第98話 「俯瞰風景」
……あれから、丸一日……いや、それすらもわからない。
ただひたすらに『熱波』を維持し、風を
夜になり空が白み、夜が空け、また日が沈んだ。
ただひたすらに火精を
たぶん、さらに次の夜明けは拝んだ気がする。
気がつけば俺は気絶していた。
「…………ん、……ああ」
目を開ける。
仰向けに倒れた俺の目の前には、真っ青な空が広がっていた。
ただひたすらに。
風の防壁も、荒れ狂う突風もない。
ひたすらに穏やかな空だ。
体を起こすとつよい
カマイタチのような突風に体をズタズタにされることも、崖下へ叩き落され潰れたトマトにされることもなかったようだ。
……もしかして、と試しに風精に働きかける。
火の術を使うときと同じ感覚で、風を吹かせてみよう。
「…………。」
ぴゅうとも吹かない。
しかし、以前とは違い風の精霊の存在は、手に取るようにわかる。
それまでは火精以外はまったく気配すらなかったのに。
見えるようにはなったが、まだまだ未熟ということだろうか。
帰り道、あれほど強く吹いていた風が、風の谷が完全に凪いでいた。
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「――――師匠ぉぉぉおおおおお!!」
「ぐふっ!!」
弾丸のように飛んできたイリムが腹に直撃する。
いつもより5割マシマシの威力があり、そのまま腹をおさえうずくまる。
「う……おおおお……」
「師匠!やはりどこかで大怪我を!?」
いや……たぶん今の攻撃が一番のダメージだよ!
ただでさえ消耗で減った最大ライフが、いっきに危険水域に突入する。
赤い涙石で侵入したろか、このバカ弟子が……。
「よっ、師匠!やっぱ生きてたか」
「ザリードゥ……
「よっしゃいっとくか!」
それからなんとかライフゲージをレッドゾーンから回復し、村の宿に帰還する。
宿ではみなが待っていてくれた。
聞けば、俺が風の谷に挑んでから丸4日が経っていたらしい。
『熱波』2日とすると気絶爆睡が2日か。
「師匠さん、それで風の精霊は?」
「うーーん」
試しにまた風精に命令を下す。
室内のロウソクの火にむけ、いざ突風よ!
だめだ。
そよとも吹かない。
「……そうそう簡単にはいかないみたいだ」
「……そうですか」
「ただ、視えるようにはなった。これからだな」
「チートがまた増えたのね」
「いやあのね……俺もわりと死にものぐるいで帰ってきたのよ」
「わかってるって」
ぺしぺしとカシスに肩を叩かれる。
まー、わかればよろしい。
村で一泊し、村の
また北へ、ここから5日の十字路宿へ。
道中、何度も風精を試すがいっこうにうまくいかない。
本当に俺は風の精霊に認められたのだろうか。
だんだん自信がなくなってきた。
野宿のさなか、そうした悩みも含めアルマに相談をしてみた。
彼女は、錬金術でいう四大精霊や四大元素の話を、俺がやりたいことに絞りかるくレクチャーしてくれた。
「こういう情報は有料なのでは……?」
「お代はこれから師匠さんがやろうとしてることを見れればそれでいいですわ」
本当に、彼女がいてくれて助かった。
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アルマの話は的を射ていた。
まれびとの召喚を検知するための空間魔法。
そのために俺は風の精霊に認められにいったのだ。
それ以外の用途では手を貸してくれないのでは……と。
空間魔法のレクチャーも受ける。
この世界では、魔術師は空間を薄い布が何層も何層もひらひらとたゆたっているイメージで見ているらしい。
時間は神々が紡いだより糸だとされているので、時間なり空間なり
自分はファンタジー世界出身ではないので、布と言われてもな……。
いやそういえばブラックホールや星の重力の説明で、格子状の平面はよくでてくるよな。
科学番組なんかでも定番のアレだ。
でもあれはあくまで説明のためのものだろうし……いや。
自分はそうだな、波でいこう。
何もない場所に突然人がぽこっと現れるのは、例えるなら静かな水面に石を投げ込むようなものだ。
必ず、波紋が生まれるはずだ。
イメージを固め、火と風、両方の精霊に呼びかける。
――驚いたことに、火と風の併せ技である空間検知はあっさり上手くいった。
たぶん5分も粘ってない。
初っ端から手応えを感じ、それにそのまま集中していただけだ。
錬金術の原理である天とやらの概念のせいだろうか、真上から水面を眺めているような気分だ。
そよそよとあたりに細かな波がたっている。
予想通りなら、人が飛ばされてきた時、この水面に強い波が起こるわけだ。
それと……これは副産物だろうが、まるで自分の立っている周囲を、高い場所から
げんに背後で干し肉をかじるイリムの動作が、まるで見ているかのように感じられる。
他にも、目に見えない仲間の動き、気配、はぜる焚き火、吹き付ける風。
すべて感知できる。
コレは……もしかしたら実戦でも使える術かもしれない。
そうだな……『
風精を得て獲得した俺の新しい力だ。
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