第20話 「錬金術師アルマ」


「私はアルマーニュ・ペルト・フラメル、冒険者にして錬金術師です。

 アルマとお呼びくださいね」


 にこにこと微笑みながらこちらを見てくる。

 どうもやりづらいな。


「私はクミン村のイリムといいます。

 通り名として【槍のイリム】を名乗る予定です」

「はい、イリムさん。どうぞよろしく」


 俺はどうするか。


「……故郷の村を飛び出してきて、親に探されたくないので本名を隠している。

 だから渾名あだなでいいか?」


「どうぞどうぞ」

「師匠、とこの子に呼ばれている」


「ちょっと! また私のこと子ども扱いしてますね!」

「すまんね」

 もーっ、と怒るイリムをなだめ話を続ける。


「今しがた冒険者登録をすませた新米だ」


「それと、精霊術師なんですよね?」

「ああ、……まあ」


「あんまり新人をからかうもんじゃないぞ、アルマ」

 カチャリ、と紅茶をカウンターに並べながら親父さんが言う。


「失礼な」とアルマが紅茶を優雅にすする。

「「いただきます」」とイリムとふたりして礼をいい、こちらも紅茶を……いや、まだ熱々やん。すごいなこの人。


 イリムは案の定、猫舌ならぬ犬舌なのか、なにやら呟きながらヒーヒー言っている。


「もう、親父さんは気が利きませんわね」


 とアルマは懐から小さなガラス瓶を取り出し、中身を紅茶のソーサーに数滴落とした。するとみるみるうちにその上に氷が3つ現れた。


「イリムさん、これで少しはマシになりますよ」

「……あ、ありふぁふぉ」


 がっ、と氷をすべて掴み、口に叩き込むイリムさん。

 俺もひとつ、欲しかったんですけど。


 ------------


「それで、本題です。

 次に請ける依頼、私と協力しませんか?」


「いいですね! パーティ組もうぜというやつですね!」

 ふむ。


「俺も、ふたりでやるのは少し心配だったから賛成だけど……アルマさんにメリットは?」


 親父さんとのやり取りをみて、どうみてもここの顔なじみである。

 つまり先輩の冒険者だ。


 今日なりたてのペーペーと組む利点が見当たらない。


「駆け出しだからこそベテランを付けることもあるぞ」と親父さん。

 へえ、なにげに福利厚生しっかりしてるのね。


「それもありますが、森を抜けたという話が本当なら、中級程度の実力はあるわけです。もちろん、冒険者として知らないことはたくさんあるだろうし、未熟な部分もあるでしょうが」


「そうだな。俺は近接の戦いは苦手だし、回復なんかもできない。

 ……そういや、調査だの鍵開けだのできる人もいないな」


 いわゆる盗賊シーフ斥候スカウトスキルである。


「私は耳と鼻は利きますよ!」

「そうね」


 獣を前もって察知して迂回したりと、森ではずいぶん助かった。

『気配探知』スキルだな。


「幸い、私は目も手先もよいので、シーフ役も務められますわ。

 本職には敵いませんけど」


「魔法も使えて鍵も開けられるなんてすごいですね!」


「頭脳で劣れば術理がわからず、

 不器用では工房作業ができませんので」


 エリートちゃんか。


「ちょっと失礼だけど、アルマさんはどれぐらい強いの?」

「アルマ、でいいですわよ」


 と、ゴソゴソと懐から金色の名刺のような物を差し出す。

「中級、三ツ星の冒険者です」


 金色の金属製のカードには大きく星がみっつ刻まれ、その下にいろいろと文字が綴ってある。○ンターライセンスかな。


「すごいですよ師匠!

 アルマさん、すごい冒険者ですよ!!」

「え、ちょっと説明して」


「初級、中級などは村での訓練で説明しましたよね」


「大まかな強さや技能のランクだよね。それはわかる」

 中級でクマやカバに安定して勝てるぐらいとか。


「師匠に説明しましょう。冒険者も基本は初級、中級、上級とあるんですが、それとは別にギルドが認めたランクがあります」

「それがさっきの?」


「私たちは駆け出しで、このペラペラの紙が身分証。

 しっかり功績を出していけば、正式に冒険者と認める金属製の証明書がギルドからもらえるんです」


「金色で三ツ星……ってことは一ツ星、二ツ星もあるのか」

「そうです。星ひとつもらって初めて一人前と認められるとか」


「でも、あー……呼び捨てでいいんだよね」

「はい」


「アルマは実力では中級だけど、評価……というか功績では上級ってこと?」


「錬金術師は本来、戦いにでるようなものではないですからね。

 それと私の場合、いろいろと小器用なもので。

 ギルドにアーティファクトを卸したりもしてるので」


 つまり、研究職だけど戦いもそつなくこなせる、と。

 マジのエリートちゃんじゃないですか。


「ええと、改めて確認だけどそんなすごい人が新人ふたりとパーティを組む。

 ……本当にいいんですか?」

 思わず敬語になる。


「私の場合、あちこちに移ろいながらの生活なので、固定のチームとはいきませんが。今回はぜひ」


「じゃあ、お願いします」

「お願いします!」


 こうして、一時的にだが仲間が増えた。

 しかもかわいい。

 かわいいは正義だ。

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