第109話 「セレブリティ・プレゼント」

アスタルテに勇者についてわかったこと、言われたことを洗いざらい話す。

ひと月まえのことだがきちんをメモにとっておいたので記憶違いなどはないはずだ。


「ほうかの……やはりのう」

「で、どうするんだ?」


例えば、アスタルがサクッと勇者を退治してくれれば問題は解決する。

強さは彼女のほうが上だと聞いたので、可能であればそうして頂きたい。


「その前に、確認したいのじゃが……魔女の領域を押し返したというのは本当かの?」

「ああ、ほんのちびっとだけど」

「……ふむ」


アスタルテは唸ったあと、それはそれとして……と話をすすめる。


「こたびの冬の侵攻、アレも勇者の仕業の可能性が高いの」

「やはりそうですか」とアルマ。


「史上初の西方諸国への冬の侵食。そしてその場にたまたま勇者さまがいるというのは……できすぎですからね」

「山脈の一部が破壊されておった。ここ、交易都市よりまっすぐ北じゃ。破壊の跡がヤツが使うておる魔剣だとしっくりくる」


「あのロングソードは魔剣だったのか?」


派手派手な長剣を思い出す。

切れ味が凄まじい以外、特に不思議な点はなかった。

刀身が燃えていたり光り輝いていたりすれば一発でわかるんだけどね。

というか山脈の一部って……これまたスケールがおかしい。

剣でそんなことが可能なのか?


「おぬしが見たのはヤツの通常武装じゃ。本命はおいそれと街中で抜かんじゃろ。

 それに、ぬしに手札を見られとうないのかもな」

「……警戒されていたのか」

「ほうじゃな」


アスタルテは気だるげに壁に体をあずける。

なんだか投げやりな雰囲気があるな。


「ぬしならどうする、まれびとよ」

「……可能であれば、馬鹿げた行為をやめさせる」

「それがヤツを殺すことになってもか?」

「ああ」

「そうか、よう言うた」


アスタルテは天井を眺めながらとうとうと語る。


「ヤツの魂胆もわかった、今後は見かけ次第戦争じゃ。容赦はせん」

「……できればまわりに被害がでないように頼むぞ」

「おうよ、可能であればな」


飄々ひょうひょうと白い幼女は答える。

【四方】同士の戦いか。

見たいような、見たくないような。


「さて、勇者組の調査という依頼を見事ぬしらはやってくれた。

 その情報の代価はどうするかの?

 こやつの師事だけでは他の者がタダ働きじゃろて」


「異端狩りと戦い、勇者組と接触したのは師匠さん、イリムさん、カシスさんですわね」

「……そーだな……」


とふたりが辞退する。

しかしこういう場合はみな平等のほうがパーティ的にはいいだろう。


「できればみんなにくれないかな?」

「ずーずーしいやつじゃな……まあよかろ」


部屋の真ん中の丸テーブルにごとごとっ、と無造作に指輪や短剣を放るアスタルテ。

どれもいわゆる魔法の品アーティファクトだろう。


あ、盾のコインもいくつかある。

これは助かるな。


「ぬしらは存在濃度のわりに装備がいくらか貧弱じゃからな。遺跡探索ダンジョンアタックはしとらんのか?」

「師匠がですね、危険だからイヤだって。私はもっと行きたいんですけどね!」


ちら、と白い幼女ににらまれる。


「危険を恐れては対価は得られんぞ」

「いや、そういうても……」


「特にここ西方の遺跡は未踏破がまだまだ多い。

 2000年まえの黒森の侵攻に抗い滅びたこれらの文明は今よりはるかに優れておった。特に魔法や付呪エンチャントの技術にな。これらの遺産、遺物は有用なモノに満ちておる」

