そのエクゾが全て

 膨張ぼうちょうした巨大都市国家は終焉しゅうえんを迎えつつ合った。

 各指導者に率いられた、幾つもの組織が争いあい、しかし国境たる都市の輪郭りんかく封鎖ふうさされて民衆の脱出は許されなかった。

 死肉しにくにありつこうと、周辺の国々はすでに利権争いを開始していた。

 誰が、その都市国家のどの部分をいずれ管理するのか。その皮算用かわざんようだけで争いが起きるほどである。

 軍事力が高く、電子機器に用いられるレアメタルなどを豊富ほうふに保有している国で、直接的な戦争はどこの国も避けていたが、そろそろ潮時だ。

 多方から攻め込んだ多国籍の軍隊は、思いもよらぬ『歓迎』を受けることとなった。

 巨大都市国家は排他はいた的で閉鎖的だったため、情報がうまく各国に行き届いていなかったのだ。

 すなわち、その都市国家はまとまり直していたのだ。

 一人の権力者が全てを統括し、一斉に軍事力で押し返そうとした。

 都市国家には別の某国が開発したハッキングシステムの技術があったため、周辺国はドローン兵器を控えめにし、通常兵力による進軍を開始した。

 大型の非核・通常爆弾による空爆で都市国家周辺の地雷を無力化し、進軍していく周辺国。

 とある、軍事等の研究者の青年も、巨大都市国家の防衛作戦に参加した。

 その青年は、全身を黒い強化外骨格エクゾスケルトンに包んでいた。

 まさか、自身が研究していた強化外骨格エクゾで当の自分が実戦投入されるとは、ある意味自業自得じごうじとくなのかもしれなかった。

 全身にフィットするように作られた大型の衣服のようなそれは、驚くべき新兵装でもあった。

 従来、強化外骨格エクゾというものは身体機能の強化・拡張を目標として開発された兵器だ。

 一定クラスまでの弾丸や刃を防ぐ強靭な繊維や装甲でできているのは当然として、何メートルもの跳躍や、握力を何百キロから数トンにも引き上げたりできる。

 そのくせ、かさばらないために歩兵の単純な兵力増強に役立ち、今でも戦争に使われている。

 それ以上のものはパワードスーツや、さまざまな大きさの身体機能の拡張型の兵器として、さまざまな名称で呼ばれている。

 そして、話は青年の開発した強化外骨格エクゾに戻る。

 彼の輝かしい戦歴を見てみよう。

 彼の持つ大振りの剣はとある物理現象の発信装置だ。

 数キロの間合いから機甲部隊を両断し、戦車や装甲車は爆炎に包まれた。

 その異様な攻撃の危険性に気付きつつも、多国籍の軍隊は熱源などがほとんどないため、一方的に撃破されてしまった。

 彼はすぐ、逆方向の敵軍に現れた。

 やっと探知した多国籍の部隊が狙撃を敢行するが、狙撃兵や戦車の弾丸に砲弾が青年に着弾すると、それは反転して狙撃兵や戦車に着弾した。

 何回か繰り返して、ようやく攻撃が反射されていることに気がついた敵部隊だったが、『大剣』によりあっさりと機甲部隊が壊滅状態に追いやられ、その戦線は都市国家の残存兵力により、掃討戦に移行した。

 さらに別の方面部隊でも同じことが繰り返された。

 大型爆弾で周辺ごと焼き尽くす作戦を多国籍の部隊が行った。

 いくら反射ができようと、周辺一帯を爆風とともに燃やし尽くせば、撃破できる。

 しかし、その巨大弾頭を撃ち込んだ部隊の中心、装甲車から身を乗り出した敵の指揮官の目の前に青年は立っていた。周囲をぐるりと一閃し、周辺の装甲車たちを薙ぎ払ってその威力を見せつけて別線戦線に移動していった。

 あまりの対応の早さから、少人数による部隊だと多国籍の軍隊は推測したが、本当に彼はたった一人だった。

 青年が開発し、装着している強化外骨格エクゾは超小型化された核融合電池を搭載し、その莫大な出力によるエネルギーは全てその特異な性能に使用されている。

 強化外骨格エクゾの基本性能は持ち合わせているが、そのオミット案が出るほどのおかしな性能だった。

 短距離限定ではあるが、空間を歪曲わいきょくさせるワームホールを生成でき、強化外骨格エクゾに攻撃があれば、即座に座標を反転させて、つまりは攻撃の反射を行える。座標を計算し確定さえしてしまえば瞬間移動もできる。

 反射するだけである前者は自動で行われるが、後者は計算がやや厄介だった。

 運動神経よりも計算や電子計算機の扱いに長けた人物、当の開発者に白羽の矢が立ち、彼はその装着者となった。

 空間歪曲現象の発振器たる『大剣』は数キロの間合いで直線上の攻撃を行える、次元の切断装置だ。攻撃が線状なのは、少しでもエネルギーの消費を抑えるためだった。

 多国籍の部隊はそれでも相手は都市国家一つと思い、とにかく軍事力の投入を続けた。

 特に歩兵部隊を分散させて投入し、被害の分散化に勤め、これは功を奏した。

 核融合の出力からすれば、何日かは継戦が可能だったが、装着者は本来デスクワークの青年である。何時間かに一回は休息をとる必要があった。特に、水分補給ほきゅうは必要だ。

 その間も次々に多国籍の部隊は都市国家に侵入し、入り組んだ戦線を拡大していった。

 ついに多国籍の部隊の戦線は都市国家の中心部までたどり着き、制圧作戦を行おうとした。

 激戦が行われようとしていたが、その戦いはあっけない幕切れを迎えた。

 度重なる出撃やこれから泥沼の戦争になることに嫌気が差した研究者の青年の手によって、都市国家の指導者たちが抹殺されたのだ。

 研究者の青年は自身の開発した技術を提供することを条件に、多国籍の部隊の撤退を請うた。

 単純な延命措置だったが、効果的ではあった。

 その後、多国籍の部隊の各国が空間歪曲や核融合炉やその小型化技術を本国に持ち帰った。

 こんな革新的な兵装を他の国が持たせるわけにはいかないと、元・多国籍の部隊は戦争を再開した。

 都市国家は放っておいて、多国籍の部隊同士で戦争が開始された。

 青年の技術は強大すぎ、各国は戦争や内戦に明け暮れ、数年で勝手に崩壊してその青年、都市国家の支配下に置かれたという。

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