第112話 「妖怪ふらふらおじさん」

今日も今日とて馬車の旅。

休憩中、ここずっと練習している術をみなに披露する。


「『俯瞰フォーサイト』の特訓中に思いついたんだけど……」


小枝を拾い、みなの前に見せる。

そして大仰な仕草で腕を伸ばし、手を離した。


落下した小枝が、くいっ、と10センチほど右に逸れる。


「「「おぉぉ!」」」


イリムとザリードゥ、カシスの声。

他の魔法少女ふたりは「ふむ」なんて顔をしている。


「『俯瞰』の応用で、火精と風精の力を一点にうまく集中させるとこうなる」

「手品みたいね」


見た目はそうだ。

タネはマジカルパワーで、つまりはインチキだけど。


「……世界の綾布あやぬのの折り曲げ? あるいは火と風で天に通じるから……」


アルマはブツブツと思案モード。

ユーミルも黙りこくっているあたり、魔法職スペルユーザーにはコレの本質がわかるのだろう。


「コレ……いわゆる空間魔法にならないかな?」

「鍛えれば、あるいは。『帰還』も風精と火精の触媒を大量に用いますし、どちらも上昇・解放の属性です」


アルマが俺が落とした小枝を拾い、地面にぐりぐりと記号を書く。

三角マークと、三角マークに横線1本。


「錬金記号で左が火、右が風だろ」

「……ちゃんと知っていましたか」


「みけから魔導書の読み方とか、いろいろな」

「ふふっ、みけちゃんが先生ですか」


どちらも上昇、そして熱、解放の属性がある。

ちなみに土と水は反対で、俺がそのどちらも操れないのに関係があるかもしれない。


「では第一原質プリマ・マテリアは……」

「そういうのもすでに学んだから大丈夫だよ」


俺だってただの火力バカはイヤだ。

だから魔法職スペルユーザーとしてもレベルアップしたのだ。

多少はね。


「今は落下する小枝をそらすぐらいだけど、鍛えて防御の術にするつもりだ」

「ええ、いいアイディアです」

「……師匠は防御がしょぼいからなー」

「ユーミルさん!師匠も中級ぐらいはありますよ」


それと……とカシスを見る。

彼女の一貫した願い。

故郷に、日本に帰りたい。

これを叶える助けに、この力はならないか……。


まれびとは召喚されたとき空間に波紋を起こす。

そして『帰還』は空間魔法で、いってみればA地点からB地点への送還・召喚だ。

そして『帰還』は火精と風精の力が関わる。


今の俺の力からすれば途方もないほど高い目標かもしれない。

アルマの協力も絶対に必要だ。


だが、可能性はあるはずだ。


------------


街道の旅もそろそろ終わりというころ。

ユーミルがピクリと反応し、行く手をにらむ。


「……うわぁ、救えねーなぁ……」

「どうした?」

「……2年前もいたよあいつ、師匠も『視て』みろ」

「ふーむ」


『視ろ』というのは『霊視』しろ、ということだ。

言われたとおり視点を切り替えると、彼女が愚痴った相手が視えた。


全身血まみれの、小太りな中年男性。

服は脱ぎかけ。

目は虚ろ。

なにかを掴もうと手を突き出し、街道の中央をふらふらさまよっている。


「おおお、アレか。地縛霊?」

「……大正解」


パチパチと拍手をされる。

いやまあ、わざわざ見たいモノでもないが。


「……あいつはある女の子を襲おうとして返り討ちにあった、変態ヤローだよ」

「へえ」

「……4年前に、私の姉貴がやったんだ」

「うわぁ、そりゃご愁傷さま」


4年前というと……ユーミルは双子の姉妹で、彼女は現在16になったばかり。

つまり当時は11、2歳ということになる。


うへぇ。

まあなんだ、自業自得だな。


「……2年前に天才魔法少女ユーミルちゃんの旅が始まってすぐ、出会った変態がコイツだよ」

「そうか天才ちゃん」

「……こいつはココで、小さい女の子ばっか狙って悪ふざけしてる」

「具体的には?」

「……驚かしたり、夢に出たりだな」


霊になっても救えねぇやからだった。


「成仏させて……ああいや、通じないか。

 送ったほうが世のため人のためじゃないか」

「……そーだな」


2年前のユーミルは友達が死んだ直後でありいろいろ余裕がなく、こいつのコトは無視したそうだ。

だが、今は健常だ。

小悪党を見逃す理由はない。

それにこいつのためでもあるだろう。


馬車がカラコロと街道をすすみ、さまよう哀れな男に近づく。

すれ違いざま、ユーミルは手を水平に振った。


馬車が通り過ぎ振り返ると、地面に黒いタールを残し男は消えていた。

コレは何度も見たことがある。


死体処理だったり、黒森の魔物なりで。

絶対によくない、悪い方の魔法だろう。


「さっきからおふたりとも楽しそうですわね」


馬車組のアルマに声をかけられる。


「私も『霊視』、ほしいところですわ」

「アルマなら作れるんじゃないか?」


「師匠さん。ケンカ売ってますの?」

「いやいや、違いますよ」


アルマににらまれビクッとする。

いつも温和に笑っている彼女だが、怒ると冷たい感じで怖い。

どうも彼女はお家のことだとか、錬金術のことでいくつか逆鱗げきりん、つまり地雷があるのだ。


「『霊視』は魔眼の機能チカラの中でも簡便シンプルにして希少レア

 編み上げはたやすいものではありません。

 ……それに材料費で死にますわ」


「お高いんですね」

「そうです」


「事情を知らんですまんね」

「チートのおかげでしょう」


アルマまで変な言葉を覚えていた。

カシスのせいだろうね。


彼女だって体の動きや観察眼はおかしいので、なにがしかのなにかチカラを受け取っている気がするんだけど。


「師匠!見えてきましたよ、街です!」


馬車に先導して歩くイリムが声をあげた。

より正確には馬車に先導して歩くザリードゥがまっすぐ頭上につき出した手に乗りながら。


高いほうが遠くまで見渡せる。

ということで彼女はトカゲマンに頼んでさきほどからああしている。

よくザリードゥは腕プルプルしないもんだ。


俺たちにはまだ街は見えない。

つまりここからさらに半日はかかるだろう。


しかし、ようやく、ついに。

大陸の最南西である自由都市はもうすぐだ。


【大陸メモ】-----------------------------


・錬金記号


△   =火

△に横線=風


ともに上りゆくもの、上昇属性。


▽   =水

▽に横線=土

ともに下りゆくもの、下降属性。


※火精と親和性の高い師匠の場合、下降属性である水と土はまず習得できません。


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次から自由都市編ですが、その間に世界地図+設定回。

それとメイン・サブのキャラクター解説回を挟む予定です。

中休みとしてお楽しみ下さい。

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