「ううん……」


昔どこかでアルマやイリムにも言われたな。

しかし接近戦になることが多いダンジョンは苦手だ。

王都でも浅層には潜ったが、アレだって曲がり角でコンニチワや隠し扉からコンニチワは日常茶飯事だった。


だがイリムによると俺の防御はすでに中級に達しており、特に集中しているときは悪くないとまで言われた。

先の風の谷ではぴーすけの助けもあるが、大サソリの奇襲、飛竜ワイバーンのしっぽ攻撃、ともに対処できた。

俺もそろそろ、もう少し自信を持ってもいいのかもしれない。


「……ま、いずれ力不足を感じたときでよい」

「わかった」


「アスタルテさん」

「なんじゃなケモノの少女よ」

「そのー……できれば魔法の槍なんかは、ないですかね」


てへ、といった感じでおねだりをするイリム。

その仕草は父性本能とかその他いろいろを刺激するが、幼女ドラゴンにはどうだろう。


「持っておるではないか」

「うん?」


イリムが手にした槍を見る。

いつも振り回している真っ黒な槍だ。

たしか獣人村で、中級の免許皆伝でもらえるものらしい。


「コレは村の自警団の……」

「そう、【竜骨】の血潮と大樹海の精髄せいずいがあわさった竜血樹、その中でもより血潮の濃い竜血鋼。それらでできたドラゴンウェポンではないか」

「へえー……えええええっ!!」


イリムが槍を眺める。

黒い芯材に、黒曜石のような刃。

村からずっとお世話になっている彼女の愛槍あいそうは、レア武器だったのだ。

まあ、これまでずっと折れも欠けもしないので不思議に思ってはいた。


「ついでにまれびとの黒い杖も同じじゃ。

 竜血樹は火精とつながるには最適の触媒じゃろうな」

「おおお、まじか」


つまり最初からいい装備だったのね。

これカシスに知られたらまたチートチート言われるな。

黙っておこう。


「それは大樹海の村でか?」


「棒術の初級合格の証に……村で」

「私も中級の免許皆伝で……村で」


「ずいぶん太っ腹な村じゃな。まあよく知らんで使うておるんじゃろ」

「ふむ」


つまり、あまりベラベラ言いふらさないほうがいいだろう。

貴重なドラゴンウェポンを産出する獣人の村。


……イヤな想像しか浮かばない。

やはり黙っているに限る。

すまんなカシス。


「で……おぬしへの師事じゃが、それは後になるかの」

「ふむ」

「ちょいと北方山脈に細工をしておきたいのでな。その後で落ち合おうぞ」

「合図はどうする?」

「ほうじゃな……ちこう寄れ」

「?」


言われるままアスタルテに近づく。

こうして並ぶとほんとにただの幼女だな。

身長はイリムと同じぐらい。


こうべをたれよ」

「……へいへい」


頭を下げると、ガキんちょにがしりと掴まれた。

とたん、頭頂からつま先まで電気が流れるような衝撃が疾走った。


「うわっほい!!」

「……大げさなやつじゃな」


ほい、と離される。

アレだ、電気系のジョークグッズくらったような気分だ。


「今のは?」

「これでおぬしは、この大陸にいてその大地を踏みしめている限り、どこにいようとも我に伝わる」

「……へえー」


性犯罪者のGPS埋め込みみたいですね。

ちょっと抵抗感あるが致し方ない。


「その指輪にも同じような……」

「わーっ!!」


とアルマが突然口をはさむ。

彼女が大声をあげるのは珍しいな。


「ではアスタルテさま!貴重な情報やアイテムなど、ありがとうございました」

「……ふむ。まあよかろ」


ペコリと頭を下げるアルマをなにやら意味ありげに見つめる幼女。

コレってアレだよな、やっぱ。

まあ俺からは言うまい。


「ではな」


とひと言告げると、アステルを囲うように土くれが盛り上がり、崩れ去った。

跡にはなにもない。


「おお、マジカルワープ」

「ワープってなんですの?」

「アルマの『帰還』のどこでも版かな」

「まれびとの世界にはそのようなモノが?」

「いや、青ダヌキが開発されるまで待たないとムリだ」

「……はあ」


会話にほとんど参加しなかったユーミルはさっそくアスタルテが残したアイテムを漁っている。

彼女は一本のナイフを手に取り、


「……私はコレがいい……」

「それは?」

ヤドリギの短剣ミストルティンの亜種。

 ……魔法の守りや法則ルールをある程度無視できる」

「短剣を使いこなせるのか?

 ……ってなるほど」


彼女は短剣の柄頭ポメルの輪に鎖を通し、しっかりと固定する。

これで彼女にとっては飛び道具のひとつとなるわけだ。

便利だな、『霊動ポルターガイスト


他にもアイテムをみつくろう。

アルマは錬金術の触媒、俺とイリムは薄手の鎖かたびらを希望する。

コレはどーみても真の銀ミスリルだよな……お値段おいくらやろか。


他には盾の指輪の上級品、コレはカシスが欲しがりそう。

いつも使っているモノの上位互換なので、一番使いこなせるのは彼女だろう。


ザリードゥは満場一致でこのロングソードだな。

アルマによると聖剣のたぐいであり、奇跡の触媒として優れた逸品だそうだ。


……なんだか装備的にずいぶんレベルアップしたな。

チョイスもそれぞれに合ったモノだし。


「……期待されているのでしょう、アスタルテさまに」


にこにことほほ笑むアルマ。

まあかわいい女の子から期待されるのは悪い気分ではない。

中身が寿命ぶっ飛んだドラゴンだろうとね。



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