第14話 「シンボルエンカウント2」
ガルムさんに倣って、ドアをけたたましく蹴り開ける。
彼ほどではないが、いくらか怯ませる効果もあるだろう。
部屋に飛び込むと、イリムが3人の男に囲まれていた。
「師匠!」
「――チッ! こっちの援軍じゃねぇのかよッ……ごがっ!?」
イリムに隙を刈り取られたひとりが喉を押さえながら崩折れると、残りの2人が警戒を強めた。
「新手のふたりです。練度が高いので注意してください。
――こちらもふたりで頑張りましょう」
こちらへ、強い眼差しでそう告げる。
「…………!」
そうか、今はイリムと俺しか……!
イリムの意図に気づいてすぐさま、『火矢』を左の男へと投じる。
驚愕に目を見開いた男はしかし、すんでのところで攻撃を
「――魔法使い!? こんなクソ田舎にっ……?」
ほぼ完璧な不意打ちを避けられたことに驚くが、ぎりぎりフェイントの効果は果たしてくれたようだ。
素早くイリムの槍が滑る。
左の男が「アレ?」と背中を押さえながら後ろへ派手に転倒した。
残りひとり……と俺の気の緩みを読んだのだろう、瞬きの間に右の男がこちらへ突進していた。
男から滑る刃を黒杖で弾いたが……力か、練度か。
恐らく両方足りなかったのだろう。
攻撃をわずかにそらすだけに終わった。
左の脇腹がぱっくりと切り裂かれる感覚。ついで激痛出血。
だが痛みで常識が麻痺したのか、そのまま脇と腕で締め、相手の得物を固定した。
「――なっ! クソ、離せよッ!!」
それが相手の最後の言葉になった。
「師匠!!」
駆け寄るイリムに、急いで傷を
「痛い……痛いからもっと丁寧に……」
こちらの抗議もむなしく、かなり手荒に扱われているような……。
それともこういうときはスピード勝負なのか……。
直後に傷口をきつく締められ激痛が走る。
痛みで言葉もでない。
「よかった……傷は表層だけです。いま止血もしたのでもう大丈夫ですよ」
にこっと笑うイリム。
「それに防御もよくできました」
「あれで……成功してたの?」
「そのままなら心臓グサリでしたよ」
「…………そか」
壁に手をかけ立ち上がる。
「…………動けますか」
「ああ」
まだ戦いは終わっていないのだ。
2階に上がると、カジルさんガルムさんに、子どもが5人。
ほかは皆今まで通り。
ミレイちゃんは……いない。
まさか、とあたりに転がる死体に目をむけるが、幸いといっていいのかどうかだが、子どもの死体はない。
「奥だ」
全身血まみれのカジルさんが呟く。
どうやらすべて返り血というわけでもなく、細かな切り傷がいたるところにある。
だが、致命傷がひとつもないのはさすがというべきか。
彼の指す部屋の奥を見ると、本棚が倒された先にもうひとつ扉がある。
「ミレイと、あと隣村の子だ。
奇しくもこちらとおなじ4人か。
……いや、棒術では半人前の俺を抜いて、さらに子ども2人は人質だろう。
「首魁は……恐らく俺やガルムよりも使う」
状況は圧倒的に不利だった。
……これはもう、そうだな。
「ミレイ……」と、心配そうに奥の扉を見つめるイリムの頭をぽふんとなで、振り返った彼女の瞳に告げる。
出し惜しみはなしだ。
「カジルさん」
「なんだ」
「部下の3人はどの程度ですか」
「イリムより少し劣るぐらいがひとり、バンダナを口元で隠したやつ。
……他は雑魚だ」
とすると、首魁とそのバンダナに正面からの『火矢』は通じないとみていいだろう。
さきほどの攻防で目の当たりにしたが、この世界の「それなり」の連中は、正面からの不意打ちの『火矢』程度は躱せるのだ。
『火弾』とはいかないが、かなりの速さで投射してるのだが……。
だが……なら、とるべき手段は明白だ。
「イリム」
「はい」
「イリムは俺の『火弾』を正面から撃たれて避けられる?」
「ええ、まあ」
まったく問題にならないといった顔だ。
「俺が術使いなんて知らなかった場合、例えば格下にみてた野盗が突然それをしてきたら?」
「……ギリギリ、なんとかなりますかね」
「それが2発同時なら?」
うーんと悩むイリム。
「難しいです」
「わかった」
「カジルさん、ガルムさん……話があります」
ふたりに、手短に伝える。
自分は精霊術が使えること、それは武器たり得ること、そのうえで作戦があると。
カジルさんは終始黙っていたが、ガルムさんはそうではなかった。
そして彼はとても優秀だった。
「いつ、誰から教わった?」
「…………。」
「オマエが村にきたあの日、オマエにはなんの力もなかった。
生きる術も戦う術も。そんなことはオレにもカジルにもわかる」
「……ええ」
「この村に来て、暮らして、どこでいつオマエはその術を得た?」
「……木から落ちたとき、竜の老人から授かりました」
竜の老人、と口にしたところでガルムさんの右腕が強く振るわれた。
その手には彼の長剣が握られている。
がしっ、とイリムがガルムさんの腕を掴む。
「イリム、離せ」
「ガルム、いくらなんでも殺すのはやりすぎです。
そうでしょう、カジル」
話をむけられたカジルさんは、静かに答えた。
「イリムの言うとおりだ。ガルム、得物を下ろせ」
「……だが」
「たとえ竜骨の眷属だろうと、男の精霊術師の扱いは一律同じ。
……村からの追放だ」
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