど。


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本作の4年前であるスピンオフ「最弱死神ですがかつての仲間に反旗を翻し、ひとりの少女を守りぬきます」がユーミルや、彼女の姉のお話です。

スピンオフながらファミ通文庫大賞の中間選考に通ったので、ある程度の水準はあるのかな……ご興味があればお暇な時にどうぞm(_ _)m


もちろん読まないと本編楽しめないよ、などということはないのでご安心を。

あくまでオマケ、サイドストーリーです。

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