第106話 「泡沫《うたかた》」

夢をみた。

不思議な夢だった。

3人で旅をして、3人で世界を巡った。


巡る先々で、----を行った。

ただひたすらにソレを行った。

こちらにはソレをやる理由がある。権利がある。正義がある。


そうして邪魔者がやってきた。


白い幼女は強かった。

仲間と力をあわせ、なんとか殺すことができた。

熱杭ヒートパイル』の砲身直結シングルコネクト過剰充填オーバードーズは際限なく威力をあげられる。

あれの直撃はさすがの彼女も防ぎようがなかったのだろう。


群青色の二人組もなかなかだった。

【四方】ではないとはいえ、相方がヤバイ。

なんだよ、人間には殺されないって古い約束パッシブスキル

だが彼のルールをうまくつき、彼をなんとか殺害すると。


残された少女はいっきに崩れた。

あれだけ展開していた守りも、なにもかも。

勇者のミキサー剣の一撃で臓腑をくり抜かれた。

倒れざま、少女は相方の残されたローブをかきだき、ひとこと呟き死んでいった。


それから、それから。

強者も、弱者も、大人も、子どもも。

ただ一切の差別なく。

ひたすらに平等に。


そうして、ひとりの少女が立ちふさがった。


------------


「師匠!師匠どうしたんですか!!」


目を開ける。

すぐそこにイリムの顔。

なんだ……そんなに心配したような……。


――目の前のイリムの顔と、さきの少女の顔が重なった。


途端、強烈な吐き気に襲われる。

彼女を押しのけ、ベッドから転げ落ち、そのままうつ伏せに嘔吐おうとした。

体の中身を、すべて吐き出したい。

俺はさっきまで……なにを。


「――――ハア、ハアッ!」

「師匠!」

「ちょっとどうしたの!?」


イリムに背中をさすられ、カシスが心配そうに見守る。

だんだんと、吐き気が収まってきた。


「……いや、もう大丈夫だ」

「ほんとうですか?」

「ああ」


ふーっ、と一息。

カシスから渡された水を受け取る。

口をゆすぎ、盆に吐き出す。

それから残りを一息に飲み干す。


「……サンキュ」

「もう、ほんとにどうしたの?」

「いや、変な夢を見ただけだ」


そう、ただの夢だ。

ずいぶんと趣味の悪い。

アイツが、去りぎわに変なことを言うからに違いない。


気付けの薬草を取り出し、口でむ。

ミントの刺激と、爽快感、すこしの麻薬成分。

噛むエナジードリンクで強制的にリフレッシュする。


本当にもう、大丈夫だ。


------------


しばらくすると宿にアルマやユーミル、ザリードゥがやってきた。

連絡もしていないのに、しかもひと目をさけて地下道から、だ。

事情を知っていないと到底できない行動である。


俺は実は、このカラクリに気づきつつあるがわざわざ言うこともあるまい、と黙っている。

げんにこうして何度も役に立っている。

いずれは、きちんと説明してほしいけどな。


「みなさん……何があったんですか?」

「そうそう、いきなりアルマに連れられて走らされてよ。

 しかもその路地、なーんもねぇふつうの路地でよ」

「……師匠、顔色わりぃぞ……」


「ああ、いや」


アルマを見る。

やはり……彼女はわかっているのだろう、いや。

聞いていたのだろう。


それはまあ……いやいいか。

とにかく、仲間に説明をしなければ。

いきなりぶっ飛んだ話になるがみんな信じてくれるだろう。


------------


「「…………マジで?」」


カシスとザリードゥの言葉がハモった。

ユーミルは無言で考え込み、アルマも当然無言。

イリムは心底怒っている。


「無茶苦茶です!そんなの、無茶苦茶すぎます!」

「そうだな」


でも、彼の怒りもすこしだけわかるのだ。

まれびとを狩るこの世界の常識。

……そして、

スタート地点がよかっただけ。

そう言い切った彼は、とても疲れたような表情だった。

なにかに耐えているかのようだった。

その場所を交換してくれよ、といまにも言い出しそうなほどに。


「……あの勇者が人間狩り、だれも信じないだろーな……」

「本当に、そうなのか」

「勇者さまは5年間、人助けの旅を続けています。その認識がこの世界の常識です。人気も絶大、彼を非難するものなど存在しません」

「あれだけやらかしてて誰も気が付かないのか?おかしいだろ」

「いえ、確かに変ですが……事実そうなのですから」


なにかうまい手か、またはチート魔法か。

アルマに引かれザリードゥ達があの路地に着いたときには死体もなにもなかったという。

証拠隠滅のなにがしかはあるとみていいだろう。


「そういえばあの現場を見られたとき、勇者が賢者に人避けがどうとか」

「……後ろ暗い魔法使いが使う『呪い』だな……」

「効果は?」

「……まんま言葉どおりだよ……」


ふーむ。


「全方位に微弱な『恐怖フィアー』を飛ばすとか?」

樹海でイリムがやっていた獣避けにも近いな。


「……ふーん、だいたい当たりだよ」

ぱちぱちとユーミルに拍手される。

そりゃ、俺も一応魔法職スペルユーザーだからね。


「もちろん、あからさまに呪いを放っていたら逆効果です、

 隠したり、気のせい程度に調整したりなど非常に高度な術式になりますわ」


賢者も相当な使い手とアスタルテが言っていたが、たしかに今日だけでも『大治癒』と『人避け』、奇跡と魔術をともに高いレベルで行使していた。

ほんとうに【賢者】なんだな。


「それで、どうするの?今後の方針は」サブ参謀らしくカシスが切り出す。


「今すぐ、勇者をどうこうするのは難しい。だからまずはアスタルテに報告だ」

「それも少し待ったほうがよろしいのでは?」

「そうか?」


「勇者がアスタルテさまを誘い出す罠、という可能性もありますわ。

 だからしっかり様子をみてから、完全にひと目につかない場所で」

「なるほど」

「師匠さん、『俯瞰フォーサイト』の範囲はどこまで?」

「だいたい半径20、30mぐらいだ」


「それを最低500ていどに伸ばしてください。

 それで一日行動し、一度も勇者組が引っかからなければOKです。

 それまで師匠さんは外出禁止です」

「ええっ!アルマさんそれはひどいのでは……」とイリム。


小説家の強制カンヅメみたいだな。

むかしはそういうのがあったらしい。

執筆終わるまで部屋に軟禁されるという。


「いえ、勇者の件も危険ですが、より身近な危険として異端狩りの件があります」

「……よし、私が何匹か減らしてきてやるよ……」


ユーミルが鎖をじゃらじゃらと鳴かせる。

街で釣ってサーチ地下に逃げてアンド処理するデストロイのだと。


「それは最終手段ですわ。まずは師匠さんのことが噂になっているのか。

 異端狩りだけの情報なのか。いろいろと調べませんと」

「……じゃあ今は抑えてやろうではないか……」


方針が決まった。

俺はここでカンヅメ式修行。『俯瞰フォーサイト』を鍛える。

カシスは盗賊ギルド、ザリードゥは教会で情報や噂の調査。

彼にはついで盛り場も調べてもらう。

アルマは街全体を警戒しに行ってもらう。

勇者組が街を去ったのかどうかはとても重要だ。


「イリム、お前は……」

「はい!」

「街の子どもたちから噂を集めてきてくれ!」

「はい?」

「子どもとの交渉に最もむいたエージェントがキミなのだよ」

「へえー理由はなんでしょう」

「子どもは子ども同士にこそ最も心をひらくのだよ。大人は警戒され……」

「ほうほう……続けてください」


チリチリ、と最近ふつーに感じ取れるようになってきた殺気だか闘気を受信キャッチする。

イリムさんがお怒りである。


「すごく可愛い、むちゃくちゃ可愛いモノが子どもは大好きだからさ!」

「できればふざけてない時にいってほしいですね」

嫌だよ恥ずかしいじゃん。


そしてユーミルも情報収集だ。

聞き込みの相手は特殊な事情の方々である。


「……ま、期待はすんなよ……」


やっぱり死霊術もいろいろチートだよね。

殺人事件とかミステリーにいたら便利だろうな。

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