第88話 「フラメル邸の領主さま」

みけがはしゃぎ疲れて眠ってしまったあと、大人組にお酒がふるまわれた。

大人組とはこの世界では15歳以上のことであり、イリムやユーミルも含まれる。

見た目中学生みたいな連中が酒を呑む姿はかなり違和感があるのだが、この世界では常識なので仕方がない。


ちなみにカシスはきちんと断っていた。

えらいね。


アルマがとっておきです……と言ったとおり、そのブランデーは非常に美味だった。

他にも薬草酒が提供され、コレはアルマの私作品らしい。

ハーブの香りが効いた独特なお酒で、こっちはすこし苦手だな。


ユーミルがこの手の薬草酒は魔術師に人気があり、カッコつけて無理して呑むヤツもいるのだとか。

すこーし幻覚作用があるので芸術家にも好まれる。

うーん……ちょっと俺は遠慮したい。


「……そういやリディ姉の友達がこーゆーの好きだったな」

「ああ、八尺様の……」

「より交信の感度が上がるだの、宇宙はソラにあるだの……イカれた姉貴にお似合いのイカれた友達だよ」

「電波ゆんゆんなのか」


「イカれた神々と交信してその一部を召喚する……とか、よくわかんねーけど」

邪神召喚師イビルサモナーか」


なんかこの世界の俺の知り合った魔法職スペルユーザーって変わりダネばっかだな。

錬金術師だの死霊術師だの、召喚師だの。

俺は精霊術師だし。


ノーマルな方は砦のオスマンぐらいしか知らない。

まあ、まれびとを受け入れてくれるのは自然、変人ばかりなのかもしれない。

そう考えると道は長そうだ。


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フラメル邸の2階テラス。

夜風が涼しく、心地いい。


もう時間は深夜であり、イリムやカシスなどはすでに寝床についている。

用意された客室は豪華なもので、いつもの安宿とは比較にならない。


テラスから遠くの大樹海を眺めていると、後ろの扉が開く音。

振り返るとアルマが立っていた。

さきほどのパーティの格好とは違い、すでに寝間着……というよりネグリジェのような服に着替えている。

そろそろ寝る、ということだろうが格好が格好なだけにすこしドキドキする。

目のやり場にこまり、また樹海を眺める。


「師匠さん、来てくれましたか」

「あっ、ああ」


だせーな、すこし声が詰まってしまった。

緊張している……んだろうか。

いやいや、アルマは仲間だし、これから過酷な旅にでるのだ。

ふわついてる場合ではないのだ。


「となり、いいですか?」

「えーと……どうぞ」


アルマがぴったり横にならぶ。

腕がすこし触れ合う。


「みけちゃんにしたように、あなたにも選択肢を提示してもよいですか?」

「選択肢?」


「私はフラメルの当主で、つまりいずれはお世継ぎを産まなければなりません」

「……まあ、貴族とか領主はそうなんだろうね」


「それでですね、師匠さんにも以前説明しましたけど、錬金術と精霊というのは切っても切り離せない関係にあります」

「ああ、四大精霊ね」


俺が答えた後も、アルマは沈黙を保ちじーっとこちらを見つめている。

たっぷり5秒ほどたって、彼女の方から口を開いた。


「えーと、あの……ここまで言ってもわかりませんか?」

「うん?」


アルマが顔を赤らめてもじもじしている。

ちょっと初めて見る反応で、5秒ほどフリーズ。


うーんと、つまり……ええと。

いや、そんなバカなことあるわけ……。


「……わかりました。仕方がありませんねあなたは。私から言いましょう」


コホン、とアルマが咳払い。

しかし彼女もなかなか口をひらくことはない。


ふたりで黙って固まっていると、その空気を切り裂くように庭園のほうから爽やかな大声が響いた。



「ベルトラン・ペルト・フラメル!ここに帰還生還!!」


ビシィイイッ、と金髪の男性が庭園の真ん中でポーズをとっていた。

こころなしか彼の周囲が光り輝いている。

金粉とか、いろいろ。


「……お兄様?」

「おお、我が妹よ久しぶりだな!いま帰還したぞ!」


男性は助走をつけてこちらへ走ると、とうっ!と叫びそのまま2階のテラスまでジャンプを決めた。

すたっ、と華麗に着地をきめ目の前で優雅に立ち上がる。

無茶苦茶である。


「やあやあ我が妹よ、兄君は大冒険を繰り広げ、今宵こよい生還した!

 今回の冒険譚もすごいぞ……と、うん?」


こちらをまっすぐに眺める長身の青年。

瞳はアルマと違い青く、髪は同じうすい金髪。

顔の輪郭といい目鼻立ちといいくっきりとした超イケメンである。

どちらかというと日本人より欧米人にウケそうな顔だ。


「キミは?まさか夜闇にて侵入した変質者ではあるまいな!」

「いや、冒険者です」

「なるほどたしかに。このフラメル邸への潜入夜這いはなるほど冒険といえよう、しかししかしだ!」

「お兄様、この方が精霊術師の師匠さんです」

「なんと!」


イケメンの青年はガッデム!といった感じで顔をくいっ、とあげ手をそえ天を仰ぐ。

……いちいち動作がオーバーだった。


「キミがそうか!いつも我が妹が世話になっているな!」

「あ、いえ」


しっかと両手を握られ、上下にぶんぶん振られる。

腕がすこし痛いですね。


「ということはアレか!?お邪魔だったか?コレから子作り……がべっ!!」


アルマのグーパンがお兄様のキレイなお顔にクリーンヒットした。

顎にもろだった。

泡を吹きぶっ倒れる金髪青年。

倒れるときも気のせいか金粉が舞っていた。


「……はあ、まったく」

「えーとアルマ?」


転がってピクピクしている青年を足で小突きながら、


「ベルトランお兄様、表むきのこの館の当主さまですわ」と。

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