第39話 「ふたりのまれびと」

カシスたちが図書館で調べたまれびとの話を聞く。


「…………。」


残念ながら、なぜ飛ばされてきたのかなどの情報はなかった。

発見され次第殺されてしまう都合上、仕方がないのかもしれないが。


だが、なぜそこまでこの世界の住人に恨まれている、あるいは恐れられているかはわかった。


「【氷の魔女】……まあ私も話には聞いたことがあるけど、ここまでちゃんと調べたのは初めて」


地図を広げる。

大陸の中央にはアメーバのようにのたくる十字の黒森。

その十字の右下は王国で、さらに右端は大樹海。

左下は西方諸国。右上と左上は帝国。



……その帝国の北側から侵食するように白い染料がギザギザに塗りたくられている。


「これが、【氷の魔女】の領域」


つまり、この大陸の、帝国より北はすべてそいつの領土というわけか。


「元はこれより北の【魔王】の国に対抗していた国みたい。

 でも1000年前にその国が、500年後には魔王の国が消滅。

 以後、北からじわじわと領土を広げているそうよ」


「……この、白い、魔女の領域はどうなっているんだ?」


「永遠の冬、と呼ばれるずーっと南極みたいな場所。

 当然、まともな生命は存在しない」


地図を再度眺める。

北から迫る白い塗料。

それらすべてが、死の領域なわけか。


「この、【氷の魔女】はまれびとなんだって。

 人類共通の敵ってわけ。これが理由その一ね」


「…………。」


こいつが、この北から迫る死の現象を率いているのがまれびとなのか。

にわかには信じられない。


「そういえば、まれびとは魔法が使えないはずだけど……こいつは?」

「さあ? 私も【魔女】って聞いたときに疑問だったけど、どうもこいつが使ってる力は魔法や魔術じゃないそうよ」

「ふむふむ」


「今まで数え切れないくらいの魔法使いが彼女の……『冬の領域』に挑んだけど、まったく歯が立たなかった。たった1ミリですら押し返すことも」

「……。」


「まったくルールが違う異質な力。吸血鬼だとか死神だとか、バケモノ特有の異能チカラ……だと判断されてる」


魔法でない、不思議な力……か。

そんなもの、魔法がない『あの世界』から来た存在が、なぜ持っているのだろうか。


「……で、ふたつ目が【炎の悪魔】

 こっちはほとんど記録がない」


「とにかく大昔に暴れまくって、あっちこっちで被害がでた。

 何度追い詰めても逆に被害が増すばかりで、手に負えなかったそう」


「それで、そいつのかつての仲間の戦士を使って、なんとか討伐したそうよ。

 こいつが理由その二」


イリムにまえ聞いた、両名の大暴れしたまれびと。

まえよりは詳しい話は聞けたが……さて。


「飛ばされてくる頻度とか、場所の偏りとか、傾向は?」

カシスは首を振る。


「三ツ星のカードがあればもっと上の閲覧許可がでるかもしれないけど、私たちにはここまで」

「ふーむ」


【氷の魔女】についてはある程度わかった。

彼女の仲間かもしれないから排除するという思想も、ギリギリわからないでもない。

共感はまったくできないが。


「そういや、教会の異端狩りって知ってる?」


ローブの少女と戦闘になった相手で、まれびと狩りを熱心に行っているとか。

名前だけ聞くと代行者みたいな連中だろうか。

……カシスは嫌なもの聞いたなぁ、という渋い顔をした後、


「教会、ってこの世界の一大宗教があって、そこの過激な連中。

 悪事に手を染めてるような魔法使いを狩るぶんにはいいんだけど、冤罪もすごく多い。特に、まれびとには容赦なしの拷問が待ってるわ」


ほんとに代行者だった。


「獣人にも、あからさまではないとは言え差別的」

「ふてえ連中ですね!」


「ただ、教会の総本山も、奴らの本部も、北の帝国領にあるからわざわざ南にまで来てる連中はまれかな。白装束の三角帽子が目印だから、遠目でもわかるし」


「えーと、格好が一律同じなの?」

秘密警察のようなものだとすると、バレバレではおかしいのでは。


「見かけるのはそうね。……ただ、もしかすると調査役みたいな人はいるかも。

 そうすると白装束で目立たせるのも偽装の一部になる」

「なるほど」


「教会自体はそんなに悪い連中じゃないわ。

 回復とかの奇跡の使い手はだいたいあそこの出身だし、冒険者にとってはありがたい組織ね」

「ああ……そういやヒーラーは貴重なんだっけ」


冒険者の宿でもギルドでも、神官は珍しい。

生き死にに直結するため、どこのパーティでも引っ張りだこだ。


「とにかく、白装束には注意して。

 南には数は少ないとはいえ、そのぶん手練が多いから」

「もし追われたら?」


「この街だったら、逃げて逃げて、地下に誘い込んで始末するのが一番かな」


うーん……やはりデンジャラスな世界、

ここはマッポーの世か。

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