interval 「交易都市へ」
あれから。
十字路宿を抜け、西へ。
とうとう王国から冒険者の本場とされる西方諸国へ。
途中大仰な関所はあったが、こちらは三ツ星冒険者がふたりもいる。
ほかのメンバーもすべて二ツ星。
すんなりと国境を抜けることができた。
「やー、すごいな
「二ツ星以上というのはそれだけ信頼されていますわ」
「アルマさん! 私もそろそろ三ツ星が欲しいです!」
「……さすがに、早すぎ……」
「イリムなら三ツ星もすぐだろーよォ」
「マジですか!」
「……あんまおだてんなよ、トカゲ……」
わちゃわちゃと騒ぎながら街道を歩む。
気のせいか、季節のせいか。
王国よりも空気が暖かく、ぽかぽかと心地いい。
ついその感想をこぼすと、どうやら勘違いではないそうだ。
「王国はその南東に広がる大樹海の影響か、空気がすこし湿っていて気温も低めなんです」
「ふーん」
「私は、涼しい王国のほうが好みですわね、故郷ですし」
「……
「へえ?」
「地下牢にすぐカビが生えやがる」
「おおう……そうですか」
地下室を持たないという発想はないのか?
もっと健全にネクロマンスしようぜ。
------------
野宿がつづき、だんだんとストレスが溜まってきたころ。
さすが冒険のベテランだ。
旅をうまく続けるコツを熟知していてタイミングも完璧。
ザリードゥがとっておきだと上物の
染みるような暖かな甘さで、喉元をとろりと過ぎ去る。
それでいてクドさがまったくない。
「……すごいな、コレは」
「だろ? 師匠の世界にもなかったか?」
「うーん、故郷ではそもそもミードはそんなに売ってないんだけど」
konozamaで注文したことはあるが、その時のレビュー欄はひどかった。
大量のドヴァキンが沸いていたものだ。
いい思い出でもあるけどね。
「ワインもそうですが、長く寝かせると味が深くなるのですよ」
貴族であるアルマもこのミードを絶賛した。
ここまでのモノはなかなか市場にも出回らないと。
「最低でも10……いえ14年は寝かせないとこの味は出せないでしょう」
「うおお、それはすごいね」
ほとんどウィスキーの世界である。
ありがたくいただこう。
イリムもにこにこと上機嫌ですすっている。
甘いもの好きの彼女からしたらたまらないだろう。
「ザリードゥ、こんなお酒、村ではなかったですよ!」
「そうか。みんなに楽しんでもらってよかったぜ」
「……そーだな……」
ザリードゥとユーミルはしんみりと酒をすすっている。
なんかテンション低いな。
……あんまり甘いお酒好きじゃないのかな?
------------
今日も馬車に揺られ……は止め、イリムやザリードゥとともに徒歩だ。
いくら俺が
水分と同じだ。
それに軍隊でも歩くのが仕事と聞いたことがある。
『火弾』の
つまりほとんど米兵といっても過言ではない。
というわけで歩く。ひたすら歩く。
それからしばらく歩いてもいっこうに疲れない体に、少し自信も出てくる。
素直に変わったな、と思う。
この世界はずいぶんひどい場所だけど。
俺はこの世界に来てよかったのだ。
先頭を元気に歩くイリム。
俺のわきをブラブラ大股でついて来るザリードゥ。
馬車で惰眠をむさぼるカシスとユーミル。
ニコニコとそんなふたりを眺めるアルマ。
ほんとうに……充実した毎日だ。
------------
日付を数えるのも
歩けば歩くほどその影は大きくなってきた。
いくつもの尖塔、広がる城壁。
街は壁の外まではみ出し、掘っ立て小屋のようなエリアまで。
あれこそが、西方諸国の中心、交易都市か。
「おおおおおおおおお!!!」
長旅で疲弊した精神にいっきに活力がみなぎる。
まさにMPがメキメキと回復してくる。
「あれがそうか!」
「ですわね」
「これまたひろーい! 村と違いますね!」
「あー、ほんとアンタら反応が素直よね」とJK殿。
わちゃわちゃと途端に騒ぎ出す俺たち。
しかし、その喧騒に参加しない者が2名。
「……なんか、変じゃね?」
「……ああ、なんだろな……」
ザリードゥとユーミルは険しい表情で街をにらむ。
アルマもとっさにその反応に加わり、望遠鏡を覗き込む。
イリムがあっ! と大声をあげる。
「――街が、襲撃されています!!」
目を凝らす……がよく見えない。
『
俺がヤキモキしていたからか、アルマが望遠鏡をこちらへ放る。
急いでソレを覗き込むと、事態が正確に把握できた。
街のそこかしこに、白い魔物の群れ。
街の上空に、白い
そして街より北は異常というほかない。
ほとんどすべてが、凍りついている。
大地も、森も、なにもかも。
ここから見えるだけでも、3つの村が
氷の世界に呑まれている。
ただひたすらに凍てつく大地に呑まれている。
「【氷の魔女】の領域……どうしてここまで……!!」
アルマの絞り出すような声が、事態を切実に物語っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます