村落小話 「搾取の村」

※時は巻き戻り、師匠が風の谷へ出発した日、ザリードゥ視点のお話です。

※本編より残酷描写が強めです。


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師匠をみなで見送り、俺っち達は村でお留守番だ。

だが、嫌な予感というのは当たるもんで、この村は問題を抱えていた。

そりゃそうだ。

風の谷なんてほとんどのヤツは用がねぇし、用がねぇ場所に建つ村に人は来ねぇ。

人が来ねえ村には……いつだって、ウジ虫どもがわきやがる。


イリムはもちろん、他の連中も気付いちゃいない。

そりゃそうだ。

こんな嗅覚、ないほうがいいに決まってる。

でも、気付いちまったら放ってはおけない。


宿とも呼べないようなボロ小屋から出る。

ここもふだんは違うことに使っているんだろう。


村長の家を尋ねると、しばしの沈黙のあと事情を語ってくれた。

まあ……うんざりするほど定番の話だった。

お決まり、当たり前、いつもどおり。


村の近くに山賊が居を構え、食べ物ヨコセ、金をヨコセ、女をヨコセ。

イヤなら目玉をほじくるぞ。

皆殺しにしちまうぞ。

外に通報? したきゃすればいい。


子どもをひとり残らず親の目の前でいてやる。

剥いてやるってわかるか?皮をぐんだよ。

たっぷりゆっくりじっくりな。

まえにソレやった親はそれだけで狂っちまった。

わかるか? それだけで狂うんだよ。


まったく……今日もこの世界はクソ平和なこって。


大まかなヤツラの拠点を聞く。

ついでに報酬も取り決める。

冒険者というのは報酬がなければ動かない。

古来よりの取り決めだそうだ。


村長は金目のモノはほとんどヤツラに奪われた……報酬は出せない、と。

あとは……こんなモノしか……とベッドの下から蜂蜜酒ミードを取り出す。


娘の成人のお祝いにとっておいた祝酒だと。

とっておきの上物だと。

この村の風習で、子どもが産まれたらミードを仕込み、大事に寝かせておくらしい。

娘は、先月……村の入り口に捨てられていたそうだ。

徹底的に人間性ひとであることを破壊され、呼吸も鼓動も喪われた冷たい体となって。


「契約、成立だ」


村を出る。

村の外れの墓地には、真新しい墓標がひとつ。

ソレに深い祈りを捧げ、ついでにこのクソみたいな世界を作った神サマへも怒りを捧げる。


「……オイ、トカゲ……」

「なんだよ、俺っちはこれから散歩なんだよ」

「……ハッ、死霊術師ネクロマンサー舐めんなよ……事情はそこの子から聞いた」


ユーミルが墓標を指差す。


「……そうかよ」

「……まあ、天才魔法少女のユーミルちゃんも協力してやる……」

「数は、わかるか?」

「……12人だとよ。チッ、虫唾がはしる……。あと、頭目ボスがけっこう使うみてーだな」

「わかった、いくぞ」


参加者がひとり増え、パーティがふたりになった。

まあ、ヤツラを刻むには十分か。


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森の中をユーミルが先導する。

なんでも道も聞いてきたそうだ。

まったく……外法げほうはずいぶん便利だなぁ。


しばらくすすむと突然森が開け、そのただ中に掘っ建て小屋が。

あんなかに12人と……いや、もうひとり。


……息は、ある。

五体もたぶん満足だ。

間に合った、そう思うしかない。


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「なんかよー」

「んあぁあ?」

「ヒマじゃね?」

「そうっすね」

「マジヒマ」


知性のカケラもないその会話が彼らの最後の言葉となった。

彼らはプツンと、糸が切れたかのように崩れ込む。


小屋の中を、乳白色の煙が満たしている。

この煙がもたらす睡魔スリープに抗えるものはそうそういない。

いわんや、たかが山賊風情など。


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扉を静かに開け、小屋の中へ。

ユーミルの魔法にかかり、この場で起きているものはいなかった。

部屋には8人ほどが転がり、幸せな夢を楽しんでいる。

ついでに永遠の夢に招待してやった。

ひとりずつ、確実に。


「これで、あとは4人かぁ」

「……さすがに奥の部屋のが気がついた……人質取られるとまずい……」

「どうする?」

「……そーだねー……うん、アレでいこう……」


素早く算段を取り決め、奥の部屋の扉を開ける。

案の定、頭目ボスは娘の首にナイフを突きたて、なにが楽しいのかヘラヘラと笑っている。

いーねぇ、ぶっ殺すのにまるで抵抗を感じさせないザ・悪党だ。


しかしこんな連中はそれこそ、文字通り5万ごまんといる。

俺っちの狭い経験上でもコイツのコンパチを20人は斬ってきた。

ほんとうに……イヤになるね。


「えー、わかるよね、この状況」

「ああ」

「おっ、オツムなんてなさそうなツラして、最低限モノを考えられるだけのサイズはあるわけか。助かるよ」

「そりゃどうも」

「そうだね、コレ」


と人質にした娘の首に、1センチほどナイフを沈める。

血が垂れ、娘が小さな悲鳴をあげる。


「おまえらが動くと、コレがもっとぶっ刺さる。そんだけ」

「わかったよ」


「親分やっぱ冴えてんな!」

「いいねいいねこの交渉術!?」


後ろのオマケもきゃいきゃいと騒ぎだす。

うーんと、コイツらは雑魚だな。後回しでいい。


「とりあえず、扉通るのジャマだから端っこ行ってくれる?」

「……ほらよ」


俺っちとユーミルは手前の部屋に戻り、言われたとおり部屋の端へ。

奥からゆうゆうと頭目が現れる。


「うーわ、みんな死んでるじゃん……なにこれ? キミら人の心がないんじゃないの?」

「まー、そーかもな」

「ほんと、死んで詫びろよクズども」


ブツブツと文句を垂れながら部屋をすすむ頭目。

へらへらと部下がその後につづく。


そうして……ヤツが部下の死体を通り過ぎようとしたとき、怪異がこの部屋を満たした。

すべての死者が動き出す。すべての死者が立ち上がる。

パーティの人数がいっきに10人に。


「うわああああああああああああ!!!」


と隙だらけで雄叫びをあげる頭目をまず黙らせる。

左で一閃。

発声器官を断ち切り、その騒音ノイズを終わらせる。

同時に右手で娘の首に当てられたナイフを排除する。


これで、まずはよし。

振り返ると、残った部下と元部下達は、たがいに無意味な殺しあいに興じていた。


「……いくぞ、トカゲ男……」

「あいよ」


気絶した娘を抱え、ユーミルと小屋をあとにする。


「『施錠ロック』」


彼女は地獄からの唯一の出入り口に魔法の鍵をかけた。

扉のむこうからはいまだ絶叫が響いている。


「おい、まさかわざと弱めに召喚したろ」

「……さー、どーだろね……」


しらじらしい。

たしかに俺っち達は人の心がねぇのかもな。


師匠とイリム、あの真っ直ぐなふたりにはこうなってほしくないもんだ。

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