交易都市

第101話 「交易都市巡り」

アルマが「飛ばしますわ!」と叫ぶと、馬車が唸りをあげ疾駆する。

とても馬2頭立てとは思えぬ速さで街道を駆け抜ける。


「アレは!?」

「氷の魔女の眷属けんぞく、世界を永遠に停滞せんとするその尖兵せんぺいですわ!」


全員が馬車に乗り込み、凄まじい速度で交易都市へと迫る。

全員、即座に戦闘モードへと入る。


「師匠さん! できれば今からでも敵の数を減らしてください!!」

「――おう!」


熱杭ヒートパイル』の術式を完了させ、砲身を目標に向ける。

街人いっぱんじんをその尾の針で串刺しにし、口には今しがた捕らえたのであろう。

ばりぼりと一度に3人を噛み砕く白き飛竜ワイバーン

その腹に、最高速度で燃え盛る杭を叩き込む。


「――よし!」

「上出来、ですわ!」


白き飛竜は燃え盛る杭に穿うがたれ、ただの一撃で絶命した。

氷の魔物に炎の技。

こうかはばつぐんというやつだ。


「いいですわ……その調子でお願いします!」

「わかった!」

「私も助太刀しますよ!」


馬車にゆさぶられながらイリムが叫ぶ。

彼女は高らかに槍を空に突き立てる。

その先に、中空に、同時に6本の石礫せきれきが出現する。

長さは1mを優に越え、硬さは鉄を優に越え。


――彼女はここに、6そうの鋼鉄の槍を創造せしめた。


「いきます!」


乾坤一擲けんこんいってき、イリムの槍が疾走はしる。

街に迫る白の軍勢に、真上から引っ掻くように6本の線が引かれる。

槍の進路上にあるものはすべて、唸りを上げる飛来物ミサイルに刈り取られる。

数珠つなぎに、団子のように、長い槍に魔物が貫かれる。


「一度にこれだけ槍を投げられずして、どうして【槍のイリム】を名乗れましょう!!」


ケモミミの少女はさらにさらに槍を並べたてる。

6本鋼鉄速度は埒外らちがい


用意したはしから群れへと放つ。

戦場に、群れに、幾度いくども線が引かれる。

ガリガリ、ゴリゴリと。

そのたびに白き群れは数を減らす。

イリムの槍で削ぎ落とされる。


爆走する我らが馬車は交易都市の門をくぐり、街の中心部へ。

そのまま混沌の渦へと飛び込んだ。


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街の大通りは、まさに地獄絵図だった。

切り裂かれ、噛み砕かれ、叩き潰され。

引き下ろされ、すり潰され、撒き散らされ。


そんな物体がごろごろと。

当たりまえのようにそこかしこに散らばっている。

カレーやシチューを手当たりしだいにブチ撒けたように。


「『纏焔マトイホムラ』!!」


大急ぎで仲間の武器に炎を付与エンチャントする。

氷の魔物には炎の武器。

古来より約束された絶対の弱点である。

さらにぴーすけも顕現けんげん

好きに暴れろよ、と彼を解き放つ。


颯爽さっそうと馬車から飛び降りたイリムとザリードゥはそのまま魔物へと斬りかかる。

スノーオークとでも言えばいいのか。

真っ白い氷の彫像のような魔物を次々と割砕いていくふたり。


すぐにユーミル、カシスもそれに加わる。

ユーミルの鎖は先端部分に俺の炎を纏わせ、曲芸のようにそれを操り次々と雪オークを砕いていく。

しかも同時に6本。

彼女の10m以内に立ち入った敵はすべて、鎖の結界によって破壊されていく、


カシスも馬車を守る最終防衛ラインとして、近づく敵を的確に処理していった。

アルマは参謀ブレイン司令官コマンダーとして馬車の中央に立ち、漏れがある個所に『ファイアボルト』。

ぴーすけは敵を翻弄しつつ『火息ブレス』でそこかしこに破壊をもたらす。


……地上は、いつもの通り万全の布陣だ。

であるなら、俺の役目は空を舞う羽虫ワイバーンどもである。


さきほどは『熱杭ヒートパイル』の一撃で仕留めたが、アレは消費が重い。

二丁拳銃デュアルウィルドを3回転分即座に仕込むと、『火弾』12発を白き飛竜ワイバーンへ。

風の谷では『火炎無効』の鱗に阻まれたが……よし!

12の穴と吹き上がる炎に巻かれ、雄叫びをあげる飛竜。

やはり氷の魔物、お熱いのがお好きなようだ。

続いて12、12で氷の羽虫は白い煙を吹き出しながら墜落していった。

遠くから氷塊が砕け散るような音。


――まずは1匹。

と空を見上げると急降下してきた飛竜がこちらへ尾の一撃。

カシスが間に入り、攻撃を受け止め受け流すパリィ


「助かった!」

「それより攻撃に集中して!一匹でも多く叩き落とすのよ!」


ちらとさきほどのガードを成功させたカシスの左腕を見ると、盾の指輪に加え盾のコインも発動させている。

円盾WOK』の重ねがけか。なるほど。

『火弾』の連射を続けながら、急いでこちらも盾のコインを取り出す。

黒杖こくじょうに貼り付け、とっさの防御を万全に。

ぴーすけに思念を送り、空へのサポートとして呼び戻す。

今のところ、戦場をコントロールできている。



広場の敵をほぼ一掃しきると、さらに馬車をすすめ次の広場へ。

道中ほかの冒険者や傭兵、魔術師とも協力、合流。

彼らの武器にも『纏焔マトイホムラ』を施す。

そうして次々と敵を蹴散らしていく。

やはりというか、なんというか。

氷に炎は相性がとてもいい。


「――――はっ!!」

「うわぁ」


それに仲間も強い。

近づきすぎた飛竜ワイバーンをイリムが仕留めたときはびっくりした。

建物の看板や突起を利用し、トントントンと駆け上がりそのまま一突き。

急所というやつか、ただの一撃で飛竜は絶命した。


ああいう芸当は俺にはできない。

やはり体を動かし体に熟知した戦士だと、攻防の瞬間ですら急所を刈り取れる。

吸い込まれるように得物がソコに到達する。

知識としてどこが急所ソコか知っていても、動き回る相手に的確に当てるのはまだまだできない。


まあ、俺は正確性より数撃ちゃ当たるだ。

12発を正面の飛竜に叩き込み、さらに12、12で撃退する。

墜落した飛竜は真下の石だたみに叩きつけられ、破砕クラッシュ

通りに大量のかき氷がブチ撒かれる。


次の広場では、大きな聖堂を囲う大群を相手にした。

味方はすでに30人以上の規模になっており、アルマの『燎原波ワイルドファイア』を皮切りに一群が飛び込み鏖殺おうさつ


「聖堂や教会は緊急時の避難所になります。恐らく中には……」

「まあ、間に合ったってコトだ」


ついでに正面扉を囲うように『炎の壁』を敷き、4人ほど護衛を残す。

見渡すと、だんだんと街の混乱が収まりつつあるようにみえる。

飛び交う飛竜もだいぶ減ってきた。


あとは……街の北だ。

そこは、氷の領域があと一歩というところまで迫りつつある。

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