第108話 「うわばみ」

ほぼ丸1日の『俯瞰フォーサイト』、しかも500m維持はうまくいった。

ここひと月の訓練のおかげか、またはこれまでの経験のおかげか。

精霊の励起れいきが格段に上昇しているのがわかる。

引き連れられる数もずいぶん増えた。

増えたおかげだろうがぴーすけがデカくなった。

30センチのぬいぐるみサイズから今は1mはある。


「かわいいからカッコいいになりましたね!」

「……火蜥蜴サラマンダーから紅飛竜ワイバーンになりつつある?」

「そうそう、俺の世界だとこういうのを進化っていうんだ」


アルマにウソ知識を教える。

これが進化ですなんて言ったらダーウィン先生に殴られるだろう。

助走つきで。


さて、

ひと月の調査、俺の『俯瞰』

ここまでやれば大丈夫だろう。

アスタルテを召喚するときだ。


地面がむき出しの掘っ建て小屋のなかにいま俺たちはいる。

カシスとザリードゥはあの幼女が苦手なので別の依頼を請けている。

やはり徹底しているなあのふたりは。


「えいっ」


と地面に小枝を突き刺す。

コレはアスタルテに渡された物で、地面にぶっ刺すのが彼女への合図となる。

あとは地脈なり龍脈なりのマジカルパワーでこちらへ駆けつけてくれると。


「師匠、なにも起きませんね」

「いやすぐにはムリだろ」


たしか、最低半日はかかるとか言ってたな。

だからここで時間を潰さねばならない。

そのために、各自準備をしてきたのだ。


「いっせーの、せっ!」


車座になってそれぞれが中央にアイテムをつきだす。

前もって各自、これぞと持ち寄ったものである。


「……師匠」

「なんだ」

「……まーたトランプかよ……みけといつもやってるだろ」

「いや、ポーカーとか賭けのある遊びはみけとはできないからさ」

「……ふーん……ちゃんと保護者やってるじゃん」


アルマは大きなカゴをつきだしている。


「それなに?」

「交易都市の黒ブドウワイン、銘酒ですわ。

 それと上質な白パンとチーズです」


「イリムのは」

蜂蜜酒ミードとおつまみ、お菓子です!」


「で、ユーミルは……」

「……こーなるだろーと思って『解毒薬ポーション』だよ」


そうね。

解毒薬はなんと状態異常『酔い』を解除できるのだ。

この世界にきてびっくりしたことのひとつである。


これはもう、呑み会をする流れなのだな。


------------


数時間後。


「師匠はクソ雑魚ですね!!」

「……やーいやーい」

「うぉぉおお!またかよ!」


ポーカーである。

もちろんテキサスホールデムである。

日本で一般的なドローポーカーよりはるかに知的なやつである。

そして俺はボコボコに負けている。


「師匠さんはですねー、顔でバレバレですね」


あはは、と楽しそうに笑うアルマ。

ついで肩もぺちぺちやられる。

ふだんの彼女からするとだいぶフランクである。

手にしたワインをこちらにずい、と渡される。


「さ、負けたのでもうひとくち」

「……まあ、いいけどさ」


誰が言い出したのかいつのまにかそういうルールになっていた。

間接キスじゃね?とか考えていたのは最初のほうだけで、だんだんどうでもよくなってきた。

彼女らは仲間なので、別にいいのである。


「……師匠さー、アルマのだとたくさん呑むよなぁ」

「ええっ、師匠!そうなんですか!?」

「いや、なにいってんのよ……」


俺がやんわり否定すると、アルマがジト目でこちらを見る。

お酒でほんのり潤んだ瞳がちょっと色っぽい。


「師匠さん、エッチですわね」

「……おいおい勘弁してくれよ」


スケベ親父みたいじゃないか。

そんな存在にはなりたくねーわ。


「じゃあ師匠!私のもぜひ!」

「……おらおら、私の酒が呑めないってかー」

「うわ、ちょっとやめろって!」


酔っぱらいふたりを制止する。

もみ合っているとふと、ユーミルが呟くように口にした。


「……まーな。そうだろうけどな……」

「なんだよ」


ユーミルが突然しゅんとした様子で丸まる。

なんか、どうしたんだろ。


「……師匠はさ、アルマが好きなんだろ……」

「えっ!……いや、お前なんだよいきなり」

「…………。」


「……じゃあ誰か他に好きなやついるのかよ」

「えーっ……うーん」


「なにしとるんじゃおぬしら」


俺たちがわちゃわちゃしていると背後から突然第三者の声。

振り返ると鋭いヘビのような、赤い瞳。

竜のアスタルテさまであった。


「うわっ!!」

「おぬしらは我を呼びつけておいて酒盛りかい。ずいぶん態度のでかいヒト族じゃの」

「すっ、すいませんアスタルテさま!」


アルマがペコペコと頭を下げる。

だが白い幼女は「よいよい、肝が座っておる」と笑って許してくれた。


急いでお開きにし、ユーミルの用意した解毒薬ポーションをあおる。

10秒とたたず頭がスッキリしてくる。

ほんとコレ、もの凄いアイテムだよ。


酒と食事を片付けているとその脇からアスタルテがほいほいとつまみ食いをしてきた。


「行儀悪いな、アンタ」

「移動で腹が減ったからの」

「そか」


残った酒も次々と呑み干していく。

それでいてケロリとしており、まったく動じていない。

あれか、竜はウワバミってのはこちらの世界も共通なのか。


「やはり西方のワインは旨いの。北はのう、辛い酒ばかりでまいるわ」

「そか」


それから残った飯と酒を食らいつくし、白い幼女は威厳たっぷりに上座かみざの椅子に腰かけた。


「では、話してもらおうかの」

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