第60話 「指差し」
「というわけで」
「というわけですか」
みけに指を指されたイリムはまったく動じない。
『
昨日の今日でイリムを連れ出し、お昼の墓地へ。
広大な墓地も最初はすこし怖かったが、こうして連日訪れていると公園やなにかと変わらないな。
必死に指差すみけも、ふつーの少女にしか見えない。
「……ぐっ……また紫のお姉ちゃんの仲間が増えた……」
と唸るみけだが、明らかに俺のときと態度が違う。
やはり、女の子はもふもふしたケモミミに弱い。
……まあ、もちろんそうじゃない女性もいるだろうが。
「あなたがみけちゃんですか、こんにちはイリムといいます!」
場を読まない元気な挨拶。
挨拶はやはり大事。
お米も大事。
みけはしばらくパクパクしていたが、小さな声で「……こんにちは」と応えてくれた。
------------
イリムとみけは、すぐに仲良くなった。
少女はキラキラとした目でイリムの耳やしっぽを撫でている。
みけのなんで、どうしてという質問に次々答えるイリム。
「……こんなかわいい人がいるなんて……」
「あははは! そうでしょうとも!」
イリムは上機嫌やな。
しかも彼女はずばずばと、聞きたいことや聞きづらいことにも踏み込んでくれた。
「みけちゃんはどうしてあのお屋敷に。いつからです?」
「一年ぐらい前かな……孤児院にいた私をご主人さまが救ってくれたんです」
「ご主人さまって、屋敷の一番偉い人?」
「ラトウィッジのご当主さまで、もうずいぶんご高齢です。
だから私がアリスを継承しなければラトウィッジは途絶えてしまうんです」
「アリスちゃんて誰です? みけちゃんに関係ある人?」
「アリスは代々、ラトウィッジを繋いでいく者です。
その資格を宿したとき、私はアリスになれるんです。だからみけは、その途中に過ぎません」
やっぱりイリムを連れてきて良かった、と思うのと同事に、情報を引き出すためだけに彼女を連れてきた事実に嫌になった。
ミリエルでもみけでも、どちらでもいい。
イリムの質問にニコニコ答える少女を見ていて、質問よりもやるべきことがあるだろうと思った。
------------
運動系……はだめだな。
イリムは常人離れした身体能力がある。
例えばドッジボールなんてしようものなら、俺はゴレイヌさんの二の舞になる。
頭脳系……は道具がない。
将棋のようなものは見かけたことがあるし、カードでの賭け事は酒場でもよく見る。
そのうち買ってみてもいいか。
となれば、アレしかなかろう。
「……かくれんぼ?」
「みけちゃんは知らないか」
「私は村で昔、よくミレイやカジルとやりましたよ」
「へえー」
カジルさん少年期か……あんま想像できねえな。
逆にイリムは今より小さい姿が想像できない。
イリムがみけにルールを説明している。
遊び場所を決めて、その範囲からでたらダメ。
鬼がしばらく目をつぶり、その間に他の人は隠れる。
そのあと、鬼が隠れていた人を探す。
すべての隠れた人を見つければ鬼の勝ち。
鬼が降参するまで隠れられていればその人が勝ち……とほとんど俺が知っているものと同じルールだ。
だが、普通はなにかを賭けるというのは衝撃的だった。
子どもの遊びじゃねぇのか……。
で、あればさっきから後ろで隠れているヤツも呼ばないとな。
「おい、ユーミル。バレバレだぞ」
「……ちっ」
すごすごと墓石の後ろからユーミルが出てくる。
命のかかった状況であれば、彼女が隠れていても俺が気付くわけがない。
現に、あの地下下水道では攻撃のその瞬間まで、尾行されていることなどわからなかった。
無意識的に、ここでは気が付いて欲しかったのだろう。
「…………その人は……」みけの表情が険しくなる。
ユーミルはなんだか辛そうだ。
「……あのな、ミリエ……」と呼びかける言葉を「そんな名前知らない!!」とみけが遮る。
「どうしてお姉ちゃんは、私を知らない名前で呼ぶの!
私の名前はみけ!そしていつかアリスになるの! そんな……ミリエルなんて名前私には関係がない!!」
ぐっ……とユーミルが押し黙る。
それは、普段の彼女を見ているものからすると信じられないぐらい、人の言葉にショックを受けているように感じる。
彼女はもっと、マイペースで、傍若無人なヤツだ。
つまり、みけの言葉に相当堪えているということだろう。
「ちょっと、みけ。いいか」
「なんですか」
「この紫ローブの女の子は、妹が行方不明でな。
その子にキミがすごい似ていて勘違いをしているんだ。悪く思わないでほしい」
「そうなんですか?」
「あと、ちょっと変なヤツだけど俺たちの友達だ。
それとこれが一番大事なんだけど、ただキミと仲良くなりたいだけなんだ……変なヤツだからそれが不器用なだけでさ」
「…………。」
2回も変なヤツ呼ばわりされたからか、背中にドスドス、と鉄の棒かなにかでツッコミをいれられた。
これ、武器だろうな……たぶん。
ただ、否定をしないところをみるに、俺の作戦に乗ってくれるつもりらしい。
「わかりました。いいです。
仲良くするかは別として私に害意がないのはイリムさんと……ええと、師匠さんが保証するんですね?」
「当たり前ですよ!」
「するする、むっちゃする」
「それに、かくれんぼの説明を聞くに3人よりは4人のほうが楽しそうなので」
「……いいのか……」
ユーミルはまだモジモジとしていて、いつもの様子からは考えられない。
「じゃあ誰が鬼をやります?」とイリム。
……そうだな。
ここはこの遊びが初めてなやつに、好きな役をやらせるのがいいだろう。
「みけが選んでいいぞ」
「……えっ?」
「たしかにそれがいいですね!」
「…………。」
みな反対せず、じっ……とみけの答えを待つ。
彼女は「わかりました、じゃあ師匠さんが鬼で」と俺を指差す。
その指差しに、呪いもなにも関係がないのが嬉しかった。
彼女のその行為は、いつも他人を排除するためのものだったから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます